最終話 月に照らされた佩玉

 冷たい川の水に入ったのに、平気だった月鈴ユーリン、風邪を引いた天籟。月鈴の実家を借りて二、三日寝込んだ。その間、はじめて月鈴がお粥を作ってくれた。かいがいしく看病してくれたので有意義な休暇だった。しかしやっと治ったと思ったら、もう別の省に行くことに。


「短い休暇……だったな」


 天籟はかなりグチグチ言って休暇を伸ばそうと捧日を困らせたが、月鈴も後宮に帰るので渋々部屋をでる。森を出る前に見送ろうとする月鈴に佩玉はいぎょくを手に渡す。

「これは佩玉ですね‼ もしかして手作りなのですか」

「日数がなかったから、職人に手伝ってもらったけどな……」


 月鈴は佩玉を太陽にかざした。翡翠はおうとつのある半円だった。

「ところで、この翡翠の半円の形に何か意味はあるのですか? ふつうは穴のあいた円形だから不思議だと思って」


玉鉤ぎょっこうって知っているか? 儀式のときに使う革帯を留める鍵のことだ。玉鉤は半円形、昨晩は鉤月こうげつだった。それでオレの半月の佩玉と月鈴の半月の佩玉をくっつけると満月になる」

「天籟さまとお揃いですね! わたしお揃い、欲しかったんだ」

 嬉しそうに腰に佩玉をつけ、笑う月鈴。


(たまには素直になってかわいいな……よし)


「……ゴホンッ。月鈴、たしか隠ノ領で取れた翡翠は、満月の光に照らすと光ると聞いたが……」

「ええ、常世川から流れてくる特別な翡翠なんですって」


 天籟はさりげなく月鈴に近づき甘い声でささやく。

「今度……いっしょに月を見よう――な?」


 天籟は月鈴の手に触れ、つうと指を滑らせて絡め、きゅっとにぎると、手を引き寄せ指先に接吻キスをする。

 天籟は長い髪をなびかせ、切れ長の艶めいた瞳でのぞきこみ顔を近づけた。月鈴の鼓動はトクンと跳ね耳まで真っ赤になった。


「は……はぁぁ。もう! そうやって各国の公主を口説いていたのね⁉」

 いい雰囲気になったつもりの天籟だったが、月鈴の反応は違った。

「何の話だ……?」


「宴の日、諸侯に捧日さんが言ったらしいですね。わたしの故郷だから御戯れしませんって、じゃあ他所ではしているのね? 侍女が話していたって美玉メイユーさんから聞きました」

 月鈴は鋭い鷹の目のように睨む。


「それは、誤解だ~」

 天籟の叫び声が森にこだまする。



 ***



 ガラガラガラ……。


 再び本土に戻り、馬車にゆられ頬杖をつき憂鬱そうな天籟は捧日にぼやく。一話冒頭とほぼ同じ状況。


「妻を口説いて怒られるのって何なんだ? オレたち両想いのはずなんだけど、ブツブツ……」


「ははぁ。月妃さまは森の中で鷹とばかり会話していたので、恋愛経験はほぼないかと……。長期戦ですね。それならば、他所で女を作ればよいのです。あなたは帝ですから」

 天籟に同情しつつ、ぴしゃりと捧日はいう。


「い・や・だ。もし見つかったらそれこそ二度と口を聞いてくれなくなりそうだ。女人の情報網は早い上、歪曲しているのに皆信じるから余計にたちが悪い」

 月鈴に睨まれたことを思い出し身震いする。


「相手を理解するには、まず夫婦の会話がたいせつですね。では、なるべく早く会えるように日程を組みますね」

「そうしてくれ。それと娟々えんえんに言っておけ。いくら月鈴が恋愛に疎いからって煽るのもたいがいにしろと。妃の心得五十項目なんて存在しないだろ。月鈴の気持ちはゆっくりでいいんだ……。それに妻を口説くのも悪くない」

「はい」


 腰に佩いたお揃いの佩玉が揺れる。天籟は扇子を仰ぎ窓の外を眺めた。




           月夜の佩玉 完





 「月夜の佩玉編」までお読みいただきありがとうございます(≧◇≦)タグ通りこれで溺愛になりましたか? たぶんなりましたね(゚∀゚)⁉ ここまでお読みくださり感謝ですペコリ(o_ _)❀


まだ10万字達成してないので、ここからは雲嵐編です。

よかったらお暇なときにでもどうぞ(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾📚

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