第12話 よくわからん



「……ろ…………きろ起きろ!」


「へぼぶっ!」

 

 背中に痛みを感じ、飛び上がるように目が覚めた。

 両手両足が、紐のようなものでぐるぐる巻きにされていて動かせない。

 たしか、仮面集団に殴られて気絶したんだと思い出して周りを見渡す。


 バカでかい……部屋というわけじゃない。周りの壁が迷宮の中のようにゴツゴツとした岩でできているので、まだここが迷宮内部だと言うことがわかる。


 それよりも、だ。


 渚は正面にいる、大きな玉座にふんぞり返るように座っているその人物を見て鳥肌が立った。


 ドラゴンのように鋭い八重歯と、黄色い体を貫くような眼光。ああゆうのなんていうのかわからないけど、ライオンのようなフサフサな毛が。


 座っていてよくわからないが、多分身長はゆうに俺の数倍はありそうだ。


 体格や見た目からもわかるのだが、オーラや気迫でこの魔物がどれほど強者なのかは戦わずともわかる。

 

 それほどの人物。いや、魔物。


 その魔物をボディーガードのように囲んでいるのは、俺のことを気絶させここに移動させたと思われる謎の見てて痛い集団。


「おい、勇者よ」


 玉座に座っている魔物は、顎髭のようなものをさすりながら険しい顔をして俺を呼んだ。


 その魔物の声は低い。声だけで、相手のことを威圧させ同時に肌をひりつかせるような、そんな声。

 

「勇者よ。我は、魔王軍幹部にして獣の魔物を従えるリーヤス・ガルルグス・ダ・バンドゥだ。我が支配下である、魔の迷宮に立ち入ったということは覚悟はできているんだろう?」


「ごくり」


 ここがこいつの支配下っての知らないし。

 覚悟なんてできてないわ。

 うん、怖い。

 絶対今日俺死ぬじゃん。


 ごめんね。ぱぱん、ままん。


 あっちでも不注意で死んで、異世界でもよくわからないまま死んじゃいそうだよ!


「……というのを一度、言ってみたかったんだよね」


「は?」


 こいつ、今何つった?

 一度言ってみたかった?

 …………聞き間違いじゃないよな?

 俺、別に殺されない?


「バンドゥ様! 今はリハーサルじゃなくて、本物の勇者の前です!」


「……え? こいつ、本物なのか? それにしては覇気がなさすぎだろ。なんだこのヒョロヒョロ男は」


 はぁ? 

 なにこいつ。

 俺は、ヒョロヒョロじゃねぇわ。


「悪かったですね、覇気がなくてヒョロヒョロで!」


「ひっ……ヒョロヒョロ男が喋った!?」


 なんなんだこいつ。まじでなんなんだ?


 ……ってこいつはどうでもよくはないけど、今はどうでもいい。


 それより、俺が気絶する前お姫様抱っこしていたココちゃんの姿が見えない。 


「おい! 俺と一緒にいた茶髪の女の子はどこにいる!? 無事なんだろうな!!」


「貴様……このお方を誰と心得る。あの魔王様のご友人にして獣の王、バンドゥ様だぞッ! 無礼にも程がある!!」


「よいのだ仮面よ」


「バンドゥ様がそうおっしゃるのなら……」


 仮面男は、バンドゥとかいう獣の王で魔王軍幹部? で一番偉そうなやつに止められ渋々後ろに下がった。


「おっほん。勇者よ。貴様は、あのココ? とかいう女の人間のことがさぞ大事そうだな?」


「当たり前だ! あの子は俺に惚れてるんだぞ!!」


「「…………」」


 やば。ここは「俺の仲間だ!」っていったほうがよかったな? 変な空気になっちゃったよ。


「そ、そうか……。それなら残念だったな!!」


「――! ココちゃんに一体何をしたんだ!!」


「ふっふっふっ……それを知りたいのなら、このライブ映像を見るといい」


 ピカン!


「な!?」


 俺はジェミットとかいうやつが得意げに、手で促した先にあるライブ映像を見て絶句した。


 なぜなら……。


『わらひはとびゅ〜!!』


 ココちゃんが、めちゃくちゃ高級そうなベッドの上で惰眠をむさぼっていたからだ。


 渚は、このライブ映像がバンドゥの秘策かのように思っていたので拍子抜けだった。


「はっはっはっ! どうだ勇者……今なら、この苦しんでいる仲間のことを見捨てて逃げても誰も非難することはないぞ??」


『ぶびょ〜! しょらだぁ〜!』


 いや、こんなベッドの上で心地よく寝ている映像を見てどうやったら苦しんでいるって思うんだよ。


 どうでもいいけどココちゃんの寝言、かわよい。

 さすが俺に惚れてるだけあるな!


「俺の気持ちは変らない! 仲間のことを助ける……。そんなことできずに勇者なんて名乗れない!!」


「ふっふっふっ……さすが勇者。われもそう言うと思ってたぞ……」


 いや、俺は空気に負けて言っただけなんだけどね。

 なんかかっこいいし。


 ココちゃんのことを助けるのは心からの言葉なんだけど、助けるほどのことなのかな? 下手したらすぐ自力で逃げてこれそうだけど……。

 いやいやいや。何考えてんだ俺は。


 惚れてる女を助けて、より好感度をアップするこの機会を逃してたまるか!!


「なにやら、覚悟が決まった面になったな」


「ふっ俺は勇者、女の子を助けるのはこの俺だッ!」


「…………そうか。なら、こっちのライブ映像も見て同じことを言えるかな?」


「は??」


 今度見たライブ映像は、なんでお前らそんなところにいるのかというよりも呆れのほうが強かった。


 なぜなら……。


『ぐふふ……私、この前スライムにダイブしたことがあってですね? その時の体全体にくる圧迫感といったら、それはもう絶頂しそうなほどでした!!』


『なるほどなるほど。君はまだそのいきなのだね……』


『んな!? じゃ、じゃあココちゃんのお姉さんは一体どこまで……』


『キングスライム、同時ダイブ』


『キ、キ、キ、キングスライム!? すごい。キングスライムって、ヌメヌメ君と同じくらい遭遇確率が低いって言われてるのに……。ココちゃんのお姉さん……いやこれからは、お姉様と呼ばせてもらってもいいですか!?』


『ふっ……好きに呼びやい』


「な? こんな苦しんでる二人の仲間の様子を見て、いくら勇者だとしても正常でいられまい。クックックッ……」


 は? なんでこの変態コンビがライブ映像に映ってるんだ?


 いやそれは、捕まってるからだと思うんだけど……。なんか映像の構図おかしくない??


 こいつら、完全に性癖について語り合ってるのになんで優雅にティーカップを片手にもってんだよ。どこかの貴族様か。


 ってバンドゥ、ココちゃんのときと言いこの変態コンビといい、なんで苦しんでるとか言うんだ?


 こんな楽しそうに監禁されてんのに、どこをどう見たらそうなる。

 

 やばい。わかんない。

 わかんないことが多すぎて、もうなんで俺がこんなよくわからんただただ寛いでる人たちのライブ映像を見てるのかもわからん。

 

 こういうときは……うん。

 もう、考えるのやめよう! 

 変なこと考えててもまじ理解できないし。 


「みんな、助けるに決まってるだろ……。だって俺は勇者なんだから!」


 らぁらぁらぁらぁ〜。 


「ふっふっふっ、そうきたか。おい仮面。助けるときの次のセリフって何だったっけ?」


「えっとですね……台本、210ページからです」


「おっ、ありがとな」

 

 おい。仲間を助けようとしている勇者の目の前で、セリフとか台本とかそういうこと言うんじゃねぇよ。

 一気に緊迫感なくなるじゃん。


「ふふふ……ふわぁ〜はっはっはっ!! そうかそうか。勇者は、そちらの道にいくのだな。よかろうならば、われが直々に引導を渡してやろ……」


「バンドゥ様そのセリフは、一つ前の勇者が決闘を申し込んだ用のでして。仲間を助けるという決断をしたときのセリフは、次のページです」


「あっ、そう。やっぱり。我も仲間を助けに行くのに、直々に引導を渡すなんておかしいと思ってたんだよ……」


 いや、わざわざ俺が決断する色んなパターンのセリフが書いてある台本を用意してそれを、ノリノリで言ってくるお前のほうがおかしいわ。


 このバンドゥとかいうの、一応魔王軍幹部なんだよな? 魔王軍幹部ってこんな感じのバカしかいないのか?


 そんなはずないよな。だって、魔王軍幹部だしね。


「おっほん。では失礼して。勇者のその心、しかと受止めた。助けたいというならば、我ら魔物たちに勝ってみせろ!! …………ほえ〜戦いね」


「え?」


 さっきまで茶番を繰り返してたけど、急にシリアスな命を賭けた戦いになる感じ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る