第3話【生活保護の受給は、難しい。】

翌日。

さっそく、支所に生活保護の申請に行ったが…。



「申し訳ありません。いくら世帯分離をしていても、同じ屋根の下で暮らしている以上、その単位での申請になってしまうんですよ…」

「どういう事なんでしょうか?」

「世帯分離をしていても、『同じ資産を持っている人達』としてみなされてしまうんです」



「私…一人暮らしするお金も無いんですよ!?」

「ええ…。でも、制度上、そうなってしまっているので。『寺田さんが家を出て1人になった』という事実が確認出来れば、生活保護の申請が出来るようになるんですが…」


「私に、『ホームレスにでもなれ』と?」

「いえ…。一人暮らしが出来るアパート等を探して、見付けて、そこに住めば良いんですよ。今時は、敷金や礼金が要らないアパート等もありますし…」

「はぁ…」



「住民票は今の住所のままで生活保護の申請は出来ますので、早くアパートを見付けてから、新しい住居の管轄先の市役所にご連絡ください」

「…分かりました──」



結局、生活保護の申請は出来なかった。


「さっ!早くアパート探さないと!!」



美由の母親に、「不動産屋さんに行きたい」とAYAが伝えた。

すると美由の母親の口から、耳を疑うような言葉が発せられた。

「私1人では決められないから…」

“──はぁ!?”



「律は『出ていけ!』って言ってたじゃん!!」

「あなた1人では、一人暮らしはムリです」

「何でそう決め付けるの!?とにかく、不動産屋さんに行ってください!!」

「行きません!」



結局、不動産屋さんには行けずに帰ってきてしまった。


「あぁもう!!“これでこの家とはオサラバだ~”って思ってたのに~!!」

「仕方ないよ。律の帰りを待とう。どうせまた、律に告げ口するだろうから」



スマホでネットサーフィンやアパート探しをしていると、律が帰ってきた。

「おかえり。律。話が──」

「ご飯の時に!」

“あのババア。もう話しやがったな!”



またスマホを触(さわ)っていると、部屋の戸をノックして、美由の父親が戸を開けた。

「美由!!『生活保護を受けたい』って!?父さんは反対だぞ!!」

“はぁ~!?”


「生活保護の申請に行ったら、『一旦1人で家を出て、それから転居先の管轄している役所に申請に行かないといけない』って言われて…。だからお母さんに、『帰りに不動産屋さんに寄って』って言ったんだけど、『私1人じゃあ決められない』とか言われて、言い合いになっちゃって…」



「生活保護を受けて、一人暮らしをするのか?」

「うん…」

「“出来る”と思っているのか!?お前には出来ない!!」


“だ~か~ら~。何でそう決め付けるのよ~!!”



AYAと美由の父親とのやり取りを聞きつけて、律も会話に入ってきた。

「姉ちゃん。人生、そんなに甘くないよ!!」


“お前、昨日は「出て行け!」って言ってたよな!?”


「そうだぞ!」

「この家に居たくないのは、『グチグチ文句を言われるから』だろ!?この家はまだ甘い方だぞ!!この家で我慢出来ないようじゃあ、一人暮らしなんて到底(とうてい)ムリだよ!!」


“この野郎!!フザケんなよ!!”



「──やってみないと、分からないよ…」

「はぁ!?甘ったれるな!!じゃあ姉ちゃん。今までこの家に帰って来てから、何か努力したか!?」

「……」

「何もしてないだろ!!いつもグータラグータラしてばかりじゃないか!!」


“確かに、ベッドに寝てばかりだけど…”



「オレなんてな!今の職場に10年以上勤めてて、嫌な事もたくさんあるけど、たくさん我慢してるんだよ!!」

「そうだぞ!律はよく頑張ってるぞ!!」


“あ~また出た、『律アゲ』。こうやって美由達は小さい頃からバカにされたり比べ続けられてきたから、人格が解離しちゃったんだよな~”



「父さんだって酒もタバコもやめたし、すごい努力してる!!なのに、姉ちゃんはしてないだろ!!」


“あ~はいはい。どうせ、そんな努力はしてませんよ~”



「私だって努力してた!!でも、認めてもらえなかった!!」

「ほら。そうやって、またすぐに人のせいにする!」

「人に認めてもらうには、相当な努力が必要なんだよ!」


“あ~。うるさいうるさい!!”



「まともな努力が出来ない奴が、一人暮らしなんて出来るワケないだろ!!」

「やってみないと分からないよ!!」

「ムダムダ。どうせ、すぐに泣きながら帰って来るのがオチだよ」



──そう。この家の住人は、そうやってずっと美由達の可能性を潰(つぶ)してきたのだ。

そして、今回も潰す気満々のようだ。



「──とにかく。今回は反対だからな!」

そうして、部屋の戸は閉められた。



「あ~あ。“今回は大丈夫だ”と思ったんだけどな~」

「失敗…かな」

そう言って、ベッドに突(つ)っ伏(ぷ)した。



要するに、この家族は、美由に早く寺田家に帰ってもらいたいのだ。

多分家計の心配もあるだろうが、近所に対する体裁(ていさい)の方が大きいと思う。

そして、寺田家に帰らないのなら、オレらをこの家から出したくはないらしい。


やはり、『籠(かご)の中の鳥』というワケか──。

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