エルメアーナとアイカユラ  パワードスーツ ガイファント外伝 〜誤解から始まった始まったデスマーチ 誤解が無くなれば、良い友となる。〜 KAC202210

逢明日いずな

第1話 眠れない夜 2人のこれから


 エルメアーナのデスマーチは、ヒュェルリーンの調整によって終了した。


 アイカユラは、ヒュェルリーンに説教をされて、その夜は、凹んでいた。


(そうよね。 エルメアーナに負担を掛け過ぎて、怪我でもされたら、もう、剣は作れないのよね。 私は、焦っていたのかしら。 人の健康管理も含めて管理だと痛感させられたわ)


 アイカユラは、ヒュェルリーンに連れられて店に入った時、エルメアーナが、鍛治仕事に疲れて、店番をしている時に、ぐったりしていた様子を見て、暇を持て余していたのだと思ったのだ。


 それで、アイカユラは、新たな受注を受けてしまった。


 この店に派遣されたのは、自分が試されていると思ったのだ。


『この不良債権のような店を立て直せ! 』


 アイカユラは、自分にそう言われたように思ったので、最後のチャンスを与えられたのだと思って営業に力を入れたのだった。


 ただ、ジュエルイアンとヒュェルリーンとしたら、年齢的にもエルメアーナに近く、将来有望だと思ったアイカユラに、エルメアーナを助けてもらって、今の忙しさを解消させようとした。


 彼女なら、仕事の調整も、生産管理、資材調達、そして販売においてもエルメアーナを助けられると思っての配置だったので、決して、厄介払いのつもりでは無く、むしろ、彼女に自信を付けさせたかったのだ。


 それが、お互いに誤解をしてしまい、デスマーチのスタートになってしまったのだ。


 ただ、途中で気がついたヒュェルリーンによって、調整され、夜の残業が無くなって、昼間だけになったのだが、今まで、朝の8時から、夜の10時半まで、びっしりとスケジュールして、それを実行していたので、突然、時間が空いてしまった。


 そのため、深夜まで、エルメアーナの世話をして寝ると、朝は、エルメアーナを時間通り起床させて、朝食を取らせるので、夜は、大して寝られなかった。


 その生活習慣が抜けず、日付が変わる頃になっても、目が冴えてしまったのだ。


 今までは、エルメアーナの為に忙しく次の準備をしていたのだが、今日から、それを行わなくて良くなってしまった。


 眠ろうと思っても、今までの生活習慣から、眠れず、そして、夜の残業も無くなってしまったことで、気が抜けてしまい逆に眠れずにいた。


(これで、私は、この店から、別の店に移動させられるわね)


 仕方なく、リビングで、ぼーっと椅子に座って、考え事をしていた。




 すると、エルメアーナもリビングに来た。


「なんだ、お前も眠れないのか」


「あら、エルメアーナもなの」


「ああ、さっき眠ったのだが、直ぐに目が覚めてしまった。 まるで昼寝の癖が残ってしまっているようだ」


「そうね。 今まで、夕飯の後も少し寝ていたものね」


 エルメアーナも今までの生活習慣が抜けずに、寝付けないようだ。


 すると、エルメアーナは、棚からボトルを出してきた。


「少し飲まないか。 昔、ヒェルから、引っ越し祝いにもらったのだが、私は、飲む習慣が無かったので、そのままなんだ」


「え! ああ、そうね。 少し飲みましょうか」


 そう言うと、キッチンから、グラスを持ってきた。


 ボトルの封を開けて、中のコルクを抜くと、グラスに注ぐ。


 透明ではあるが、僅かに黄色とも金色ともいえる色がついている程度だった。


「あら、これ、白ワインね。 じゃあ、グラスの半分まで入れて」


「ふーん、そうなのか。 初めてみるからよく分からない。 でも、果実の匂いがする。 甘いような匂いだ」


 エルメアーナは、言われた通りに注ぎながら、感想を述べた。


「あら、エルメアーナって、匂いにも敏感なのね」


「ああ、父に、微妙な感覚の違いを、いつも感じるように言われた。 それに、フィルランカの料理は、いつも凝っていた。 最初は、ただ、美味しいだけだったが、フィルランカの高等学校に入った時、色々あって、それ以来、食事の味だけでなく、匂いについても確認するようになったんだ。 あの時のフィルランカは、ちょっと怖かった」


「そのフィルランカさんのおかげで、エルメアーナの舌が肥えていたのね」


「ああ、そうだ。 フィルランカは、色々な、お店の料理を再現してくれた。 食べに行かなくても、フィルランカが作ってくれたんだ」


 エルメアーナは、懐かしそうに話をする。


(帝国の家の環境が、食事の味の変化も、簡単に見分けてしまう程になっていたのね。 それに、今まで、エルメアーナの事を、知らな過ぎたのかもしれないわ)


 アイカユラは、エルメアーナの話を聞いて考え込んでいた。


「じゃあ、飲もう」


 エルメアーナは、グラスを一つアイカユラに渡すと、その持ったグラスに自分のグラスを、軽く当てて飲み始めた。


 エルメアーナが、飲むので、アイカユラも口を付けた。


「なんだ。 すごく甘い。 お酒は辛いと思っていたのに、全然違うな」


「きっと、ヒュェルリーンさんが、選ぶ時に、甘いものを選んでくれたのだと思います。 今まで、お酒を飲んだ事がないなら、甘いものの方が入り易いと思ったのでしょう」


「ふーん、そういうものなのか」


 エルメアーナは、感心した様子で、もう一口飲もうとした。


「あ、ちょっと待って、これもお酒だから、口当たりが良いからといって、一気に飲んじゃダメよ」


「そうなのか? 」


「そう、お酒は、お水とかのように飲んじゃダメよ。 悪酔いするし、急に酔いが回ってしまうから、一口をゆっくりと味わって飲むのよ」


(そうなのか、甘かったから、一気に飲もうと思ってた。 そうか、お酒は、水のように飲んではいけないのか)


 エルメアーナは、グラスを見ながら、少し口をつけると、僅かに口に含んだ。


 そして、ゆっくりと喉に送った。


「そうだな。 口に含んでいると、匂いを感じるな」


 お酒の飲み方を聞いて、エルメアーナは、満足そうにした。




 エルメアーナは、口の中や喉に残ったお酒の感覚を心地良く感じていた。


 そして、アイカユラの顔をみる。


「なあ、アイカ。 これからの事なのだが、今まで通りのやり方で、分担してもらえないだろうか? 」


 突然、エルメアーナの話が変わり、しかも、今まで通りに分担して欲しいと言われて、驚いた表情をする。


「今、私が、話しのできる男は、ジュネスという学生だけなんだ。 それ以外の男と話ができないでは、商売にならない。 それに、今回、アイカの言われた通り仕事をしたが、案外、私は、集中できて、いつも以上の仕事ができたと思ったんだ」


 それを聞いて、アイカユラは、意外そうな表情をする。


「私は、鍛治はできるが、それ以外の事が、得意でないと、ここに店を出して気がついたんだ。 帝国にいた時は、父が、全て用意をしてくれたので、材料の手配だとか、支払いだとか、その辺りが、上手くいかないので、今回、アイカが、全ての段取りをしてくれたことで、鍛治に専念できたのは大きかった。 だから、これからも、私が鍛治に専念できるように、他の事をおこなってもらえないだろうか」


(えっ! 私は、てっきり、追い出されるかと思ったのに、まだ、ここにいていいの? )


 エルメアーナは、心配そうにアイカユラを見る。


「あ、ええ、私、……」


「ああ、材料の手配もだが、販売も面倒を見てくくれると、本当に助かる。 それだけの事をおこなってくれるアイカが、私には必要なんだ」


(どうしてなの。 私は、失敗したのよ。 失敗しても、まだ、私を使ってくれるの? )


 アイカユラは、オドオドしている。


「お前は、私が出来ない事、下手くそな事を、全てこなしてくれる。 だから、これからも、私の面倒を見てくれないだろうか? 」


 アイカユラは、そのエルメアーナの言葉に驚いていた。


 エルメアーナの言っている事は、営業、生産管理、資材管理、経理と、会社であれば、4部署の仕事を1人でこなして欲しいと言っているのだ。


 ただ、ここまで、アイカユラは、それをそつなくこなして、更に、エルメアーナの洗濯もだが、湯浴みの手伝い、そして食事の用意もしてくれていたのだ。


 エルメアーナは、完全に鍛治に専念できたので、それ以外の事は何もせずに済んでいた。


「ああ、でも、これからは、洗濯とか、部屋の掃除とか、自分の事は自分でする。 食事も手伝うから、仕事に関する事は、お願いできないだろうか? 」


 アイカユラは、思ってもいなかった、エルメアーナの提案に、驚いて声がでなかった。


 しかし、エルメアーナは、アイカユラが、愛想を尽かしているのかと思い、真剣にアイカユラにお願いしてた。


「あ、あのー、私は、今回、失敗したと思うのです。 とんでもない仕事量を押し付けてしまったので、きっと、ヒュェルリーンさんに、移動を言い渡されると思います」


「いや、だめだ、ヒェルには、私からもお願いする。 このまま、この店にいて欲しいって、頼む。 だから、この店で、私と一緒に仕事をしてくれないか。 もし、仕事の分担が多すぎるのなら、生産管理は私がする。 店の中だけになるから、それは、私がやってもいい。 だから、これからも、ここで一緒に仕事をしてくれないか」


 その申し出に、アイカユラは驚いた。


「あ、ええ、はい。 エルメアーナが、構わないなら、私は、これからも一緒に仕事がしたいです。 仕事の分担も今まで通りで構いません」


「本当か! 」


 アイカユラの答えにエルメアーナは、テーブルに乗り出して、アイカユラの顔を覗き込んた。


「え、ええ。 ヒュェルリーンさん達に移動を言われない限り、手伝わせてもらいます」


「分かった。 ヒェルには、しっかり言っておく。 私とお前が、ダメだと言わない限り、アイカは、この店にいてもらうことにする」


 その言葉を、アイカユラは、目の前で聞いて、嬉しいのだが、顔が近いので、苦笑いをしてしまった。


「あ、ありがとう、ございます。 これからも、よろしく」


「よろしく頼む。 じゃあ、今日は、これで祝杯だ」


 そう言うと、エルメアーナは、ボトルのお酒を、なみなみと注いだ。


 それを、アイカユラは、困った様子で見ていた。

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