第34話 海波王の思惑

国が……人道的介入? 会議は中止します。解散! また連絡します」

 緊張に包まれる。一報が入ってから、捧日は色んなところから情報収集するとして夜の会議は急遽終了した。



 ***



 大急ぎで柳家別宅に戻った月鈴ユーリン浩宇ハオユーたち。ネズミの意識を乗っ取った月鈴ネズミは人間に戻る。


「ねえ、燿国はどうなっていくのかな……」


 不安そうな月鈴、鷹小屋の様子を見て戻ってきた浩宇は椅子に座る。

「僕らができることは限られている。また捧日さまから連絡あるさ。それより、いくら月鈴ネズミ姿が嫌だったからって、天籟殿下にあの態度はないだろう」

「……」


 ――数時間前の夜の会議を思い出す。ちっちゃい月鈴ネズミは不機嫌そうに天籟を睨んだ。


(だって、だって、久しぶりに会った天籟さまは日に焼けて男らしくなって……。近づくなんてとんでもない。来ないでほしい。恥ずかしい。なんて浩宇に言えない)


 天籟のことを考えるとみるみる頬が赤くなる。

「あれあれ、男として意識しちゃったのか~? 色気づいちゃってさ。殿下は今ごろ落ち込んでいるかもしれないから手紙には、照れただけだって書いておくよ~」

「浩宇! もう、違う! それより、隣国が人道的介入ってどういうことかな。来儀皇太子は何がしたいのかな?」

「うーん。確かに変だな……。天籟殿下が不在でも、そろそろ自分が皇帝の座に就いたぞって発表があるはずなのに。城内で何かあったんだろう――」



 ***



 数日後――。


 今度は国から公式に皇殺しがあったと発表。


 ――君主を弑逆という暴挙にでたのは次期帝の来儀皇太子殿下だ。それにより国が一時的に機能不全に陥った。そこで来儀皇太子と翠蘭賢妃は皇殺しの罪で、二名の支配権を簒奪さんだつした。



 ***



 チリン。鈴の音は鳩部屋に伝書鳩が戻ってきた時に鳴るように仕掛けてある。伝書鳩は鷹をみると怖がって逃げるので、もちろん鷹小屋と木箱で作られた鳩部屋とは距離が離れている。


「ちょっと、手紙を取りに行ってくる」

「うん、浩宇、お願い」


 戻ってきた浩宇は森の中で鷹狩りの訓練をしていた月鈴に声をかける。

「捧日さまから手紙だったよ」

「なにが書いてあるの? 読んで」

 飛龍を据えているので浩宇に頼んだ。


「いいよ。現在、宰相数名と廃太子となった燿国の第二皇子の瀏亮りゅうりょう殿下からの要請により、波国が人道的に介入することになった――」

「なんでも本来、瀏亮殿下が次期帝だったのに、第六皇子の来儀皇太子殿下の策略によって追い出されたとか……」

「そうなのー?」


「ふむふむ。捧日さまによれば、たしかに瀏亮殿下が帝候補に挙がったことはあるが、勉強もしないし、女にだらしなく問題起すし、結局、来儀皇太子殿下に決まった。それはあり得ない話だってさ」

「これは国内の次帝争い騒動なのになんで波国が人道的介入するの?」

「本当だな、人道的は名目で、乗っ取る気じゃないのか⁉ 瀏亮殿下って母親が波国出身らしいぜ」

 月鈴は食い入るように手紙を見つめた。



 ***



 こちら山の民の住む山奥に天籟たちにも情報収集のため外出中の捧日から手紙を受け取った。



 ――波国からの発表によると、国のトップに君臨していた雲雕帝が殺され、燿国は機能不全に陥って、混乱している。

 天子である雲雕帝を弑逆という暴挙にでたのは、来儀皇太子殿下である。そこでちょうど滞在中の波国の要人が宰相と共闘して捕らえた。


 また雲雕帝の妃である翠蘭賢妃が自分の息子を帝にしたくて、次期帝であったはずの瀏亮殿下に色仕掛けで近づき陥れ島流しにした。皇殺しの首謀者は翠蘭賢妃である。

 西王母になれなかった傾国の悪女。


 今現在、波国の要人が来儀皇太子殿下と翠蘭賢妃を拘束し管理している。混乱を納めるべく、長年の友好国である波国の海波王が近日中に燿国を訪問予定——。




「……翠蘭賢妃は決していい妃とは言えないが、これは作為的に仕組まれた事件だった気がする。第二皇子の瀏亮兄上は波国に入れ知恵されたのか、とても一人ではそんなことできるはずない。瀏亮兄上には悪いが、ぼんくらだぞ」

 天籟はため息をつく。


「ちくしょう。どうなってんだ!」

 雲嵐うんらんは不満を口にする。ちょうど、山の民族の長である雲霧うんむを連れてきたので捧日の書いた手紙を読んでもらった。読み終わると「なるほど」とつぶやき笑った。


「ふぉっふぉっ。そうじゃ、本当は帝が無能だったとしても、稀代の悪女に騙されたことにした方が民衆から同情が集まるからのぅ。仮に瀏亮殿下が皇帝になった場合、宰相は波国出身の者にするんじゃなかろうか? 皇帝は傀儡かいらいでよい」

「ほらやっぱり乗っ取りじゃねーか。じいさん、何かいい案ないのか?」

 雲嵐は尋ねる。

「……」

 長い髭をなでて考え込むが、雲霧はやがて天籟を見つめた。


「――あちらも本気で乗っ取る気だろう。何事も演出が肝心じゃ。さて、捧日さまと相談するとしよう」

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