第10話 変態は変態を呼ぶ



「いやぁ〜ふふふ……ほら、勇者様。そんなご遠慮せずに、もっといっぱい食べてもらっていいんですよ?」


「あっ、いやぁ〜……ははは」


 渚は、グイグイと皿の上に乗せられた食べ物を食べてほしいのだと勧められ苦笑がこぼれた。


 なぜ、お姉さんに食べ物を勧められているのかというと、それはほんの数分前に遡る……。



「「「「のぉえぇええええ!!」」」」


 何故か迷宮に入った途端、地面がなくなってどこかに落ちていった俺たち。


 落ちて落ちて落ちていった先にあったものを見て、驚愕を通り越して薄ら笑顔になってしまった。


「らっしゃい! らっしゃい! 新鮮な、美味しぃ〜お肉美味しぃお肉が入ってきたよ!!」


「いやぁ〜このまえのあれがさぁ……」


「最近の……」


 いたのは大量の魔物。


 魔物たちは、俺たちが落ちていったその場所で当たり前かのようにで店を開いたりして人間のように暮らしていた。


 外から見た洞窟みたいな薄暗い場所ではなく、太陽があるかのように明るい。


 と、まぁそんな魔物が住んでいるようなところに落ちてきたのだが……。


「おい! 人間が来たぞッ!!」


 もちろんだが、こうなった。

 人間という言葉を聞いた、この場にいた大量の魔物たちは一斉に鋭い目を向けてきた。


 殺されるくらいなら、もがいてもがいて殺されてやる!!


 そう思い、いろんなことに覚悟を決めたのだが。


「いやぁ〜……人間なんて久しぶりだなぁ〜。へいらっしゃい! ゆっくりしててってくれよ!」


「おい人間! 俺んとこのやつ食ってくんないか?」

 

 何故か歓迎ムード。

 どうやら、殺し合いなんて渚のはやとちりだったらしく魔物たちはそんなつもりはないらしい。


「なんだぁ〜……」


 安堵のため息をついた渚だったが、目の前に魔物がいるという事実を受けてまたもや体に力が入る。

 

「ココちゃん!!」


 ココちゃんは、大の魔物嫌い。たとえ気前が良さそうな魔物だったとしてもあれこれ構わず、切り刻みそうなイメージがあった。


 なので慌てて確認したのだが、ココちゃんはいつもの調子に戻ったのか俺の背中の後ろでピタリとくっついていた。


 その様子を見て殺し合いになんてならないだろう、と思った俺はとりあえずココちゃんのことよりも今は魔物のことだと意識をすり替えようとしたときに後ろから現れたのが、


「あらあら、帰ってくるんなら連絡くらい入れてよね。お姉ちゃん、ココのこといつもいつも心配してるんだからね!」


「げっ。お姉さん……」


 自称ココちゃんのお姉さん。

 

 それから俺のおっぱいソムリエとしての目が光ったり、自称ココちゃんのお姉さんと挨拶しあったりして……。


「いやぁ〜ふふふ……ほら、勇者様そんなご遠慮せずに、もっといっぱい食べてもらってもいいんですよ?」


「あっ、いやぁ〜……ははは」


 俺たちは自称ココちゃんのお姉さんと、迷宮の個室? いや住む場所のようなところでテーブルを挟んで食事をして今に至る。 


 ちなみに俺のお姉さんへのおっぱいソムリエ判定は、G。マッドサイエンティストよりも大きい気がする。って、そんのことどうでもいいか。


 俺はテーブルの上に乗せられているなにかの煮付けや、なにかの炒めもののような食べ物を見てとてもじゃないが知らないものを口にすることはできずに躊躇っているのだが他の3人は全く逆だった。


「うひょー! なんだいこの、濃厚な食べ物は!? 口に入ってした瞬間、歯を使わずともわかるおいしさ……。くっ! 美味すぎる!!」


「うまうま……もしかしてこれ作ったのって、喋る魔物なのかしら? 言葉責めされながら襲われるのもいいわね!!」


「むしゃむしゃむしゃむしゃごっくん。むしゃむしゃむしゃむしゃごっくん。むしゃむしゃむしゃむしゃごっくん」


 リージュはいつものように、食レポしながら食べててココちゃんは夢中でかぶりついている。


 シュラットに限っては、エロフという名前を背負っているだけあり、恥じない変態な妄想をしながらキモい笑みを浮かべ食べている。


 くそ……三人が食べてんなら、俺も食べないといけねぇじゃん。

 一気にかきこむ!


「むしゃむしゃごっくん!」


「どうどう?? おいしい??」

 

 自称ココちゃん姉は目をうるうると、心配そうな顔をしながら聞いてきた。


「おいしい……です」


 おいしいもおいしい。

 正直、この異世界は食に疎いので食べた中でもダントツで美味しい気がする。

 って、俺は何馴染んてんだよ!


「あの……ここってどこです? あと、あなたは俺の仲間であるココちゃんと一体どんな関係なんですか」


「あら、聞いてなかったの? 私はそこにいるココの姉なんだけど……」


 いや、全くこれっぽっちも聞いてないんだけど。

 てかなんでココちゃんのお姉さんが、魔物がわんさかいる迷宮で当たり前のように住んでんだよ。


「すいません。ちょっと、こいつらと話していいですか?」


「えぇ。構わないわよ?」


 そう言って、変人コンビの首根っこを掴んで出入り口である扉の前に行く。

 無理やり掴んだから二人とも、「おげぇ!?」とか変な声を出してたけどそんなこと知ったことか。


「なぁ、あのココちゃんにお姉さんがいたなんて知ってたのか?」


「われも知らぬ。……もっともわれと勇者くんが知らなかっただけで、変態エルフは知っていたかもしれんがな」


「そんなの私も初耳よ! それより、ここにいる魔物たちって一体どんなふうに襲ってくるかしらね? ほら、夜になって性欲が収まらなくなったときにたまたま通りかかったのが女の人間。普段、人間なんて見たことがない魔物は絶対に獣のように襲うと思うんだけど渚はどう思う!?」


「…………まぁ、性欲には勝てないんじゃないかな」


「やっぱり!!」

  

 まじでなんなんだよこいつ。 


 今は、ココちゃんと向き合わないといけないのに……。というかこのエロフは元々こんなだったか。この前、急に普通の女みたいに泣いてたけどエロフはエロフなんだな。


「とりあえず、だ。とりあえずあんまりプライベートなことは聞かないでおこう。それでいいよな?」


「うむ」


「おしょわれたぁあぁあぁあい!!」


 こいつ、魔物がわんさかいる迷宮に入ったからって人格変わりすぎだろ。

 エロフだった呼び名が、ドエルフに昇格しそうだぞ。


「いやいやいや……おまたせしました。ちょっと、情報のすり合わせをしていたもので」


「あぁ、そうですよね。ここに来た方は大体混乱して、取り乱して魔物に食べられるんです。あなたたちみたいに、冷静で肝が座っているのは久しぶりです」


 ……そ、そ、そ、そんなこと言ってもなにも出てこないぞ!!


「まぁ一応俺って、勇者なんで? こういう感じのやばい状況なんて何回もくぐり抜けてきたので?」


 鼻からの嘘。やばい状況なんて一度もくぐり抜けてないんだけど、こういうときくらい勇者だっていう看板を売るくらいのことしてもいいよな?


「へぇ〜勇者様だったんですか……」


「はい?」


 あれ? 

 どことなく、声のトーンが低くなった気がしたんだけど気のせいかな?


「なるほどなるほど。だから、こんないつ魔物に襲われてもおかしくない迷宮で性欲だの、襲われたいだの言ってたんですね?」


「いや、それは俺じゃなくて……」


「いいのよ。そんなふうに言わなくて。私も同じだから」


「……へ?」


「だ、か、ら! 私もあなたと同じ考えなのよ! まさかこんなところで同志に出会えると思ってもいなかったわ!!」


 ココちゃん姉は、俺の手をこれでもかというほど強く握りしめ目をキラキラさせながら歓喜していた。


 うん。

 この状況、どうしよう。

 うん。


 俺もこんなところでまた新たに周りに変人が増えるだなんて、思ってもいなかったわ。


「変態ヌメヌメ君」


「…………!!」


「それは、世界の真理。襲われたものにしかわからない幸福感」


「そ、そ、そ、それって……!?」


「体全体に絡みつくヌメヌメ」


「変態冒険記にでてくる、有名な一節じゃない!! まさか、あなたが同志……?」


「ふっ……熱く語りすぎると、ヌメヌメが逃げていくぞッ……」


「きゃ〜!! あなただったのね!!」


 ココちゃん姉は、俺じゃないということがわかった途端シュラットに向かって飛びついた。


 それから何故か二人は、部屋の隅に言って「「ぐひひ……」」とかいう気持ち悪い笑い声をあげお互いに大好きなものについて語り始めた。


 その内容は……聞きたくもない。


 この部屋の主であるココちゃん姉が変人と化し、完全に俺たち三人は置き去りになった。


「うま」


 とりあえずテーブルの上においてある飯でも食って、気分を紛らわすか。

 

 ……何で俺の周りには変人しかよりつかないんだよ。


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