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透さんがいなくなったのは、私が冬休み明けに尞に戻って行ったその日であったらしい。翌月の週末に、いつものように透さんのアパートに帰省した私を迎えたのは牧美さんだった。

 「お久しぶり。」

 不機嫌にきれいな彼女の白い顔。

 「透なら出てったわよ。これ、奥谷さんにって受け取ったんだけど。」

 きちんと手入れされた牧美さんの指は、白い封筒をつまんでぶら下げていた。

 寒い真冬の朝だった。私はかたかた震えながら玄関に突っ立っていて、牧美さんは白いニットのワンピースに身を包んで不本意そうに私を眺めていた。

 「じゃあ、奥谷に渡してください。」

 挑むように私がそういうと、牧美さんはワンピースの胸元についたポケットから携帯電話を取出し、その場で奥谷に電話をかけた。

 「渡すものがあるので透のアパートに来てください。もも乃ちゃんも今尞からこちらに戻ってきましたよ。」

 私は奥谷が到着する前にアパートから避難しようとしたのだけれど、牧美さんの長い腕が私の肩越しに玄関のドアを抑え、それを許さなかった。

 「見たくないの? 透が奥谷さんになに置いてったのか。」

 「……別に。」

 「透、あなたにはなにも置いてかなかったのよ。これ、あなたが見られる透の意思表示の最後だと思うけど。」

 「……私宛じゃないから。」

 「透がこうやって私に預けてったのよ。私があなた引き留めようとすることまで想定してたと思うけど。」

 「……。」

 「かわいくないわね。」

 「いいんです。」

 「いなさいよ。後で後悔するわよ。」

 「……。」

 意地を張って黙り込んだ私と、呆れたように肩をすくめる牧美さん。沈黙の数分の後、外から玄関のドアが開いた。奥谷だ。

 「はい。」

 私の方に半ば覆いかぶさるような姿勢のまま、牧美さんはあっさり白い封筒を奥谷の手に押し付けた。奥谷も拍子抜けするくらい滑らかな動作で封筒を開けてひっくり返し、中身を手のひらで受けた。厚くて大きな奥谷の手の中に落ちてきたのは、白茶けた五センチ四方くらいの和紙の切れ端みたいななにかだった。

 私と牧美さんと奥谷は、全員本当のところその正体に瞬時に気が付いていたのだと思う。だってその和紙みたいななにかの真ん中には、いつか見た水色の雫型の刺青があったのだ

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