第9話 朱雀院ラボ学校支部創設
入学式の日早々に、朱雀院ラボという名の科学研究部を創設したヤマケンは、早速顧問に担任の久保奈美教諭を確保した。
ラボメン(部員)は創設者にしてラボメンナンバー001番、朱雀院蒼人ヤマケン。002番山田優菜。そして月島科研の跡取りとされる天才、月島舞が003番として加入した。
この行動は男女共学高等学校始まって以来の快挙に近いものであった。
男子が『積極的に女子との係わりを持つ』という、前代未聞の行動が学校中に大きな波紋を呼んだのだ。
入学式が終わり、放課後になった現在、『朱雀院ラボ』には入部希望者が列をなして並んでいた。
中には科学研究部の部員の姿もあったという。
あまりの多さに、ヤマケンは主要な部員(3名)で希望者の面接を行っていた。
「ほう!特技は電子工学か!」
「はい!」
ヤマケンが得意分野を聞き、女子が自信満々に答えて、自分をPRしていた。現在、面談を受けているのは上学年、つまり先輩にあたる女子生徒だった。
彼女の名前は春風七実という。ロングヘアーでその先を軽く結んだ髪型が印象的で、いかにも萌生家のお嬢さんといった振る舞いがヤマケン達に見て取れた。
「春風というと……春風印刷工業、老舗の大企業ね……。最近は精密電子媒体部品メーカーとしての転身もあり、ノウハウやあなたの求める幅広い知識を持つ人材という点には合致しているわね」
そう言ったのは月島舞である。彼女の家柄をよく知っており、月島科研としてはお得意様のような関係性の企業だった。そのため、舞も彼女には詳しかった。
『大方、降ってわいたチャンスに……男性と結婚して箔をつけて、企業の安定化をさらに図ろうという魂胆が見えてしまうわね』
「……」
「さすが我がカリスマ性、素晴らしい人材を呼び寄せてしまうようだ……」
彼女の思惑を舞は深い部分まで察しがついており、優菜はきな臭さを感じて沈黙を保っていた。そんな中、ヤマケンだけが元気よく厨二を発揮していた。
「もしもし、ああ俺だ……例のプロジェクトの一部を担えそうな人材を見つけた。これより吟味に入る。エル・プサイン・ア・コングルゥ」
『……』
「~ッ」
繋がっていないスマホを片手に通話しているように見せ、そしてかつて自分に天啓のような感激を与えたあの主人公と同じ合言葉を最後に述べるとヤマケンは彼女に向き直った。
「結果は追って連絡する、それでいいかな?」
「はい、勿論です」
「入学式後に早々、感謝する!では」
ヤマケンがそう言うと、春風先輩は部屋を後にした。
「山田、どうするの?彼女、即戦力クラスだけど……」
「ふむ……ぶっちゃけ、舞がいれば間に合うきがするのだが」
「おい」
舞がヤマケンを睨みつける。『私は勉強と実験がしたいから来たのであって、ここに入り浸るつもりなんてほぼない』と言った事を忘れたのかと言いたげに、ヤマケンの脇をつついた。
「おいおい、そうカリカリするな」
「ヤマケン、次の人がくるよ~」
「おう、入れてくれ」
優菜がそういうと、ヤマケンがすぐさままた面談モードへと戻った。
「よっす、本当に設立したんだな。驚きだわ」
「おお!我がフェイバリットライトアームになるかもしれぬ存在、須田ではないか!」
「須田……須田ってええ!?あのパソコン市場シェア、トップ5に入るSUDARKの!?」
ヤマケンが数少ない男友達の登場にテンションがあがり、彼に駆け寄った。そんな中、彼に心当たりのある舞が驚きの声を上げた。
「そっちにおわずのは……まさかの月島科研のご令嬢殿では??ヤマケン、すげえの引っ張ってきたな」
「フゥーハハハ!!我がカリスマ性のなせる業よ!!」
「さすがヤマケン、すごいねえ」
須田はてっきり、男だけでワイワイする場所を作る口実で始めた部活と思いきや、ガチの研究者を確保しているのを見て思わずヤマケンの正気を疑った。学校規模で一体何をやらかすつもりなのだと。
「はじめまして、月島科研の月島舞です。あの須田さんに会えて光栄だわ」
「こちらこそ、まさか月島科研のご令嬢に会えるなんて、思ってもいなかったよ……あの作品らしく、オタクキャラで来た方がよかったかな?とか思っていたけど、普通にしててよかったわ」
「あの作品?」
舞が須田とあいさつすると、須田がヤマケンの人生を変えるきっかけとなったあの作品を持ち出して、キャラのロールをやらなくてよかったと心底胸をなでおろした。
勿論、その作品のワードに反応するのは舞である。
「ああ、月島さんも見るといいよ……アニメ・ゲームだけど科学アドベンチャーとして、面白さもあるし研究者としてもあれは楽しめる作品だ」
「あとで我れのを焼いて渡そう」
「そう、じゃあ期待しているわね」
須田とヤマケンに例の作品を勧められて、舞がとりあえずそれを受け取ることにする。
「とりあえず、須田!貴様は合格だ!」
「早いなおい」
「早速、面談に加わるといい!」
「はい、須田君の椅子だよ~」
ヤマケンが即決で須田の合格を決めると、舞からの異議は勿論無く、優菜が早速彼のための席を用意した。
『もしかして……この部活に入れたのってアタリだったのでは?』
集まる人材、そして専門性の高さを見て、舞が薄々そう感じ始める。
「次は……また上級生か」
舞がそう呟いた。
卒業までに男性は妻を4人娶らないといけない、そして男性の数は少ない上に女性からの接触はまずタブーとされている。
ヤマケンのような例外がでてきたら、最後の望みをかけて先輩後輩関係なくチャレンジしたくなるのが人の性とであった。
それは女子が一番よく理解している。そのため、舞は彼女は真剣に部活に来たのでなく、出会いとあわよくば結婚を視野に入れたチャレンジ目的とみて警戒を始めていた。
「3年A組、霧雨真梨香です!運動部所属、トレーニングがてらの雑用係として入部希望です!」
聞き覚えのある苗字と、ボブカットに横髪だけ長いヘアスタイルの女性が元気よく視聴覚室へと入るやすぐ自己紹介と目的を述べた。
「ほほう!雑用希望か!我々研究者は体力や力が無い、それは助かる!」
「ストレートに来てくれたねえ」
ヤマケンがそういうと、珍しく優菜が口を開いてそう述べる。優菜から何かを言う時は、彼女の中では好印象の時が多い。ヤマケンの中ではそれだけで+の材料となる。
「まあ、活動頻度や何をしていうくかまだ決まっていないから、トレーニングの分量だけ雑用が出せるか分からないけどね」
「でも何か始動したら、結局助っ人は頼みますよね?場合によっては、機密事項とかで外部に漏らしたくないとかいう事情も出てくるかもしれませんし」
「専属の雑用……」
須田が客観的にそう述べると、彼女もまた客観的にこれからプロジェクトが始動するにあたり出てくるであろう可能性を引き合いにだす。
『さすがは校長の娘といったところか……しっかりしているわね』
予想外の人材の登場に、舞が一瞬面を食らったがすぐに冷静さを取り戻して、彼女を分析しながら採用に値する人物だと評価した。
「ふむ……なるほど、そのあたりしっかり分かっている人材はありがたい!」
「ポイントは高いね……追って採否を連絡するって形でいいかな?」
「まって」
ヤマケンと須田がそういって、彼女を一旦返そうとすると、舞がインターセプトして二人を止めた。
「霧雨先輩、仮にあなたに採否の連絡をみんなにして回って頂戴、となったとき……あなたはそれをすることができる?」
「勿論、走り回って連絡していくよ!……それに入部がだめでも、短期的に手伝いとか募集がないわけじゃないでしょ?チャンスはまだあるよね?」
「!」
彼女の聡明さと、ケアとフォロー意識に舞が脱帽する。さすが配偶者のいる校長の娘なだけあると、改めて実感したのだ。
「わかりました、先輩ありがとうございます」
「うん、もうこのまま卒業かと思っていたところに、こんな面白い話ができてくれて、私もうれしいよ!」
頭を下げた舞に、真梨香が笑いながら彼女の手を取って、そう話すと舞がホッとした表情になる。
「それにイベント的に思って、来てる生徒も多いから、そのあたりは分かってくれるとおもうよ!」
「では真梨香よ!また会おう!」
「ちょっ!それもう答え言ってね??」
そう言った真梨香に、ヤマケンがそう言うと須田が思わず突っ込んだ。
「失礼するわ」
彼女が退室すると、久保奈美先生が入ってくる。
「ん?入部希望か?」
「残念、そこまで若くないから」
ヤマケンの一言にいたずらっぽく笑いながら、久保先生がみんなをみた。
「希望者は一旦帰らせたわ。入学式後だから、色々と学校もあるのよ」
「なるほど、今日の所は帰れということか」
「まあ、単刀直入に言うならそういうことね」
「よかろう」
ヤマケンが立ち上がり、白衣をバサッとなびかせた。
「では我が家で作戦会議だな」
「あ、山田君、許可がないと……」
「ぬ?」
久保先生の注意に、ヤマケンがめんどくさそうな顔をした。
婚姻関係外の女子が男子の家に行くのはなかなかにハードルが高く、許可や学校側の認証が事前に必要なのだ。
勿論、結婚前提という子孫繁栄に直結するものならば、大抵のお目こぼしはある。
「ふむ……どちらにせよ結婚しないといけないんだよな……」
「!」
舞が嫌な予感を感じる。
「月島舞!朱雀院蒼人の嫁として貴様を人質にする!」
「断固おこと……わ……り……」
そう言いかけて、舞が気が付く。男性の要請に女性に拒否権は無いのだ。
「本当に嫌なら白衣をきて、俺と同じマッドサイエンティスト風にふるまってくれ……こっちもジョークだったという事にして流す」
「!!」
ヤマケンが舞にそう耳打ちすると、舞が白衣をなびかせて立ち上がる。
『あれ??これの方が恥ずかしくね??』
我に返った舞は寸前のところで、厨二ロールをやらされそうだったことに気が付いた。
「えっと、優菜!優菜と話したいから後日でもいい!」
「ああ、構わない」
「ふう」
とりあえず、切り抜けた舞が安堵の息を吐いた。
「舞ちゃんとおしゃべりだねえ、楽しみだなあ」
「そうね、色々聞かせてもらうけど、よろしくね」
二人がそう言うと、とりあえずその日は解散となった。
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