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がこの家を出てしまえば、奥谷が守り続けてきた幻想の生活は壊れてしまう。あの女の娘である私と生活することで、奥谷は蚕が繭を作るように慎重にじっくりと幻想の世界を作り、そこに閉じこもってきたのだろうから、その世界を壊す存在を許しはしないはずだ。許さないのだとしたら、もう後は私を殺すくらいしか方法はない気がする。それか、ここから出て行けないように両足を切り落として監禁でもしてみるか。
もしかしたら母は、この男に殺されたのかもしれない。男しか抱けないくせに女に惚れた奥谷の幻想を守るために。
「ホモの人殺し。」
じわじわと胸に湧いてくる恐怖を押し殺しながら、私は低く奥谷を罵った。自分はこの男より優位に立っていると思い込んでいなくては、恐怖に負けてしまいそうだった。
奥谷は私から目をそらし、深く俯いた。
「茜を殺したのは、私ではありません。」
ほとんど聞き取れないくらいの声量で発せられたその台詞の意味を理解するのに、数秒間かかった。
「あんたが殺したの?」
私の声は聞き苦しく上ずっていたはずだ。これまで考えたこともなかったその可能性。
奥谷は、私をこの家に閉じ込めるために茜を殺したのかもしれない。
今度は私が目に見えて動揺した。スプーンこそ取り落さなかったが、両手が明らかに震えだしていた。
スプーンをテーブルに投げ出すように置き、私は席を立った。これ以上奥谷と同じ空間にいたくなかった。
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