10
「どこに行くんですか。」
奥谷の声が背を追ってきたが、無視して家を飛び出す。さらさらと秋雨が私の全身にまとわりついて来た。
走り出したところで私には行く当てなどない。それは走り出した瞬間からちゃんと分かっていた。恋人はいないし、友達もいない。私が売春婦とやくざの娘だという噂は学校中に広まっていた。正確には私の母親は水商売に従事していても売春はしていなかったはずだが、訂正する気にもならなかった。
どこに行くんですか。
奥谷の声が耳に甦る。
うるさい。私に行き場がないことくらい一番よく知っているくせに。
目的もなく、体力の限界まで秋雨の中を走り続けた。夜の7時、すれ違う人はまだいくらもいたが、誰も私には目も留めない。熱心な運動部員が走り込みでもしていると思われてでもいるのだろうか。私には行く場所も帰る場所もないのに。
そしてもう限界だと倒れ込むように足を止めたのは、これまで来たこともない児童公園だった。じんわりと湿った砂の上に膝をつく。
ブランコと滑り台しか遊具のない小さな公園だったけれど、やけに立派な滑り台の下に入れば雨は防げた。面白いくらいに震える膝でなんとか這って行った滑り台の下の真っ暗闇で、微かに血の匂いさえ混じる荒い呼吸を整える。全身がばらばらになりそうなくらいの疲労感と、深く刺すような肺の痛み。
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