二章
第9話 魔の迷宮!?
――人生とは、衝撃の連続である。
渚はそんなこと、死んでいきなり勇者として異世界に転移させられたのでしみじみと理解している。
「なんなんだよもぉ……」
だが渚はついここ数日で起きたことを思い出して、歩き進んでいる果てしない荒野を前にして、ため息を禁じえなかった。
そう、その日もいつものように勇者としての仕事なんてせずに大好きになってしまった格ゲーのランクに入り浸っていた……。
「ねぇ、渚。なんか国王からの書類、いっぱい来てるんだけど面倒くさいから全部ハンコ押していい?」
「あぁ。いいぞ」
この言葉がすべての始まり。
今思えば、国王からの書類を面倒くさいからといってあれもこれも全部ハンコ押していい? という質問をしてきたシュラットもおかしいのだが、それに了承してしまった俺もおかしい。
あのときは、大事な10連勝がかかった大切なしあいだったんだ……。
ちなみにそれから20連勝したぜ!
って、そんなことどうでもいいや。
それから数日後。
俺たちがゴロゴロしていたリージュのラボに、とある手紙が投函されていた。その手紙は、厳重そうに紐で縛られてなんかかっこいい印が押されていた。
それを見て、何も知らなかった渚だったが中にあった手紙を見て顔が真っ青になった。
『“勇者殿御一行。明日、王城に来られたし”』
命令口調で、こう一文。
それ以外には、何も書かれておらず一文だけ。
「なんじゃこりゃぁ〜!!」
焦った俺は、変人コンビに相談したのだがどうやらこれはなにかの招集らしい。
勇者としての仕事をせずに、怒られるのかと思っていた俺は一安心して寝たら次の日、あれよあれよと王城に。
なんか出迎えのゴツい兵士みたいのがいたが、緊張でカチコチに固まっていた渚は、そんなの目にも止まらなかった。
「おぉ〜!! 久しぶりだな勇者」
「いやいやいやいや……。まさか、先日送った書面に了承のハンコを押してもらえると思ってもいなかったぞ」
「ふふふ……大丈夫大丈夫。おそらくその勇者殿の震えは、武者震いというやつなのだろ? あの、入っていった人間が一度も帰ってきていない魔の迷宮とも言われてる場所に行くんだから、ビビったりとかするはずないよな」
「うむ。よし、では行って来い勇者よ! そして見事迷宮を攻略してみせよ!!」
と、言う具合に渚は一切言葉を発することなく王城から放り出された。
「なんだあいつ!! 殺すぞぼけ!!」と思った渚だったが流石に理性は残っていたので、そんな血迷ったことはしなかった。
どうせあいつ、俺たちのこと舐めてるしとっとと迷宮なんて攻略して見返してやる!!
そう思い、馬車を乗り継いで乗り継いで乗り継いで、人間立ち入り不可能領域とか言う看板が立てられていた場所について、迷宮を目指して歩いて今に至る。
「ふっ、どうした勇者くんよ。もっと歩くスピードを上げるのだ!!」
後ろから俺とは正反対の、元気なリージュの声と同時にじぃー、という機械音が近づいてきた。
「お前のその乗り物、少しくらい貸せよ……」
横にいるのは、地面に足をつけていないリージュ。
代わりに地面には小さいタイヤのようなものがついている。どうやら見る限り、靴の裏についてるちっちゃいタイヤみたいのが自動的に回って勝手に前に進むっぽい。
「ふっふっふっ……。われは天才発明家。そして、勇者くんは勇者くんだッ!! 勇者くんならわれみたいな姑息な手段使わずに、自力で頑張れ!!」
この人、発明品のこと姑息な手段とか自分で言っちゃってるよ。
まぁでも、発明品を作ること自体結構すごいことだと思うから俺はその姑息な手段も自分の力だと思っちゃうタイプだけども。
いやでも、自分の分しか準備してないのは、いかがなものか。
ちなみにこの、今リージュが移動手段にしてる発明品は動いている馬車の中で作ってた。
これまで変なものを発明してきたので、天才だと言うことはわかっていた。だけどまじもんの天才とかいうのを、目の前で見ると鳥肌が止まらなかった。
「ゆ、ゆ、ゆ、勇者しゃん! ちょっと、あの迷宮に行くのはやめませんか? ほ、ほら、入った人が帰ってこないらしいですし……」
「まだ言って……。もう、あと少しの場所まで来たんだし流石にここで後戻りはできないよ」
「で、で、で……デスよねぇ〜。ははは……」
さっきからココちゃんは、この調子である。
何故か迷宮に行くことを恐れている? いや、避けている気がして帰ろうと勧めてくる。
まぁだけど、俺が後戻りはできないっていうと素直になってついて来る姿はマジ天使。
いや別に、悲しんでる姿を見て興奮してるとかそういうのじゃないから。しょんぼりした顔がかわよい。ただそれだけ。
「……後戻りはできないって言っても、あとどれくらいでつくの? 私もう、足ヘトヘト何だけぇどぉおおお!!」
「ふっふっふっ。それが、高貴なるエルフさんがいう言葉なぁ〜んですかぁ〜??」
「あら不思議。あなたは歩いてないから、煽ってきても全くこれっぽっちも痛くも痒くもないわぁ〜……」
「ぐぬぬ……。なにも言い返せぬ」
そんな変人コンビの掛け合いが続くこと、数十回目。
荒野をまっすぐ進んだ先にそれはあった。
「ついた……」
目の前にあるのは、真っ暗な洞窟。
「ぽたぽた」と地面に落ちていく雫の音が、外にいる俺たちにまで響いてきて洞窟がどれだけ広いのかわかる。
「こ、これが……」
「入ったら帰ってこれないと言われている……」
「「魔の迷宮!?」」
さっきまでグチグチグチグチ喧嘩してたくせに、この変人コンビ……こういうところだけは息ぴったりですごいな。
二人は、迷宮の前で大げさなリアクションを取ってるけどココちゃんが見当たらない。
いつもなら……というか、俺が知ってるココちゃんならこういうとき「きゃ〜怖いですぅ〜!!」なんて言って、背中に隠れて来ると思うんだけど。
一体どこに……。
「って、ココちゃん!? なんで草に擬態して隠れてるの?」
「ぎ、ぎ、ぎ、ぎくり!! バレてたんですね」
いやまぁ、さっきまで変人コンビのことを見てていなかったのは気づかなかったんだけど……うん。
服は緑色で同化してたんだけど真ピンクのリュックが、草むらの中での存在感がエグかったんだよね。
「なんでそんなに迷宮に入るのが怖いんだ? ほら、大丈夫。今は俺たちが付いてるんだから安心してくれ」
「大丈夫よココちゃん」
「ふっ……われに背中は任せろッ!!」
俺なら、変人コンビにこんな言葉かけられたら怪しくて逆効果になるな。
「みなさん。ぐすっ。ありがとうございます……私、私! みなさんに励まされて勇気が湧いてきました!!」
「よし、なら行くぞ!」
「はい!」
「「お〜!」」
とまぁココちゃんの説得に成功し、掛け声をし、気合いを入れ直して、みんなで一斉に迷宮の中に足を踏み入れたのだが……。
「「「「のぉえぇええええ!!」」」」
みんなで一斉に落とし穴に落ちていった。
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ここら辺で☆をくれと頼んでみたり。(作品ページの下の方にあるよ!)
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