最終話 桜桃 千葉の枝、照耀 雪天のごとし

 まだ寒い桜の季節、淡い桃色の花びらが白雪のように桜が咲き満ちる。


 馬車から降りて、帝らしく気高く精悍な顔つきになった天籟が立っていた。そして月鈴ユーリンを見ると、表情を緩めた。


「久しぶりだな――会いたかった……」

 半年ぶりに会った月鈴と天籟、二人とも顔を見合わせると急に緊張した。



 ***



「あのこれ……お返します。即位の式典の時に話す機会がなくって……」


 月鈴はおずおずと布に包んでいたのを広げると天籟の母の形見、翡翠の佩玉はいぎょくだった。

「ここに来るのが遅くなってすまない――。捧日がなかなか時間を作ってくれなくてな。月鈴には色々助けてもらって、おかげで波国の侵略を止めることができた。ありがとう……」

「いいえ、少しでもお役に立てて光栄です」


「コホンッ。え、えーと、月鈴とは、もう正式な妻なのにかりそめで、解決すればこの婚姻はなかったことにする約束だった。順序逆で変な感じだけど改めていうぞ。知っていると思うけど、オレは……」


「うん、知っている。鷹のとき聞いた」

 ヒラヒラと桜の花びらが二人の前に散る。


「そうか、そうだよな……」


 しーん。頭をかく天籟。

 月鈴はもう一度告白されるのは照れるので、思わずつっけんどんに言ってしまった。気まずい空気が漂ようので思い切って切り出した。


「天籟さま、ひとつ聞いていいですか」

「いいぞ、何でも聞いてくれ」

「なんで、わたしなのですか? わたし、妃は無理ですよ。後宮のことは分からないし、外交上、新たに娶るであろう妃嬪たちの交流など、多分まとめられない。女同士のアレコレ苦手です……。好きって感情は嬉しいけど、大国を統べる妻には相応しくないよ。言葉遣いも直らないし。もっと燿国の民に祝福されるような妃選びは一時の感情で決めない方が……」


「一時の感情じゃないよ。この半年ずっと考えていた。オレは各国周っていると、その国の公主ひめをたくさん紹介された。みな賢くて、気配り上手で、控えめで魅力的な美姫だったが……」

「はぁ……⁉」

 鷹のような鋭い眼差しで天籟を睨む。


「待て待て。話を聞いてくれ。横にいてほしい相手は月鈴だけだ。妃選びはオレが決める。月鈴と出会って、欲がでた。生きたいと思ったし、未来を描けるようになった。それにオレは、鷹使いの月鈴が好きなんだ。子を成すだけの妻ではなく、夫婦として向き合いたいと思っている。月鈴の母君が言ったように、一本の木を君と支え合って育てていきたい……」

「……!」


「国との友好関係のために公主を利用するような後宮制度を廃止する。血筋で帝を決めるのはやめる。そうすると宮女たちの働き場所を考えないといけない。だから、少し時間はかかる。月鈴はその間、隠ノ領に帰って精霊が訪れる自然をとりもどしたらいいさ。ときどき会いにいく。案内、してくれるんだろ」

「う…ん……」

「それで、返事は?」

 天籟は緊張の面持ちで聞く。


 月鈴はうつむき、少し考えて、優しい風に花びらがひらひら散る桜の木の方に顔を向けた。

 桜の花は寒い冬を乗り越えて春に枝という枝に咲き溢れる。その輝きは真っ白い雪の日のよう。そしてあっという間に散るのは儚くも潔い……。


「誰が、隠ノ領に帰りたいって言ったの⁉ そんなにわたしと離れている方がいいの?」

「いいや。もちろん側にいて欲しいが……」 

「天籟さま。イヌワシや大きい鷹以外、鷹ってあんがい街中に住んでいるんですよ。お城の広い庭園も、飛龍フェイロンたちは気に入っているの――」

「……え」


「それに……天籟さまとのお茶会は何ものにも代えがたいしあわせな時間です」


 月鈴はくるりと振り向くと、恥ずかしそうに頬を桜色に染め、とっておきの笑顔を見せた。

「月鈴、それって―……んむ⁉」

 袖をつかみ月鈴は返事の代わりに思いっきりつま先立ちして天籟に顔を近づけた。



 うっそうと茂る木々の隙間から二人のようすを見ていた浩宇ハオユーは額に手を当て嘆く。

「陛下って別に女知らないわけじゃないだろう、最初から月鈴にリードされて、これじゃあ先が思いやられるなぁ……」

 隣にいた捧日は感慨深く二人を見つめた。

「いえ、これでいいのです。わたしは陛下と色んな国を周りましたが、良い国って、女子が元気なのですよ。さて、浩宇さん行きましょう」


 そこへ侍女の詩夏シーシがやってきた。

「ああ、よかった。こんなところにいたのですね。美味しいお茶とお菓子をご用意しました。桜の木の下でお茶会をしましょうか」



 ***



 後の燿国の正史に記されています。


 ――始皇帝の生まれ変わりとされる雲帝はその後、国を安定させると第九皇子の汀州に帝位を譲る。


 ――陛下は退位したのち、ゆえ上皇妃殿下と共に離島の隠ノ領に渡る。数年後、澄んだ川に蛍が舞い、精霊の訪れる森になった――。




           皇家の呪い 完





 最後までお読みいただき大変感謝ですヾ(≧▽≦)ノ 素人で長編を書き始めて三作目なのに、厚顔無恥なわたしは一番ムズイ中華ファンタジー小説に手をだしました(笑)書いたものの名前だけ中華になってしまい反省💦 でも少女漫画みたいな自分の好き展開盛り盛りで、楽しく書けました~( *´艸`)文章が苦手なわたし。みなさまは文章の達人「多分、こういうことが言いたかったんじゃないのかな……」みたいな解釈で大丈夫です。本当にありがとうございました! えっと、これまだ八万字くらい。カクコンに参加なので十万字にしなければ💦 蛇足編として、溺愛新婚編(全七話)もよかったらどうぞ♡ 

こちらはほのぼのです (o*。_。)oペコッ

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