第14話 スターマインド・インフィニテット・ダーク・リージュ



「ふふふ……ふ、はっはっはっはぁ〜!! すごいすごいぞわれ!! こんなものを発明してしまうなんて……。これは世界を揺るがす大発明だッ!!」


 誰もいない、真っ暗な迷宮の部屋。


 スターマインド・インフィニテット・ダーク・リージュもとい、リージュは手に持っているものを見ながらそれはもうオーバーリアクションで自画自賛した。


 手に持っているのは、棒。ただの棒。

 見た目こそは、どこにでもありそうな棒なのだが作った本人がひっくり返るほどの発明品。

 

 これ、勇者くんに自慢したいなぁ〜。

 ん? そういえば、勇者くんたちってどこに行ったんだろ?


 リージュがいるこの場所は、もともとココの助のお姉さんが住んでるとされている部屋。


 ん? なんで真っ暗なんだ?


 その時ようやくリージュは、異変に気がついた。


 なんで、変態エルフたちはいないんだ?

 勇者くんとココの助くんは、外に散歩に行ったのは知っている。だけどあの、薄気味悪い笑い声の二人がいなくなったのは聞いてない。


 われに言わなかっただけで、外に出ていったのか?


 リージュはよく状況が理解できなかったため、考えるだけ無駄だと思い部屋を出た。もちろん、さっき作った発明品を服の下に忍ばせながら。


 ガチャ


「お〜い。誰かいないのかぁ〜??」


 し~ん


 部屋の外、迷宮の中は静かだった。

 魔物の姿も見えない。


 まさかみんなわれのことをおいて、どこか行っちゃったんじゃ……。


 リージュは誰もいなくなったという事実を受けて遠い昔、本当に遠い昔に体験した孤独感をじわじわと思い出していた。


 

 嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌。

 なんで、われ、なにか、悪いこと、した?

 何もしてない、われ、なにも、してない。

 はつめい、はつめいひんつくってた。

 だから?

 わたしが、あのとき、みたいに、いうこときかないで、はつめいひん、つくってたから、いなくなった?

 わたしのせい? 

 わたし、が、わるい?


 

「だめだめだめだめ……」


 リージュは幼い頃のトラウマを思い出しそうになり、慌てて止める。


 そもそも、発明品を作った程度で勇者くんたちはわれのことをおいてどこか行くなんてありえない。とりあえずそういうことにしておこう、と思い昔のことなんて頭から振り払って足を前に進める。


 なんでこの迷宮に誰もいなくなったんだ?


 いつもなら発明にしか使わない脳をフル稼働させ考える。


 そもそも、あの薄気味悪い笑い声の二人がいなくなったのがわからない。別に部屋のものが荒らされた形跡はなかったから、誰かに攫われたとかそういうのしゃない気がする。


 ってことは、自分の意志でどこかに行ったってことになる。


 でもどこに? 

 わかんない。われは変人の思考など読めない。ただの天才発明家。

 

 リージュはいつもなら何かを作るとき連鎖するように答えが出てくるのだが、思うように答えが導き出せず、心にもやに覆い隠されたようにむずむずしていた。


 上手くいかず、駆け足のような速さで歩いてる気がする。


 自称賢者であり、天才発明家であるリージュにとってというのは死語に近いもの。


 それに直面しているリージュは、今までにないほど苛立っていた。


「もう、どこだ勇者くん!!」


 走る。

 考えてもわからないということを認めて、リージュは誰もいない迷宮で大声を出しながら全力疾走する。


「どこ!?!? 変態エルフ!!」


 し〜ん


 返答はない。走れど走れど、誰にも会わない。


 なんでいないの?

 もう、本当にわれのことをおいてみんないなくなっちゃったんじゃ……。


 リージュが諦めかけている、その時だった。


「「うぉおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 どこからか魔物の大歓声が聞こえてきた。


「なに?」


 足を止める。

 リージュは、また大歓声が聞こえてくることを祈って耳を澄ます。


「きたぁああああああああああ!!!!!!」


「聞こえた!」


 今のは大歓声じゃなく、興奮したような声だったけど確かに聞こえた。


 声がしたのは左側にある通路の先。

 ここから見えるのは、通路の先からなにかの光が差し込んでいるということだけ。


 声、というか歓声を聞いてこの先に沢山の魔物たちがいるのが予想できる。


 そっか。置いてけぼりにされたんじゃないのか。


「よかったぁ〜……」


 リージュは、昔のようなことになっていなかったので思わず安堵のため息をついた。


 いや、まだ自分の目で見るまで安心できない!

 リージュは賢者であり、天才発明家。推測だけでは、納得できない自分がいる。

 

 タッタッタッ!


 軽快に体をゆらしながら、光が差し込んでいる先に走りその場所にあったのは……。


「勝者、勇者ッ!!!!」


「「勇者!! 勇者!! 勇者!!」」


 なにか、岩の瓦礫のようなものの前で誇らしげに両手をあげている勇者くんと、大声で「勇者」と叫んでいる観客。


「勇者くん……ようやく見つけたぞ」


「げ。マッドサイエンティスト。お前……他の奴ら、監禁されてるのになに一人だけのうのうと現れてんだよ」


 監禁……?

 なんでそんなことされてるの?


 他の人たちが監禁されてるのなら、「スターマインド・インフィニテット・ダーク・リージュ! 君は無事だったんだね!!」とかいう心配をする場面なんじゃないの?


「ふっ、それをわれに聞いてどうする。それよりもわれは勇者くんに見せたいものがあって、わざわざここまで走ってきたんだ……」


「な、なん……」


「おっとぉ〜!?!? ここでさっそく、新たにチャンピオンとなった勇者に挑戦者か!?!?」


 挑戦者?? 

 なんか、聞こえてくる声と同時にかなり興奮してるのか荒い鼻息が聞こえてくるんだけど……。


 まっ、それよりも。


「勇者くん……。勇者くんって、火とか水がなくて困ったことってあるか?」


「……え? いや、あるかないかって言われたらある気がするけど……そんなこと今聞かないといけないのか? ちょっと取り込んでるから、発明品の自慢はまた後にしてほしいんだけど」


「はぁ?? 今回のはわれの超大作。勇者くんでも血反吐が出るくらいのだぞ!!」


 し〜ん


 リージュが言い放った言葉を最後に、勇者やこの場にいるたくさんの魔物たちが静まり返ってしまった。その反応を見て、さすがにちょっと誇張しすぎちゃったかな? などと思っていると……。


「こ、こ、こ、これは……チャンピオン、勇者に向かっての宣戦布告だッ!!」


「「うぉおおおおおおおおおお!!!!」」


 よくわからないけど、会場が揺れるほどの大歓声が響き渡った。

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