第10話 朱雀院ラボ第一回プロジェクト
朱雀院ラボは入部希望者の面接を一旦中断して、その日は各自解散となった。
月島舞に言わせれば『最大限に危機感の無い男』ことヤマケンは、そのまま面接を女子寮で続行しようと言いかけて、全力で阻止されたという。
レイプは男性が受けるものとなってしまって、時代はもう長い。そんな中、結婚が絶望的な人が9割以上の確率でいる女子寮に、男子が出向くなどレイプ志願者としか言えないのだ。
下手したら拉致監禁からの結婚を承諾するまで開放しないという、暴挙まであり得るだろう。
そのさなか、
「ふむ……やはり外に自由になるラボが必要だな……」
その一言をきいた舞は、心底恐ろしいと感じたという。
(山田家)
二人だけにしては広すぎる家にヤマケンと優菜は帰宅した。
「あ、優菜!我は少し調べ事をしたいから……夕食までラボにいていいか?」
「勿論だよ!本来は妻の務めなんだし、気にしなくていいのに」
「ありがとう」
ヤマケンは二人きりになると、やや紳士ぽくなるところがある。他の女子が聞いたら、宇屋良ましがるどころか『殺してでも奪い取る』となりかねない。だが、ヤマケンは無自覚で厨二との切り替えをしていた。
「……」
ラボという名のまだパソコンと机、そして来客向けのソファーとテーブルしかない空間で彼は調べ物をしていた。
入学前にしった男子の現実、そして実際に所属している先輩男子生徒の現状を知ろうとしていたのだ。
「やはりか……」
ヤマケンが情報を見つけて呟いた。
この学校には教員と男子生徒だけが書き込んでやり取りができるツールがある。女子生徒の目が無い分、多少男同士でやり取りができるものなのだ。
そして、学校の共有ツール。その両方から裏付けをとった情報を前にして、ヤマケンは現状のやばさにため息をついた。
「我に気を使って、挨拶に来ない物かともおもったが……引きこもり、意識喪失症、まともに通えてる先輩はほとんどおらんではないか!!」
ヤマケンが立ち上がると、すぐさま携帯を取り出していつもの厨二ロールをしようとするが、気分が乗らないのか、すぐにスマホをしまう。
「彼らにもシュタインズ・ゲートの選択があれば……それだ!!」
力なくつぶやいたヤマケンが、大きな声を出して閃いたようにパソコンに文字を打ち込み始めた。
これは朱雀院ラボが己に課する命題みたいなものだ。
『意識損失病?ならば呼び戻せばいい!』
もはや願望も籠った発想で、彼は朱雀院ラボが今後発明して活動していくためのプロジェクトを列挙していく。
「ヤマケン~、ご飯できた……」
「……」
ご飯の用意ができた優菜が彼を呼びにきたが、彼の鬼気迫る様子を見て、彼女は静かにほほ笑んだ。
今の彼の顔はただの中二病ロールではない、まるで何かを見つけたあの時のような自分の心からの願望や思いを全身からほとばしっているのが優菜から見て取れたのだ。
「ここに持ってくるね」
「……」
彼が彼女と夕食に気付いたのは、部屋に用意がなされていい香りがした時だった。
(学園内朱雀院ラボ)
翌朝、学校でいつものようにヤマケンはヤマケンだった。その中、舞は優菜と少し話す事が多かったが、今の彼からすればそれはどうでもよかった。
本題は放課後だ。
放課後になると早々に、彼はラボという名の部室へ走り出していた。
「おすおすー……ヤマケン、はええな」
「今日も面接?」
ヤマケンが一番につき、須田が二番目に到着する。そしてすぐに優菜と舞が同時に到着した。
「ああ、それもそうだが……朱雀院ラボとして、第一回のプロジェクトを決めようと思う」
「は?」
「ちょっといきなりね」
ヤマケンの一言に須田がポカンとし、舞が無表情でそう言い放つ。
「実際、面談に来るのは優秀な人材ばかり……それで正規メンバーは最低限として、プロジェクトによって助っ人を頼むシステムのがいいと思ったのだ」
白衣のポケットに手を突っ込みながら、ポーズを決めヤマケンがそう言うと、須田と舞が目を丸くする。
「あー……そういう」
「山田にしては考えてたのね」
「たはは、みんなが入ったらいくらこの広さでもパンクしちゃうよね~」
何も考えず、勢いだけで突っ走ってると思っていた須田は若干考えを改める。舞は舞でその方が今後自分が積極的に参加するべきプロジェクトが明確になると、その意見を好意的に捉えていた。
そんな中、一般人的感想をもったのは優菜であった。
「勿論、面談は続けるぞ?誰がどういう技能を持っているか、分かっているほうが効率がいいからな」
「それは賛成」
ヤマケンが面談活動は続けるというと、舞がそう言って彼の意見に賛成する。
舞としても将来、自分の分野でライバルになりうる可能性がある人物を見つけられるかもしれないし、何かの際にはいいエスカレーション相手になると思ったのだ。
「まず、我々が手掛けるプロジェクトは……共学の男子先輩を救うことだ!」
「はい、教師の仕事ですね」
「激しく同意だ」
ヤマケンがそう言って、プロジェクトを掲げると舞が一刀両断に切り捨て、須田が同意を示した。
「カウンセリングはアリサ先生の役目だよ~?」
「違う、意識喪失症の相手へアプローチするシステムを開発するのだ!!」
「!」
優菜がホンワカと注意するような口調でヤマケンにそう言うと、彼は反論して目的先を明確にした。
それに顔色を変えたのは舞である。
『月島科研でも長い事成功事例のない、意識回帰を促す装置をここで!?』
「ふーん……まあ、先輩の家を突撃して回るとかじゃなくてよかった」
舞が心中穏やかでない中、須田がそう言って難解なプロジェクトへ理解を示した。
「んで、どういうアプローチからどうしようとかあるの?」
「うむ、配偶者や両親からの呼びかけなど、いろいろな試みがなされているが……我はこれに脳波へ直接電気信号を送る仕方による、アプローチを検討している」
須田の問いかけに、彼から丸投げに見えていたヤマケンがとりあえず自分の草案を語る。
「……男性に実験行為はできないわよ??」
「配偶者、ご両親に承諾を得る」
「無理、法律が敵になる」
「何のための共学とラボだと思っている?」
「……」
実際に自分の親が運営する会社が長年手掛けていて、手掛かりの何もない内容の話に、舞が厳しい目で彼を見る。
それに対して、ヤマケンは真顔でそう答える。それに対して、舞は気付いた。
「!」
「フフフ、狂気のマッドサイエンティストは自分の身体も研究材料なんだよ」
「危険なことは認められない!」
「なに、データで示せればいいんだ。何も我が同じ状況になる必要は無い、増幅する作用を示せればそれを出せばいい。手がかりになる何かを得られたら、それを研究すればいい」
ヤマケンの毅然とした態度に、舞が困惑する。その中、須田はすでにプログラムや彼の草案に基づいた装置や過去のアプローチを調べていた。
『な、なんなの……これが男……??』
舞の中の常識が音を立てて崩れていくのを彼女は実感する。
「お、月島科研の論文発見」
「本当か須田!……お前、理解できるか?」
「ー……プログラム言語に翻訳してお願いしますって感じだな」
須田とヤマケンは二人ですでに、プロジェクトへ向けての動きに入っていた。
「ヤマケン、廊下の列がすごい事になっているよ~」
「む!」
優菜に呼ばれて、ようやく彼は面談の事を思い出した。男子と一緒に活動ができると夢を見た女子生徒たちの列が、廊下にすごいことになっていたのだ。
「仕方ない、後回しだ!優菜、もう少し待ってもらえ!」
「うん」
「須田、舞!準備だ」
ヤマケンがすぐ走り出して、面接用のスペースを用意する。
「いえ、一人ずつじゃなくて……一回で数名同時にやるわよ!」
「!」
舞が声をあげて、ヤマケンをみた。
「このペースだと、研究に入るのは二学期以後になるわよ!……ヒアリングと助っ人によるやり方でいくなら、エントリーシートがあるんだし同時にやれることをやりましょう」
「フフ……フゥーハハハハハ!さすが舞だ!」
「勘違いするな、私は勉強と研究の時間がコレ以上削られるのが嫌なだけだからな!」
舞の効率的な提案に、ヤマケンが笑いながらそう言って受け入れる。それを見て、舞がなんとなくそう反論して、面談を再開した。
三十路のおっさんがバイクでツーリングの予定が次元転移に巻き込まれ、少女と鉄パイプを拾った話外伝~朱雀院ラボ伝説、朱雀院蒼人の軌跡~ @vatinysuta
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