第5話 夏休みと散歩(前半)
夏休み。難しい問題を数問残して、他は初めの一週間のうちに終わらせた。それから八月の後半まで自分の趣味に没頭していた。
そして夏休みも残り一週間というところで私は散歩をしようと思い外に出をした。
何週間か振りの外。太陽が眩しくて目を細める。光に慣れるまで、玄関で呆けたように薄目で空を見る。
十分ほどして、私はようやく歩き出した。なんとなく歩く道は決めていたけど、全く別の方向へ行ってみたり、同じ場所を何度も通ってみたりした。
夕方になりそろそろ帰ろうかと思っていた時、公園で三方原くんの姿を見かけた。声をかけようかと思ったけど、私は遠目からその姿を見ているだけにした。
声なんてかけられない。三方原くんの隣には同じクラスの鈴谷さんが座っていたから。しかも楽しそうに話している。
確か一学期の頃、三方原くんと鈴谷さんは接点なんてほとんどなかったと思う。少なくとも夏休みに公園で談笑するような仲ではなかった。それなのに何があったのか。私は隠れるようにして二人の様子を窺った。
離れていて会話の内容は聞き取れない。近付きたいけど私の存在を気付かれたくない。
しばらくして空が暗くなり始めた頃、二人はベンチから立ち上がった。それから一言か二言ほど交わし、お互いに手を振って別方向へと歩き出した。
仲が良さそうで羨ましいな。そんなことを思いながら私も公園を出た。
次の日も私は昨日と同じ道を散歩をしていた。三方原くんに会えたらな、なんて思いながら歩いていると曲がり角の先で三方原くんを見つけた。
今日は一人みたいだから声をかけて話をしたい。それたのに勇気が出ない。どうしようどうしようと悩んでいるうちに、三方原くんから声をかけてきてくれた。
「あ、桜庭さん、こんにちは」
「こ、こんにちは……三方原くん」
「どこか行くの? それとも帰り?」
「ううん、少し散歩してて……」
「散歩かぁ……ちょっと暑すぎるけどちょうど暇してたところだし、桜庭さんが嫌じゃなければ散歩付き合ってもいいかな?」
嫌なわけない。むしろ嬉しい。
緩んだ頬を見られるのが恥ずかしくて俯きがちになりながら、私は小さく首を縦に振った。
二人で並んで歩く。広がって歩くと他の人に迷惑だから、と手が触れそうなほどの距離で歩いてるからまるでデートでもしているかのような感覚になる。
隣を歩いているだけで鼓動が激しくなって、嬉しさと恥ずかしさで顔が赤くなる。
ただ歩いてるだけでも充分幸せだけど、言葉を交わさないまま終わるのは嫌だ。
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