第5話 共学! 日成学園男女共学高等学校2

校長室の一室でひと悶着が起きるかと思われ、二名の教師をヒヤヒヤさせた一件が無事に落ち着いたが仕事はまだ終わっていなかった。




「須田君は色々書いてくれてありがとう、おかげ様でやりやすいけど……他には容姿とかこう、タイプはないのかしら?」


「ふむ」




アリサ先生が須田のヒアリングシートに切り替えて、情報をみながらそう尋ねる。須田は目が隠れるほどのミディアムヘアをしており、その中に隠れるようにかけられている眼鏡をクイっと押し上げた。




「幅広いタイプをバランスよく選別してください、好みや興味がある程度近いなら、たくさんの人と会っておきたい……クラス替えは毎年あるようですしね」


「ええ、その通りよ。わかったわ」




須田はまともなようだと、アリサ先生は安心したようだ。




しかし、彼女らは気づいていなかった。男子オタクは今のご時世では絶滅危惧種であり、その扱いの難しさとやらを……。




「待たせたわね、最後にやま……朱雀院君のね」


「ああ!」


「奥さんを前にして言うのも気が引けるのだけど……最低でも男子は三年間で伴侶を4名娶るのが決まりだから、これはしっかりやらせてもらうわね」




アリサ先生がそう言うと、優菜は『家族が増えるねやった~』程度の反応をしており、ヤマケンは堂々と構えていた。




長年共学を受け持っているが、こんな生徒は初めてだと、藍那校長共々手探りをするような感覚でお互いに彼のシートを表示していた。




「希望は……『理系女子』『科学に強い人』『勉強を教えてくれる人』……最後のこの『ラボメン?にふさわしい人』というのが、いまいち分からないのだけど……」


「フッ……俺は研究所を持つつもりだ!そのラボのメンバーにふさわしい人を探している!」




校長共々、『ラボメン』という項目に戸惑い、理解できていなかったようで、第一確認事項だったのだろうことが彼にはよくわかる。




その質問に待ってましたと言わんばかりに、ヤマケンが説明する。




「なるほど、朱雀院君のラボか~、楽しそうね」


「興味があるならば、先生がエントリーしてもいいのだぞ?」


「既婚者だからごめんね!」


「ふはは!残念だ、馬に蹴られる趣味はない」




恐らく大虐殺時代以後、これまでいい空気を吸っている男子も珍しいだろう。




ヤマケンは話についてこれる先生がいて、あの主人公のようなやり取りを楽しめていた。これほど最高な気分はないだろう。




「あ、でも学校内で部活動や交流会の一環でやりたいというなら、顧問を引き受けてもいいわよ?困ったら声をかけて頂戴ね」


「ふむ、そのような形のラボメンもありか……わかった、申し出感謝する」


「最後にだけど……容姿や性格とか、リクエストはあるかしら?」


「……」




今まで目の前でみてきた恒例の質問がヤマケンにもなされる。一瞬『どうでも好きなようにしてくれ!』と勢いで答えそうになったが、一旦それを飲み込みヤマケンが考える。




「優菜に『嫌がらせ』や『虐めをしない』人ならば、そっちの希望はない」


「そう」


「ヤマケン……」




真顔で真面目なトーンでそう答えたヤマケンに、アリサ先生と藍那校長が暖かいまなざしを向けた。彼がいかに彼女を大切にしているかが、よく伝わってきたのだ。




「朱雀院君、安心して頂戴。共学は基本、当校は勿論。女子の入学基準は熾烈なまでに高水準にしてあるし、性格や思想に至るまで厳密に審査されているわ」


「ほう、知ってはいたが……なら期待させてもらおう」




優しい口調で毅然と藍那校長がそう宣言すると、ヤマケンが腕を組みながらうなづいた。




「お疲れ様でした、ではあとはみんなの宿泊と生活する家に案内してもらって、休んで頂戴」




藍那校長がそういうと、アリサ先生が彼らを案内して宿舎エリアへ向かった。








**








男子の宿泊スペースは厳重に管理されており、学園から少し離れたところにあった。学園に近い女子寮がヤマケンにはうらやましく感じられた。




「一軒家だけど、卒業した先輩の使っていた家よ……内装はリクエストで変えてあるけど、あとで変えることもできるし……その引っ越しの機会にもできるわ」




アリサ先生がそう説明して、彼らの住まいを案内する。彼女のいう引っ越しの機会とは、結婚により手狭になった場合である。




最低4人と結婚だが、過去には10名を超える女子生徒を嫁に娶り同居した伝説のOBも存在するという。




須田・柏木・山田夫妻の順番で、家に案内されてその日の活動は終わりだとアリサ先生は告げた。




後の予定は渡してあるスケジュール表通りだとして、入学式まで彼らは自由となった。




「では山田君、じゃなかった!朱雀院君、入学式にまたね」


「ああ、世話になるぞ」




アリサ先生と別れるとヤマケンと優菜が早速家の中に入る。




ヤマケンの家は彼らの家より大きい、伴侶のいる生徒向けの家屋なのだと事前に説明を受けていた。




「ふむ……」


「二人きりだねえ~……大きいからどこをどう使おうか迷うね!」


「ああ、だがまずは我が研究部屋を選ばねばな!……勿論、寝室は別だ」


「えへへ」




早速ヤマケンと優菜が家の中を回り、つくりを把握していく。




結果、ヤマケンの研究部屋とやらは一階に設けられることとなり、二階の和室が寝室ときまった。




この日はもう遅くなり、外出禁止時間も近いこともあり、届いていた荷物をゆっくり解きながら早めの就寝となった。




3月25日、入学予定男子生徒到着にて終日。




日成学園としてはまずまずの滑り出しを迎えられたといえよう。

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