第2話 全員おかしい
「勇者。やはり一番最初に倒す魔物は、女のことを集中的に狙う最恐最悪とも言われている変態ヌルヌル君だよね?」
「のんのん。魔法使いよ。そんな気色悪いものでは、このスターマインド・インフィニテット・ダーク・リージュが活躍できないではないか。こういうときはベタなドラゴンとかにするのだッ!!」
「はぁ? 何言っちゃってんですか、自称賢者さぁ〜ん」
「ふふふ……そんな事実無根を言われて、われの鋼の心が揺らぐとでも思ったのか? この、変態エルフが」
城の中から出てった俺たちは、勇者としての活動。
魔物の討伐をしに近くの草原に来ていた。
なんかさっきから、変人二人が言い争っているけど無視してる。話しにわって入ると俺まで変人の仲間入りしそうで怖い。
ぷよぷよ
そいつはいきなり現れた。
ぷよぷよ
奇妙な効果音を立てながら、透明な水色の体をぷにょぷにょ、と器用に動かしながらどこからともなく現れた。
「ぷよよよ!!!!」
「スライム……。まぁ、変態ヌメヌメ君に劣るけどこの子もまた魅力的よね!!」
シュラットはなんの躊躇もなく、高潔そうなエルフのイメージとはかけ離れている獣のような顔をしながらスライムめがけて飛びついた!
「ぷよっぷよっぷよっ」
スライムの弾力に何度か体を打ち付け、やがて体はぷにょっとしてそうなスライムの体の中に吸い込まれるように落ちていった。
こいつ、なにしたいんだよ。
「ぐひひ……。いいわねこれ……。もっと、もっとよ! もっと、ローブをぐちゃぐちゃにする勢いで動かしなさい!」
「ぷ? ぷ? ぷよよよよ!?!?」
「きゃ!?」
変態エルフの体は、スライムの体からいきなり地面に向かって放り出された。
うんうん。本当にこのエロフ、何したいんだよ。
「ふふふ。スライムから放り出されるそれすなわち! 汚い心を持っているということ……。ふっ、変態エルフ。君もこちら側だったか。歓迎するぞ? この闇の世界へ……」
「いや、汚い心なんてもってないから。私はあの高貴なエルフよ? 絶対、スライムが私のきれいすぎる心を拒絶したんだわ」
「そうかそうか。君は、無自覚でこちら側に来てしまったのか……。大丈夫。われの弟子として愛でてやるぞ」
相変わらず、変人二人は変人らしい。
もう、こんな奴らに付き合ってられるか。
面倒くさくなった俺は、ココちゃんと一緒に変人野郎から逃げて一緒にラブラブ冒険でもしようと思ったのだが……。
「ココ……ちゃん?」
後ろにいなかった。
どこだどこだ、と探していたら案外すぐ見つかった。いたのはすぐそこの、さっきエロフが放り出されたスライムの前。
しゃがんでスライムのことを、剣の鞘でちょんちょんと興味津々に突いている。
……かわよすぎだろ。
さっきのエロフと違って、ココちゃんは無邪気なただの女の子に見える。
「なぁ、勇者よ。この自称賢者と、この高貴なる私どっちのほうがまともだと思う」
「ふっ……そんなこと、決まっている」
なんなんだよこいつら。急に目の前に来て。
せっかく、ココちゃんのことを保護者目線で後ろから見守ってたのに。
「お前たち二人がまともだったら、この世界の人間全員変人になるわ」
「「…………」」
二人の変人は、俺の言葉を聞いて黙り込んだ。
なんかどことなくしょんぼり、と肩から力が抜けた気がする。俺なんかおかしいこと言ったか?
「きゃ!?」
女の子の悲鳴が聞こえてきた!
聞き間違いじゃなければココちゃんのもの!
「大丈夫!?」
慌てて、声がした方を見る。
いたのはスライム。
そしてスライムに引きずり込まれそうになっえいるココちゃん。
服が少しズレて、おへそだったり細い太ももが見える。
「このロリコンめ」
シュラットはゴミを見る目で俺のことを見てきた。
「は、はぁ!? そ、そ、そ、そんなんじゃねぇし!! 別に、ココちゃんの服がスライムのおかげでズレてピチピチの体が見れただとかそんなこと思ってねぇし!!」
別に俺、特定のちっこい女の子が好きなわけじゃないし。どっちかと言うと、ぼいんぼいんのたぷたぷの女の子のほうが好きだし!!
うん。大丈夫、大丈夫。
俺はまだ二人のような変人じゃないはず。
「……勇者くん。大丈夫。恐れることはない。われらは、いつでも勇者くんのことを歓迎するぞ!」
自称賢者が、なんかすごく清々しい笑顔で歓迎してきた。なんなんこいつ。
なんか、われらって言ったせいでエロフが「はぁ!?」とか言い出して喧嘩が始まりそうになってるし。
はぁ〜……って、今はこんな変人二人にかまってる暇ないじゃないじゃん!
「ココちゃん!! 大丈夫!? 今すぐ助けてあげるからね!!」
「助けるとか言ってドサクサに紛れて太ももとか触ってもバレないわよ……」
なんか後ろから小声で、誘惑が聞こえてきた。
くそっ! そんな安っぽい誘惑に屈するものか!!
「ゆ、勇者しゃま。そ、そ、そ、そこお尻でしゅ」
「あっ、ごめんね!! 別にわざとじゃないんだ。わざとじゃ。たまたま掴みやすそうだと思っただけで……。決して、ぷにぷにしてそうで触り心地良さそうだぁ〜って思って意図的に触ったわけじゃないからね!」
「……確信犯」
くそっ! 後ろから聞こえてくる言葉が結構痛い!
「よいしょっ……よいしょっ。スライムって吸引力あるんだな」
何度も引っ張ってみても、ココちゃんの体はびくともしない。ちなみに、かなり本気で引っ張っている。
「ふっふっふっ、勇者くんよ。もしかしてスライム関連で、困っているのかい?」
「そんなの見ればわかるだろ」
「困っているんだね! だね!?」
「……はい。困ってます」
なんか自称賢者の目の輝きが、いつにもまして輝いている気がする。
こいつ、マッドサイエンティストだし嫌なことしか予想できねぇ!
「そんなスライムの困りごとを一瞬にして解決するもの……。それが、このぷよよんぷよぷよ第一号だッ!!」
右手に持って、俺の方に突き出してきたのは変なボール。色は真っ白で、大きさはちょうど野球ボール位の手のひらサイズ。
だめだ。困ってるときに発明品を出してくるところだったり、クソダサい名前だったり完全にマッドサイエンティストじゃねぇか。
嫌な予感しかしない。
どうせ、ぷよよんぷよぷよ第一号を使わなかったらもっと今より面倒くさくなるんだよな……。
「ありがたく頂戴します。で、どうやって使うんだ?」
「説明しよう! これはスライムに向かって投げつけるだけで誰でも簡単に倒すことができる発明品なのだ! だけど……」
「おりゃ」
説明が長くなりそうだったから投げた。
ぷよよんがスライムの体の中に入っていった。
「おいおいおい!! 何をしてくれているんだ!!」
上手くいったと思っていたのに、マッドサイエンティストはいきなり俺の体をぐわんぐわん揺らしてきた。
「あ、れ、は、な!!」
ぷしゅ〜……。
「やっぱり始まってしまったかッ」
ぷしゅ〜。ぷしゅ〜。ぶよよよ!
スライムから変な音がなり始めた。
……なんなんだよ始まったって。
もっと詳しく説明しろよ!!
ぶよっぶよっ! ぶよっぶよっ!
ぶよよよよぉおおん!!
なんか知らないけど、いきなりスライムの体は俺たちのことを覆い隠すほどの大きさになった!
ぶよぉん!
「おいおいおいおい……なんで、スライムのことを倒すためのやつで巨大化してんだよ!!」
「ふっふっふっ……。この発明品はまだ第一号で、スライムのことを倒す確率は0.001%なのだ。ハズレだったら、今みたいに巨大化する。この確率を引き当てたときの快感はいくら勇者とて、理解できまい」
「あぁ。お前のようなマッドサイエンティストの思考なんて理解できるなんて思ったことないわ! そんなことより早くここから逃げるぞ。普通のスライムだったら殺れたと思うけど、あんな巨大なやつこんな丸腰で倒せるもんか」
俺はそう言ってそそくさと逃げようとしたのだが、後ろから服を引っ張られて止められた。
「勇者よ。こんなところで逃げていいのか? まだあのスライムの中には大事な仲間がいるんだぞ」
シュラットはいつになく、真剣な眼差しでスライムのこと見据えて言ってきた。
やば。さっきまであんなに可愛いとか思ってたのに、ココちゃんのこと見捨てようとしてた俺やば。
「ったく、勇者ってのは楽じゃねぇな」
さっき誰よりも先に逃げようとしていたことを、ココちゃんに見られていないと願いつつ俺はなんかかっこいい言葉を放った。
「……あんなおっきいスライムに、体全体を触られるって一体どんな感触なんだろう。ぐひひ……」
「おい。それが本心だろ」
俺は、さっきまで仲間がどうとか言ってたのに相変わらず何も変わってないエロフのことを見て呆れつつも、スライムの倒し方を考える。
俺にはこれといった勇者すごすごスキルみたいのはない。強いて言うなら、ここに来る前にでかい岩を殴ったら木っ端微塵になったのですごすごパワーは持ってると思う。
とりあえず、中にいるココちゃんに注意しながら殴ろうかな?
「ぐひひ……しゅらいむしゅらいむしゅらいむ!!」
シュラットはスライムに向かって思いっきり飛びついた!
弾力で落ちそうになったが、今回は前回の失敗を踏まえてなのか両手をがっしりスライムに固定した。
うん。まじでなんなんだよこいつ。
うわうわ……せっかくエルフで整ってる美顔を、スライムに擦りつけちゃって。
こいつなんかヤバい薬でもやってんのかよ。
ぶよっ……ぶぶぶ、ぶよっ!
急にスライムが色んな方向にからだを動かしながら暴れだした!
エロフに顔面を擦り付けられて暴れだしたと思ったが、どっちかと言うとスライムの体の中からなにかが暴れているように見える……。
スライムの中にいるのってココちゃんだよな? いや、でもあの子は可愛いマスコット的な存在。いくら剣士だとしてもこんなことできるはずが……。
ブシャァアアアアアア!!!!
スライムの体は、噴射音とともに突如として跡形もなくなくなった。シュラットは勢いで渚たちがいる場所まで、飛んでいった。
なにもなくなったスライムを見て渚と、ほかの女たちは何が起きたのか理解できず呆然と突っ立っていた。
「こ、こ、こ……怖かったですぅ〜!!」
もともとスライムがいた場所にいるのは、一切の傷がついておらず涙目のココ。
右手にもっている鋭い剣には、まだピクピクと動いているスライムの破片のような固形が引っ付いている。
…………もしかしてココちゃんが倒したの?
唯一、仲間で可愛いココちゃんがあのでかいスライムを一瞬で倒したの?
あらら?
まさか、ココちゃんがこの中で一番強いとかそんなことないよね?
「えへへ。スライムなんてゴミカス魔物、剣に引っ付くだけでも不快!」
うん。ココちゃんもヤバイやつだったのか。
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