第3話 朱雀院蒼人(ヤマケン)共学への進学

『朱雀院蒼人、山田健一とはこの世をしのぶ仮の姿。世界の歪みを破壊するため、変革を目指すサイエンティスト!』という設定の男が中学二年生というタイミングで目覚めた。




無論中二病というやつだ。




過去、男性の多くが患い、黒歴史へと移行していく時期である。




無論、其の中には女子の疾患者もおり、彼女らも黒歴史へと移行して、将来ネタに持ち出されると慌てたり夜枕に顔を押し付けて足をバタバタさせたものである。




しかし、この時代はそんなマニュアル知識、焚書により存在などしないため、保護者や優菜を大いに心配させる結果となった。




中学三年生、大抵この時期の男子に付きまとうのは自殺による命を絶つ問題だ。




自由もなく、進学先を決められて結婚を強制されるという現実。さらに女性は過去男性を大量虐殺したという存在、そんな相手に心を許せるわけがない。そのような不条理に男子が抗う術は自らの命を絶って反抗の意思を示す程度だった。




無論、山田健一もあのままなら、卒業近くにこの事実を知るや首をくくっていたことであろう。




だが、今や彼は『朱雀院蒼人』である。




なりきることで、自分の心を強固にたもち、実際に独学で勉強をすることで知識という武器を身に着けていた。




フェミナチ地区学園の卒業式……ヤマケンの席は会場になく、教室で卒業証書を渡されて終わった。




小林優菜はヤマケンがそういう扱いを受けてきていた事を知り、最後にせめてもの抵抗としてヤマケンと共に卒業式を教室で迎えた。






**山田宅








「戻ったぞ、マイマザー」


「おじゃまします~」




ヤマケンが優菜を連れて帰宅する。




山田一家では祖母と母親が豪勢に息子の健一の卒業を祝う、手料理をたくさんテーブルに並べていた。




母親のクリスティは無事に、息子が命を絶つことなく卒業を終えた事で安堵の涙を流していた。




「健一、おめでとう……本当におめでとう」


「マイマザー、あなたの気持ちは受け取ろう。だが、今は少しだけ待って欲しい」




ヤマケンが優菜の手を引き、二階の自室へと上がった。




部屋に入ると、ヤマケンが神妙な面持ちで優菜に向き直る。




「優菜、俺は共学に進むため、ここを離れる」


「知ってるよ~……エリート名門校だからねぇ~」




ヤマケンがそういうと、優菜もそう答える。彼女は笑顔ではいるが、どこかさみしさを感じさせる。ヤマケンにはそういう感じがした。




「優菜、共学に進む男子は、伴侶ならば推薦で連れていくことができる」


「え?……それって」


「拒否してもつれていくぞ、朱雀院蒼人の生涯の嫁、人質にしてくれる!」




思ってもいなかった、ヤマケンからの告白に、優菜が涙を流す。




「何それ、あはは……人質ならついて行かないといけないね~」


「幸い、推薦なら高い入学費用やその他もろもろは免除される。ただ、夫婦だから同居になるが……」


「うん、ヤマケンとなら一緒でいい!ずっと一緒がいい!」




優菜が抱き着いて、ヤマケンにキスをした。




思いっきり『ヤマケンじゃなくて、朱雀院蒼人だ!』と、訂正するタイミングを逃した彼は、彼女を受け入れて、長いキスをした。




「そ、そうだ!お母さんに報告しなきゃっ!」


「ああ、名誉あるこの……早いな」




すっかり浮かれていた優菜がハッと思い出したように、階段を駆け下りてクリスティに慌てながら挨拶をして家を後にした。




「さて、我も報告だな」




こうして、卒業だけでなく、結婚もきまり、山田家は大きな喜びに包まれた。




後日、余談だが共学に入るために『推薦でいれろ』と仮面夫婦の命令を複数の女子から受けることになったが、ヤマケンはスルーしてただ一人家族となった優菜を連れて新潟を後にすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る