第6話 世紀の大発明



「おい……お前、本気なのか?」


 暗い部屋の中。明かりは、上に灯っている豆電球のような小さい光のみ。

 渚は目の前の男が気持ち悪い笑みを浮かべながら、じりじりと少しづつ追い詰めて来ているので驚愕の顔をしながらつばを飲み込んだ。


「あぁ本気さ。俺は、何度も何度も勇者にいじめられてきたんだ……。今日こそはぜってえ、めたんめたんのこったんこたんにしてやる!!」


「ふっ……威勢だけにならなければいいがな」


「なんだと。この勇者!! 覚悟ぉおおおお!!」


 怒声とともに、男の手に持っているものが振り下ろされた!




「また、俺の勝ちだったな」


 渚は、目の前で頭を抱え険しい表情をしている男を見下ろしながら勝ち誇る。


 男の目線の先にあるのは紫色で、“You Iose”と映し出されているディスプレイ。その画面の中には、右側に倒れているムキムキマッチョ。左側には両腕を上げて勝ち誇っているもやしのようなひょろい男。


 そうこれは、この世界の格ゲーのようなもの。

 一対一で3分間、いろんな技を駆使して戦うシュミレーションゲーム。元の世界にいたときは、格ゲーなんて一度もしたことなかったが今はドハマリしている。


「くそくそくそっ!! なんだよ壁際ローリングハイキックって!! んなの反則だろ!!」


 男は負けを嘆いているが、負けたことには納得いっているようだ。


「ふっふっふっ……。ゲームに反則なんてないんだよガリくん。ていうか、なんで一番弱いとされてるゴミマッチョばっかり使ってるんだよ。別のにしたら、今よりかは絶対もっと奮闘できると思うぞ?」


 ガリくんっていうのは、男のあだ名。

 名前なんて知らないから、文字ったわけじゃなくてただただ体がもやしみたいだから。別にガリガリで骨が浮かんでるとか、そこまでじゃない。


 細マッチョ。その言葉がガリくんには似合う。


「いや……それはだめだ。あのマッチョくんは僕の相棒。それすなわち!」


「すなわち?」


「僕の相棒なんだぁ〜……」


「……え?」


 ガリくんはこんな感じでどこか抜けてるところがある。


 この前なんて、一緒に魔物でも討伐しにいこう。って言ったのに何故か、木を伐採しにいってたからな。

 天然を通り越して、ただのアホ。


「ま、まぁとりあえずゲーム終わったしこれからどうする? なんか飯でも食べいくか?」


「いや、飯は食べてきたからいい。っていうか、お前一応勇者なんだろ? なんかそれっぽい仕事しなくていいのか?」


「あぁ……ま、いいだろ。他の奴らやる気ないし」


 リージュはまた忽然と姿を消して、シュラットは何故か未だ拗ねている。ココちゃんは修行をしに行くと言って出ていったっきり、もう一週間以上帰ってきていない。

 という俺も、ずっとガリくんの家に泊まってて帰ってない。


 簡単に言うと、勇者パーティーは解散寸前にまで散り散りになってるいのだ。


 だがそんな中でも渚は、友人とゲームを勤しんでいる。

 そう、もういっそ勇者だとか面倒くさいからこの流れで自然消滅してくれないかなぁ〜、などと考えているのだ!!


「そうだ! ポータルを買いに行きたいんだけど、ついてきてくれる?」


「ん? まぁ、いいけど……」


 渚はポータルが何なのかわからないけど、時間が潰せるんなら何でもいいや、と思い実に数日ぶりに日光のもとに出た。




「なぁ、本当にここがそのポータル? とかいうのが売ってる場所なのか?」


 ガリくんについて行った渚だったが、目の前にある建物を見て疑問を呈した。


「まぁね。だって、ポータルはあの天才発明家スターマインド・インフィニテット・ダーク・リージュさんの新作なんだからね!」


「まじかよ……」


 渚は、あのマッドサイエンティストの本名を噛まずに言ってきたことに驚いたのだがそれよりも、ポータルを作った人物がまさかのリージュだったということに倍驚いた。


「まじのまじまじよ。だって……」


「あれ? 勇者くん? どうしたんだい。こんなところで突っ立ってて……」


 ガリくんがなにか言おうとしたのだが、後ろから声をかけられてその言葉は耳に入ってこなかった。

 

「リージュ?」

 

 髪がボサボサで、分厚い丸メガネをかけていていつものなんかそれっぽい白衣を着ているリージュがいた。


「あぁそうさ。われは、勇者の仲間ァアア!! スターマインド・インフィニテット・ダーク・リージュ……。略して賢者だッ!!」


 いや、どこをどう略したら賢者になるんだよ。

 心の中で冷静にツッコミながらも、口を開いた。


「お前……。どこで何してたんだよ」


「ふっふっふっ……。聞いて驚け見て驚け! なんとなんと、あの天才発明家はとてつもない偉業を成し遂げたのだッ!!」


 うん。何も具体的なこと言わないし、何も目の前に出されてないし驚くもなにもないんだけど。


「なんだなんだ……?」


「朝っぱらからうるさいわねぇ〜……」


 なんか今リージュが思いっきり叫んだせいで、周りの住人が起きちゃったじゃねぇか。

 どうするんだ?


「と、とりあえず、わがラボに入ってくれ。話はそれからだッ!!」


「逃げたなこいつ」


 俺たち三人は、ラボの中に入った。

 もちろん、中は全く掃除されておらず汚いという言葉ニ文字で表すことができないほど汚い。


 俺がラボを見て呆れていると、ガリくんはそれとは真逆に「すげぇ〜!!」と目を輝かせていた。話を聞くとどうやら、リージュのラボの中に入るのが夢だったらしい。  


 正直、夢がそんなことでいいのかと思ったが人の夢にとやかくいうつもりはない。

 ガリくんがラボの中を走り待って数十分。

 ようやく満足したのか、俺とリージュが座っていたテーブルのイスに座り今に至る。


 目の前には、さっきから俺に何かを見せたいのかウズウズしているリージュ。隣には、まだ興奮が収まりきれておらず「はぁはぁ……」と気持ち悪い吐息をたてているガリくん。


 めちゃくちゃカオスなのだが、もういいぞ、という目線をリージュに送る。


「じゃじゃぁ〜ん! これがさっき言ってた、偉業とも言える発明品ポータルだぁ!」


 俺たちの前に出してきたのは、長方形の鉄のような銀色の板。

 大きさはちょうど手のひらで持てているので、スマホくらい。厚さもそこまでないので本当にスマホのようだ。

 こんな鉄を溶かして固めたら作れそうなものが、一体どうして偉業と言えるんだろう。


 いや、見た目だけじゃ判断しちゃいけない。

 さっきリージュは、だって言ってたからな。何かしらの性能があるんだろう。


「で、それがどうしたんだ?」


「ふふふ……やはり気になるのかね勇者くんよ」


「まぁ、うん。気になるかな」


 何か面倒くさいなこいつ。


「じゃあ、ちょっとこれを持っててくれないかね」


「おっと……」


 手に渡されたスマホのような大きさの板は、ずっしりとした重さ。表面が冷たくて、発明品だと知らなかったらただの鉄の板だって思うと思う。


 何かからくりがあるのかと、爪で叩いてみたり振ってみたりしたけど特に何も変わらない。

 本当にこれが発明品なのか?


「よし、いくぞぉ〜……。とりゃ! そりゃ!」


 リージュはいきなり、テニスボールのような大きさの球体を俺に向かって投げてきた!

 正確には俺ではなく、俺が持っている鉄の板に向かって。

 

 板の表面に当たって跳ね返る。

 そう思ったのだが……。

 

 ブゥン


 球体は、変な音をたてながら板の中に入っていった。


「は?」


 何がなんだかわからず、リージュのことを見る。

 見るのだが、顔が「え? なにそれ? 私も知らないんだけど」みたいな驚愕した顔になっていたので余計何がなんだかわからなくなった。


「す、す、す、すごいです!! さすが、かの英雄が絶賛するほどの天才発明家。球体を消してしまうなんて!!」


 ガリくんは、俺たちの反応とは違い子供がなにか好きなものに夢中になっているときの輝いている顔だった。


「ま、ま、まぁ、まぃ〜まぁね。な、なの、なになくになな、な、中々すごいだりょ?」


 おい。動揺が隠しきれてないぞ。


「はい! 俺あなたの大ファンで、今回のポータルという発明品は前情報でものを移動させるものだと聞いていたのでこのようなもの……。完全に予想の遥か上をいかれました!!!!」


「ふっ、ふふぅ〜ふふ。そうかいそうかい。われも、君のような礼儀正しいファンがいるなんて予想の遥か上をいかれたぞ」


 それは色んな意味で、別のファンたちに失礼だと思うんだけど。てか、自分のファンがどんなやつだと思ってたんだよ。


「なぁ……この発明品って、成功、したんだよな?」


 俺は話の流れが変わりそうだったので、すかさず質問した。


「ふふふ……。発明の中では必ずしも、失敗が失敗のまま終わるということはなんだよ勇者くん」


 つまり、失敗だったけどなんかうまく行って別のものができたとかそういう感じか?

 わからん。ちょっと、かまでもかけてみるか。


「いやぁ〜こんなすごいものを簡単につくるなんて、さすが天才発明家さんだなぁ〜……。俺が元いた世界でも、こんなすごい発明品なかったぞ! 驚きが止まらない!!」


「ふふふ。まさか、われも自由自在に変形する板を作ったと思ったら、ものを消し去ることができる発明品ができるとは思ってなかったぞ! はっはっはっ!!」


「やっぱりそういうことだったのか」


「い、いやぁ〜、今のは言葉のあや?」


「まさか、われも自由自在に変形する板を作ったと思ったら、ものを消し去ることができる発明品ができるとは思ってなかったぞ! の、どこが言葉のあやなんだよ。そのままの意味じゃねぇか」


「ふっふっふっ……君には、われが考えてい至高なる考えはわからないだろぅ……」


 こいつ、都合が悪くなったから逃げたな。

 ま、いっか。問い詰めても何も出てこなそうだし。

 それより今は、ポータルとかいうやつのほうが大事だ。


「なぁ、さっきの板の中に入っていった球体って一体どこにいったんだ?」


「ぎくり! そ、そ、そ、そうだなぁ〜。その中に入ってるよ。……多分」


「おい今なんつった?」


「ある!! 絶対、そのピカピカの中に入ってるから確認してみてよ!!」


 渚が再び問い詰める口調で問いただすとリージュは、ヤケクソになって両腕をブンブン振り回しながら喚いた。


 そんな姿見ると、マッドサイエンティストキャラが台無しじゃないか。もっとこう、「ふっ。それを貴様が知る必要はない……」みたいな感じで来てほしかったな。


「本当にこの中にあるんだな? あるんだよな? もし、この中に入ってなかったらどうする?」


「入ってるから大丈夫!! だと思う……」


 リージュは自信なさげに、語尾の声量を下げながら言ってきた。


 その様子を見てなぜか渚もごくり、と唾を飲み込みもし板の中になかったら……、と緊張していた。


「ふふふ。大丈夫だよ勇者。あの天才発明家の、スターマインド・インフィニテット・ダーク・リージュさんが入ってるって言ってるんだから!!」


 唯一、緊張なんて一切せずヘラヘラ笑いながら喋りかけてくるガリガリ男が一人。

 だが渚はそんな男のことなど無視して、覚悟を決める。


「いくぞ……」


「「ごくり」」


 板に入っている、ぱっくり2つに分断できそうな亀裂に爪を引っ掛ける。


「はぁ!!」


 俺にだけ見えるように板を開いた!

 

 ガルルル……


 そこにいたのは、黄色い鋭い目を光らせたやつ。

 牙。

 どこかで聞いたことがあるようないやな鳴き声。


 パタン


「おい。この板って何を原材料にして作った?」


 俺はまさかと思い、というか見覚えのあるやつが板の中にいたので確認に近い質問をした。

 

「ふふふ……さすがに勇者くんでも、それは企業秘密さ」


「な、に、で、作った?」


「この前見せたドラゴンです……」


 リージュは威圧に負けるかのように、うなだれながら言ってきた。


「まじかよぉ……」


 渚は嘆息を吐く。

 別にいくら勇者であっても渚には、リージュの作るものに干渉するつもりはない。

 そして、怒ってるわけでもじゃない。


 なんか、勇者の仲間が勇者本人より勇者をしていることに心のなかで違和感が拭えなかっただけ。そもそも勇者である渚が、この世界に来てしたことといえば岩を砕いただけ。

 さすがになにかしないといけないな!


 渚は決意を固めた!


「すごすごすごぉー!! ドラゴンのことを発明品に加えるなんて!! そんなの、あれがああなってこうなるからできないって言われてたのに!!」


 ガリくんは、興奮しているのか語彙力が皆無になっているが渚もわかる範囲の言葉を聞いてたしかに、とうなずいた。


 元の世界で特に発明とか、そんなことしたことないけどドラゴンのことを原材料として発明品を作るなんて想像できない。それも、1からすべて一人で。

 

「とすると、エンジンができるわけ。それを使って、アレヤコレヤするとあら不思議。何でも、吸い込んじゃうポータルの完成ってわけ。わかったかい、助手よ?」


「は、はいぃ……。すごすぎて、頭の中に入ってきません!」


「ふふふ……大丈夫だとも。これからみっちり叩き込んでやるからな」


「よろしくお願いします師匠!!」

 

 なんか素直に感心してたら、ガリくんがマッドサイエンティストの弟子になっちゃったよ。  


「あぁ、われは師匠だッ!!」


「はい師匠!!」


「うむ。師匠だッ!!」


 ……ま、なんか楽しそうにしてるしそのままにしといていっか。

 嫌になったら、自然消滅するよね。


「なんか熱くなってるところ悪いんだけど、このポータルとかいうやつってどうするんだ?」


「そりゃあ、売るとも」


 リージュは、平然と言ってきた。


 いやいやいや。そんなことしちゃだめでしょ。

 あいつが言うにポータルってのは、ものを吸い込むことができるもの。そして、原材料はドラゴン。

 うん。もし売ってそんなことがバレたら、勇者である俺にまで飛び火するかもしれん。


「だめだ。これは、俺が預からせてもらう」


「えぇ〜!? それは、われが寝る間も惜しんで丹精込めて作った可愛い子供なんだぞ!? 職務乱用だ!!」


「そうだそうだぁー!」


 ま、まぁたしかに勇者だからって人が作ったものを勝手に奪うのは職務乱用? かもしれん。


「なら、5万グリスやる。これで我慢しろ」


「わぁ〜い! お金だぁ〜!」


 金で釣られるなんてチョロすぎる。

 ちなみにこの金は、以前ゴリラが岩を運んだときの成功報酬である。


 どこかに行っちゃったゴリラくん……。

 俺はお前のこと、絶対忘れないからな!!

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