第13話 鳥の観察記録
鳥の観察記録、一日目。
鳥はグルメだ。なんでも食べる。このなんでもというのは、どんなものでもということではなく、人間の食べる多種多様な食事をなんでも平らげる、という意味だ。味にうるさく、なんの調理もしていない木の実などは口をつけず、ララの皿をほしがるのである。
怪我の具合は変わらない。
観察記録、二日目。
鳥はひどい気まぐれだ。だらしなく口を開けて、うつらうつらと眠たそうにしているので、温めたタオルでくるんでベッドに寝かそうとしたら、奇声をあげて飛び起きる。なんでもう寝かせるんだ、と言わんばかりに翼を振って文句を言い、ベッドから降りようとする。ロフトなのに。慌ててキャッチすると、バツが悪そうにおとなしくなった。
じゃあ寝るまで何をする? と訊ねて振り向いた時には、ソファの上で思いきりぶうぶう寝息を立てていた。
怪我の具合は相変わらずだ、と思ったが、鳥は前ほど痛がっていない。そのせいか、以前より増して無茶な動きをするようになった。
観察記録、三日目。
鳥は好奇心旺盛で、おまけにおせっかいだ。食糧を採りに外へ出るときも、川の水を汲みに出るときも、少し動けばすぐに気がついて追ってくる。右翼も脚もテーピングされているくせに、よたよた追いかけてこようとする。車内の掃除をしようと家具をひっくり返していると、自分もソファに体当たりして動かそうとしていた。これが意外に力があり、ソファもテーブルも難なくずれたのがすごいところである。
自分が怪我人、いや怪我鳥であることをもう少し自覚してほしいものだ。
観察記録、四日目。
グルメで気まぐれ、そのくせ好奇心旺盛で、こちらの動きを常に気にしてついてくるくせに、極端なほどビビりである。夜、森に豪雨が降りそそぎ、荒れ狂う風と暴雨が窓ガラスを叩きつけた瞬間、とんでもない奇声を発してベッドから転げ落ちてしまった。柵があるのにそれを乗り越えるほど飛び上がったのだから、よほど驚いたのだろう。
ベッドから落ちた音でこちらも目が覚めてしまい、慌てて駆け付けた。テーピング部分を慎重に調べ、怪我の具合を確かめる。鳥は豪雨と暴風の気配に怯えて縮こまってはいるが、患部に触れても痛がる様子はない。明りに照らして見れば、腫れは治まり変色も落ち着いている。妙な角度に曲がっていた翼も自然な形になっていた。
少し、奇妙だと思う。怪我の治りの速度だ。いや、治りが速いことについては鳥がモンスターであれば片が付く話だが、ペースがおかしい。観察記録を付け始める前は、一日経っても傷の様子はほとんど変わりなかった。ねじ曲がった翼も脚の腫れもひどい変色もほぼそのままで、この調子では全快するまであとどのくらいかかるだろうかと不安になるほどだったのだ。それが、ここ数日になって急に、異様なほど回復速度が上がっている。これはいったい、どういうことだろう。
それから、強がるのとおびえるのを交互に繰り返す鳥を懸命になだめた。すごく時間がかかってしまった。鳥が寝静まったのは、落ち着いたからというより、眠気の限界が来たからだと思う。
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