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公園のベンチに並んで座って、私と茜はアイスを食べた。

 夏の夜はいつまでも空の色が浅い。それでも風は随分涼しくなって、Tシャツの襟からするすると抜けて行く。

 「ももちゃん、俺、なにもないんだよね。」

 アイス最中をもしゃもしゃと平らげながら、茜は星も月も見えない藍色の空を見上げていた。色の抜けた金髪と蒼白の肌は、夜の中でもぼんやりと発光して見えた。

 「ほんとに、ない。だからももちゃんと奥谷さんが羨ましいんだよ。それで、ももちゃんに冷たく当たっちゃうとき、あったかも。」

 ごめんね、と茜は空から私に視線を移す。

 私はソフトクリームに夢中なふりをして、茜の視線を頬で受け流した。

 目を合わせて頷いたりしたら、泣き出してしまいそうだった。今、なにがあったからというのではなくて、これまでずっと重ね続けてきた小さな痛みに耐えられなくなって。

 私は茜に甘えたかった。小さな子供が母親にするみたいに、無条件に甘えて全てを許されてみたかった。

 例えば奥谷に甘えてみたとして、まず間違いなく私の全てを受け入れるのであろうあの男に許されてみたところで、私は惨めになるだけだ。

 だからだろうか、茜なら、と思った。ある日いきなり私の生活に転がり込んできたこの人になら、こんな可愛くない私でも甘えられるのではないかと。それが出来ない自分の性格は百も承知で。

 茜が好きなのは奥谷で、奥谷が好きなのは私の母親。私のことを好きな人は誰もない。

 なにが悪いのか教えてほしかった。どうして私だけが誰にも好かれていないのか。どうして、いつまで、もしかしたら一生?

 「泣かないで。」

 茜の白くて細い指が、私の頬を撫でた。

 「ももちゃんは幸せになれるよ。大丈夫。」

 じゃあ、茜は? と、聞けるはずもなかった。

 どろどろに溶けたソフトクリームが、私の手首から肘を伝って、ショートパンツから出た腿に滴る。握りしめたコーンは湿気てしわしわにつぶれ、なにもかもが完全に惨めでだらしない状況だった。

 泣かないよ、と私は言った。

 「もう、二度と泣かない。おじいちゃんが死んだときと、おばあちゃんが死んだときと、お父さんが死んだときに泣いたけど、もう泣かない。」

 茜はちょっとだけ微笑むと、スウェットを脱いで私の手や腿や頬を丁寧に拭ってくれた。スウェットからも、タンクトップ一枚になった茜の身体からも、汗の匂いと煙草の匂いと香水の匂いがした。茜は香水をつけない。多分、どこかの誰かから移った匂い。

 むき出しになった茜の両腕や肩には、派手な色彩をふんだんに使った天女の絵が踊っている。

 「本当に泣きたくなったら、俺のとこにおいで。死ぬまで携帯の番号、変えないから。」

 私はくしゃくしゃになったソフトクリームを口の中に押し込み、茜が右手に引っ掛けたスウェットに顔を押し付けて、何度も何度も頷いた。

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