第13話 闘技場



「「勇者! 勇者! 勇者! 勇者!」」


「「魔物! 魔物! 魔物! 魔物!」」


 周りからの歓声は、耳が痛くなるほどのものだ。


 叫んでいるのは人間だったり、魔物だったり。魔の迷宮で過ごしていた人たちが全員、この俺がぽつんと立っている闘技場の観客席に座っている。


 何も説明をされず、目隠しと耳栓をして連れてこられたのでいまいち状況が理解できない。

 ていうか、よく迷宮の中でこんなドームみたいに広い場所作ることができたな……。


「みんな盛り上がっているきゃああああああ!!!!」


「「うぃいいいいいいいいいい!!!!」」


 なんだその語尾。

 お互いおかしいだろ。


「みんな……もうポスターを見て知ってると思うけど、改めて説明させてするぜ。今回の挑戦者は、はるばる洞窟の外からやってきた頭のいかれた野郎だぜ。そして挑戦する理由は、仲間を助けるため!! くぅ〜……その男気、泣けてくるぜ!! そんな仲間のためなら火の中水の中に入っちゃう、挑戦者は……勇者だッ!」


 いや、なんだよその説明の仕方。


 ていうか司会者の言葉を考えると俺今から、なにかに挑戦するのか?


「ひゅ〜!!」


「勇者かっこいい〜!!」


 よし、歓声が気持ちいいから何でも許してやろう。

 勇者である俺と戦うやつは一体どんななんだぁ〜?


「たぁ〜……いする相手は、この闘技場初期から挑戦者に黒星なしのこぉ〜の最強の魔物……ギガンドイルだぁああああああ!!!!」


「オレがギガンドイルだぁああああああああ!!」


 正面から叫びながら出てきたのは、俺のことを足で捻り潰すことができそうなほどでかい岩。

 体が、岩のようにゴツゴツしている。


「「ギガンドイル! ギガンドイル! ギガンドイル!」」


 そりやぁまぁ、闘技場の初期からずっといるんだ。


 かっこいい掛け声があってもおかしくないよな。うん。全然、「名前の掛け声があっていいなぁ〜」とか思ってないから。


 渚がうらやましく思っていると、ギガンドイルは渚の前まで来た。


「オレが?」


「「ギガンドイル!」」


「おっ前は?」


「「ギガンドイル!」」


「今日負けるのは?」


「「挑戦者!」」


「今日勝つのは?」


「「ギガンドイル!」」


「オレがギガンドイルだぁああああああああ!!」


「「うぉおおおおおおおおおお!!」」


 ギガンドイルは、観客たちとの掛け合いを渚に見せつけるかのように胸を張りながらしてきた。


 かっこいい……と思う。

 あれ? 俺、この空気にのまれてる?


「さぁさぁさぁさぁ……ギガンドイルが闘技場内に入ってきたということなので、今回初めての人のために簡単なルール説明をさせてもらいます。この闘技場、魔王幹部バンドゥ様の管轄となっています。なので今から言うルールを破ったときには、最悪がおのずれるとそう思っていてください」


 最悪って……。


 俺が見たときのバンドゥとかいうやつは、あきらかに茶番でバカっぽかったけどあいつは魔王軍幹部。

 その力魔物たちからと恐れられるは本物なのだと、忘れてた。


「ではまず一つ目は……挑戦者、そしてチャンピオンはお互いに信念をもち戦いを始めること。二つ目は、見ている観客たちは一切の介入を禁ずる。三つ目は自由に戦え。以上になります」


 なんだ。破ったら最悪が訪れるとか脅してきたのに、ルール内容はそんなに……というか普通の闘技場よりゆるいルールじゃないか。  


 戦い方は自由。


 そういうルールがあるのなら、いざとなったときアレ、を使うことができるな……。

 上手くいったらあいつに貸しができちゃうけど。

 

「さぁ〜両者! 戦う前の握手をするのだッー!」


「オウ、勇者。よろしくな」


「えっと……よろしくおねがいします?」


 ギガンドイルの手は、見た目同様岩のようにカチカチ。てか手がカクカクしてるから、地味に握手して手を握るとき痛いんだけど。 


 早く離してくれないかな。


「勇者。多分、勇者お前今日オレに殺されるからゴメンな?」


 ……なんだこいつの以上なほどの自信は。


 まぁ、闘技場で無敗なんだから負けることなんて考えたこともないと思うんだけどゴメン、とか対戦前の握手で言うか?


「いえいえ。あなたこそ今日俺に負けて、その自信がなくなっちゃうと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいです」


「ほほぉ〜ん……。オレが勇者に負、け、る! ことなんてないけどそ、れ、は! どんなふうになるのか楽しみだな」


 痛い痛い痛い痛い。

 やば。変に煽らなければよかった……。 


 てかこいつ、まだ戦いが始まってないのに握り潰す気かよ!


「さぁ、両者熱い気持ちをぶつけ合ったということで早速試合コールのほうに移らせてもらいます!!」


 いや全然熱い気持ちじゃなかったからな。

 どっちかというと、脅しみたいな感じだったぞ。


「では、開始コールをさせてもらいます……。えぇ〜みなさん! いつもの掛け声の準備はよろしいでしょうか?」


 ……え?

 もう始まっちゃうの?


 まぁ、やろうと思えば勇者のつよつよパワーで岩みたいなギガンドイルなんて、一瞬で倒せるからそこまで気負う必要ないか。


「戦いはぁ〜……?」


「「魔物が勝つ!!」」


 カーン


 ゴングが鳴った。

 何その掛け声。

 俺のこと応援してた観客者たち、急に裏切ってきたじゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る