第38話 幕が上がる
天籟が天子宣言している少し前の出来事——。
またまた民衆にまぎれ
拝殿は大きくて横にながい白大理石の階段が見える。その階段の中央は皇族専用の神聖な階段があった。
月鈴は皇族以外が使用する両脇の階段下に捧日に頼まれ
「お前、誰の許可をもらってこんなものを敷いているのだ」
「ええっ。いや、なんていうか……。そのぉ」
「怪しい奴め、こっちにこい!」
月鈴は大柄な武官に腕を掴まれ別の場所に移動させられた。
(わーん、
連行された場所は一時的に拘束する牢屋だった。ボロボロで建物自体ゆがんで今にも倒壊しそうだった。
「広場の警備にあたっている。今、長時間持ち場を離れるわけにはいかない。あとでたっぷり話を聞いてやるから、それまでここにいろ!」
武官は荒っぽく月鈴を牢屋に放り込んだ。
「そ、そんなぁ~ここを出してください! ちょっと場所取りしていただけです」
「うるさい! あとで聞く。ったく面倒起こしやがって」
ガチャリ。と鍵をかけた。
(どうしよう。まだわたしにはやらないといけないことがあるのに!)
しくしく泣く月鈴は涙を拭った。しかし今日は時間がないのだ。
「泣いてはいられない。とにかく牢屋からでなくちゃ!」
さいわい牢屋は月鈴だけだった。早速、脱出を試みる。土壁だからと思い、素手で掘って隙間を作ろうとする。いくら建物は木造で簡易的な牢屋であっても鉄格子に変わりない。簡単に壊れるはずもなく短時間では無理だ。次は鍵穴に指を突っ込み開かないか試した。月鈴の指は血だらけになってしまった。
「ううっ痛い。どうしよう。時間がない……」
(火を熾したら
上を見上げ、低い屋根板の隙間の藁を集めて、地面を掘って石ころを見つけた。
「よっしゃ! これで火がつけば! ……って、わたしが死んじゃうかしら?」
まあ、いいやと石と石をカッカと叩くが、女の力では火花も散らない。何度も火を熾そうとして火はつかなかった。力尽きて倒れ込んだ。
「やっぱり、火打石じゃないとダメだったか……」
すっかり気落ちしてまた泣けてきた。しかし時間がないと自分を鼓舞して天井が低いから登ってみようと鉄格子に足を引っかけて、屋根の板に触った。
(このまま、板を剥がせば出られるかも)
鉄格子に足をかけたまま手を屋根の板に力を入れるが、ビクともしない。
「そんなぁ……」
月鈴は再びしくしく泣く。辺りは次第に暗くなり途方に暮れていると、牢屋の出入り口で二つの影、誰かと話しているようだった。見張りの者が慌てていなくなった。
「?」
(あれ? なんかあったかな?)
金属がこすれる音、一番奥の牢屋に入れられていた月鈴は誰かが近づいて来ると思った。廊下の向こうにいたのは見慣れた人物だった。
「
***
詩夏は木の板にたくさんついている鍵の中で、月鈴がいた牢屋の鍵を見つけガチャリと開けた。
「
詩夏は近くの水場を案内して、月鈴の手を洗って、持っていた布で月鈴の指にくるくる巻いた。
「詩夏。ありがとう。よかったぁ~。それにしても鍵……。わたしどうして出してもらえたの? それに詩夏、こんなことをして大丈夫なの」
「鍵のことですか? ふふ。もちろんお金に物を言わせましてよ。見張りの者を買収しましたわ。わたくしは貴族なのですからお金はたくさんございます」
片目を瞑り嬉しそうに詩夏は月鈴に話す。
(詩夏は真面目な侍女だけど、ちょっと変わった?)
「なんでわたしが牢屋にいると分かったの?」
「はい。捧日さまと何度もやり取りをしていまして、当日は月福晋の援護にまわるよう仰せつかっておりました」
「でも、詩夏の実家は大丈夫?」
「ええ、絶対に関わるなと釘を刺されました」
「……やっぱり」
「でも、むかしから天籟殿下の推しであり、そもそもわたくし月福晋の侍女ですから!」
「詩夏……。もう、よき侍女を持ってみんなに自慢したい」
「月福晋……」
「二人の時は月鈴って呼んで」
詩夏は皇族の秘密の通路を月鈴に案内して、浩宇の待ち合わせ場所に辿り着いた。月鈴の姿を見てほっとした表情の浩宇だった。
「浩宇……。お待たせしました」
「ふー。ずいぶん待ったよ~もう来ないかと思った」
「……ごめん」
小さな天幕が張ってある場所に移動して、浩宇はニカッと笑った。
「さあ、月鈴の出番だよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます