第4話 共学! 日成学園男女共学高等学校

ハッキリ現実を言ってしまうならば、高校共学で男子の数は極端に少ないと言っていい。




よって、共学の男子の進学先は国が管理してきちんと男子が負担にならないように振り分けるときまっている。




高校進学のこのタイミングは最も、『健康な男子が命を絶つ』タイミングでもあるのだ。自宅で我が子の変わり果てた姿に、取り乱し涙する母親は珍しくない。




中には青森で育ち、青森にある共学に進まされず。京都や奈良といった遠方へ進学するケースもよくある話だ。




山田健一こと朱雀院蒼人、旧姓小林優菜の夫婦は新潟から京都への移動を強いられ、各国のスパイや拉致から保護するためのSPに守られながら新幹線で移動した。




二人が進む学校、『日成学園男女共学高等学校』は京都でも長い歴史のある共学高らしく、今年の男子の進学数は7名という数字だ。これは全国共学高校の中でもトップクラスに近い数字であることは、ヤマケンは知らなかった。




まだ見ぬ男子に早く会いたいと、ヤマケンの心は珍しく踊っていた。かつてジャンク品から掘り当てた、アニメ・ゲーム作品を見つけた時以来かもしれない。








**日成学園男女共学高等学校








一行はそのまま、新幹線の京都駅ホームで学園の教師、当然女性と合流してまず先に学園の校長室へ案内された。




校長室には男子がすでに到着しており、2名がいた。早く挨拶をしたい気持ちをみんなが我慢している様子が、目に見えてわかる。勿論ヤマケンもその一人だ。




だが、男子の交流は学園関係者の説明を受けた後だろう。よって、彼らは行儀よく待っているのだ。




校長室の校長席には、一言で言うなら美人教師が座っている。薄い緑に銀色がかかったセミロングヘアの彼女は、男子がそろうのを待っていたようだった。




入室一番、挨拶をかましてやろうと考えていたヤマケンも、校長席の彼女を見て空気を読むことにしたぐらいだ。




「お待ちしてました、最後の男子生徒の山田君。みんなが揃ったので始めます」




彼女が気になることを何気に言って、立ち上がると男子生徒と関係者であろう女子生徒に向かって頭を下げた。




「私がこの『日成学園男女共学高等学校』の校長をしております、霧雨・藍那と申します。以後お見知りおきを……」




彼女、藍那先生のたたずまいや所作、頭の下げるまでの動作から、彼女の高い礼儀作法が伝わってくる。




「ちょっと待て!?男子全員だとっ!?男子は7名と聞いたぞ!?」


「ちょっと、ヤマケン……あ、私もヤマになるんだった……」




男子生徒の言いたいことを体現して、堂々と突っ込んだのは白衣の変な奴ことヤマケンだった。ヤマケンを静止した女子生徒も天然が入ってて、どっか変な子と周りに移ったことだろう。




「そうですね、今からその説明をします。進学予定だったあなた達以外の男子は事故死により、進学がかなわなくなりました」


「!!」


「学園側のフォローが足りず、起こしてしまい、申し訳ございません」




藍那校長がそう説明して、深々と頭を下げた。




事故死……男性の行動範囲も制限されているこの時代、このワードの意味は自殺である。室内にて首を吊ったのだろうとヤマケン達は悟った。




「でも三名が無事に進学をしてくれて、心から安心しています。これからの学校生活や日常生活、全力で学園がサポートいたします。勿論、クラス編成に至るまで……」


「……」




共学においても男子は希少な存在で、彼らは選ぶ立場である。嫁候補となる生徒の好みを伝え、そのまま好きにある程度クラスを編成できるのだ。




ここまではヤマケンもネットで調べてきているので、分かっていた。




「そういえば、山田君はフェミナチ地区の出身でしたね。学園も可能な限り、あなたに関しては譲歩できるよう掛け合っていくつもりなので、遠慮なく言ってくださいね」


『フェミナチ地区!』


『噂は本当かよ……』




フェミナチというキーワードに、他の男子が顔をゆがめた。だが、それゆえ特別扱いも致し方なしという感情が沸き起こった。




「フハハハハー!!俺の名は朱雀院蒼人!!たかがフェミナチごときに屈する軟なサイエンティストなどではない!!」


「あらまあ、頼もしいですわね。なら学園生活の方も期待させてもらおうかしら?」


「ふん!学園生活どころか、未来そのもの期待しておけ!」




ここにきてヤマケンが厨二病をいかんなく発揮させて、溜まっていた鬱憤をはらすように校長に答えた。




ヤマケンの変貌ぶりに、他の男子生徒が目を丸くしていたのは言うまでもない。




「新生活から死んだ魚の目をした学友諸君よ!我は朱雀院蒼人!これから、お前たちの魂に刻まれる名前だ!よろしくな!」


「え?あ、はい……」


「おう……」


「ヤマケン、山田健一の奥さんの優菜だよ~……あはは、なんかごめんねこんな紹介になっちゃって……」




話を今降られると思ってもいなかった二人の男子は戸惑いながら、ヤマケンのあいさつに答えた。優菜が申し訳なさそうに笑いながら、彼の名前を言ってくれたおかげで彼らはヤマケン本名を知った。




「勿論、須田君と柏木君にも可能な限り、学園がサポートに入ることをお約束いたします。よろしくお願いします」




校長が二人の男子にもそういって、頭を下げた。そのおかげで、彼らは互いの名字を知った。




「早速、このまま解散して談笑させてあげたいところだけど、クラス編成の希望を聞いておきたいの……希望が被ったり、お互いの要望が被った場合、対処しやすいように合同で毎年ヒアリングさせてもらっているの」


「では事前にいただいていたヒアリングシートを元に、もう一度、リクエストや要望を確認していきますね」




藍那校長がそう言って、説明をする。すると隣で控えていた女教師がシートを持って、前に一歩歩み出た。




「養護教諭のイングリット・アリサよ、よろしくね」


「ああ!よろしくだ!」


「よろしくお願いします~」




元気よく彼女に答えたのは、山田夫妻だけだった。




「まず、奥さんを連れてこなかった……柏木君、須田君から同時に行くわね」




アリサ先生が二人のシートを見る。




柏木のシートには……希望。『別居婚』『希望するタイプなし』とあった。




須田のシートには……希望。『オタク文化に理解のある子』『古典オタク』『ゲームをしていて文句を言わない子』と対照的に書かれていた。




「幸い、被りはなかったけど……柏木君、他にリクエストはないかしら?」


「?」


「例えば好みの容姿とか……言い方は悪いけど、共学では男子は好き放題選び放題なのよ?」




そういった、アリサ先生の言葉に暗い目で柏木は彼女をみた。




「……いくら都合よく言っても、この国にとって俺たちは資源で家畜みたいなものです。率先して義務をこなそうとするための相手を選んでどうなるんですか?」


「……」




この子はヤバイ、アリサと藍那校長は直感的に感じていた。おそらく、彼がここにいるのは奇跡、一歩間違えば来る前に命を落としていたであろうと感じたのだ。




「そう……こちらでその場合、選ぶことになるけどいい?」


「ええ……」


「ふむ、もったいない事をするな……どうせなら鬱憤をぶつけられる相手、くだらない遊びに付き合ってくれる相手、とか適当言ってみてもよかろうに」


「!?」




デリケートな問題で、ピリピリとフォローの方法を考えていた二人の教師をよそに、口をはさんだのは朱雀院蒼人ことヤマケンだった。




突然の会話エントリーに、一同があっけにとられたのは言うまでもない。




「君には関係ないだろ?どういう扱いを受けてきたのか分からないし、解放されてキラキラモードなのかもしれないが、現実は厳しいし男には未来を考える資格や権利がないんだよ」


「なら今を考えて、それから先を見ればよかろう」


「?」


「なんなら貴様が『子供のころやりたかった遊びに付き合ってくれる女子』とためしにかいて、遊びつくしてみればいい、」




ヤマケンの言葉に柏木が言葉を失い、二人の教師がどうなるかハラハラしながら事態を見守る。場合によってはヤマケンと柏木を離す必要がある。




「……じゃあ『ヤマケンの無茶ブリに付き合ってくれる人』って追加しておきます」


「!」


「おい!柏木とやら!俺は、朱雀院蒼人だ!!」




何を思ったか、柏木はリクエストを一つ増やす。




これにはさすがに藍那校長とアリサ先生が予想もしていなかったようで、驚いていた。その陰でいつものヤマケンのお約束がさく裂してるのは、言うまでもないだろう。




「希望に沿うようにがんばるわね!」


「お願いします」




アリサ先生が笑顔でそう言って、ヒアリングシートに記入していく。




初日からとんでもない事になったと、藍那校長とアリサ先生は肝を冷やしながらも。柏木の目の色が変わったのを見て、いくばくか安心したのだった。

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