第27話 永の別れ
小鳥がさえずり、薄暗い部屋の中に一筋の光が届く。しばらくするとやわらかい陽の光が部屋いっぱいに散らばる。寝台に横になっていた天籟は空が明るくなったことに気がついた。
(頭がぼんやりする。朝か……。
もしかしてオレが生きたいと望んだことで争いが起こっているのか?
ならばオレが死ねば丸く収まるのではないか……?
民の平和の対価として長年、次期帝以外の皇子は贄になっていた。野心を持たぬようこれまで生きてきたのに――。
鷹が自由に空を飛ぶ姿を見て羽ばたきたくなったオレの罪。
翠蘭賢妃の言葉が確かなら、争いの火種がオレなのか? なら鴻洞兄上も……。
「全部オレのせいだ……」
気がつけば涙が頬を伝っていた。もしも揉めている間に他国がその隙に侵略してきたら? 何の罪もない真面目に生きてきた民が巻き添えになるかもしれない。答えの出ない問いを昼も夜もひとりでずっと考えていた――。悪い方にしか考えられず、己を責めた。
天籟はふらりと起き上がり、自害しようと思い詰め、涙で周りがよくみえず、一心不乱に何かないかと棚の中を漁る。すると引き出しの奥に短刀を見つけた。
コツンコツン
小窓から音がする。見ると、鳥の影が見えた。近づくと、蒼鷹の
「
屋敷の外で待機している兵士に気づかれないようにそっと窓を開けると、飛龍は部屋に入ってきて円卓に着地した。
「首には手紙か、伝書鳩ならぬ伝書鷹だな」
冷静になろうとふうーと深呼吸して椅子に座り、大人しくしている飛龍の首から手紙を外すと
「よしよし、もう行ってよいぞ」
飛龍に声をかける。すると飛龍は飛び立とうとせず、ジッと天籟を見ていた。
「なんだ?」
ジッと飛龍が見る。
「――まさか、お前、
「チキッ」
コクコクと首を縦に振った。
「月鈴……。会いたかったぞ」
またもや秘術を使い
「そうか……。危険な目に遭わせてすまなかった。ありがとう」
頭をなでられた鷹月鈴は天籟を見ると瞳がキラリと光っていることに気がつく。
(まぁ天籟さまったら、やつれちゃって、よっぽど心細かったのね。なにせ箱入り皇子さまだからな。少しだけ慰めに来てやったぞ。ふふっ)
「本当に、君って人は……参ったな。ひとりでいるとロクなこと考えないなオレって……」
額に手をおき天籟は深く息を吸い込むと、緊張の糸がほぐれ、力なく笑った。
(天籟さま、軟禁状態がよっぽど堪えたのね)
鷹月鈴、パタパッと天籟の肩に乗った。
「なんだ? 触ってもいいのか?」
「チキッ」
ふだん
「外に出たいのだな。窓を開けてやる」
「チキッチキッ(ありがと。またくるね)」
「月鈴……」
「チキッ(なに?)」
「月鈴が好きだ」
天籟はそっと顔を近づけ鷹月鈴の
(……は⁉ ええっ 今、
「チキーーーーーッ!!」
鷹月鈴、混乱して天籟の頭を
「わわっ。月鈴ごめん。悪かった。悪かった。もう会えないと思って……」
「チキチキッ」
(もう、なに弱気なこと言っているの‼ でもこの数日間で天籟さまはずいぶん痩せちゃったかも……顔色も悪いわ)
「チキッ……」
(でも、鷹のわたしは慰めることができない)
「……悪かったな。オレのこと好きじゃないのに、妻にした上、隠ノ領のことを何もできず。オレは処刑されるかもしれない。二度と会えないかもしれないから――」
「チキッチキッ」
(そんな……そんなことないよ。今生の別れみたいに言わないで)
「月鈴。もう解放してあげる。
天籟は小窓を開け、鷹月鈴を空に放った。
(天籟さま……)
朝日を浴び、空に飛び立つ鷹の影は逆光でかすみ兵士には見えなかった。天籟は憂いを帯びた表情のまま鷹月鈴が見えなくなるまで見送った。
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