第4話 一学期が終わる日に
一週間ほどが過ぎ、夏休みは目前まで迫っていた。
今日の放課後にはもう夏休みだからなのか、登校中の生徒はみんないつもより浮き足立っているように見える。
教室に入った時、いつも以上にみんなが話していてうるさいくらいだった。担任の先生がみんなを静かにさせるまで、いつもの倍近く時間がかかったと思う。
そして、みんなの浮ついた雰囲気を壊すように、朝のホームルームで先生が静かに口を開いた。
「先日、雪野が亡くなった」
みんな、動揺や恐怖のような感情と声を漏らす。先生が動揺を沈めるとクラスのみんなで黙祷をし、ホームルームを終えた。
雪野さんと仲が良かった子たちの中には泣き出す子もいた。こんなことになる前に助ける方法はなかったのか、と自分を責めるような子もいた。表情はみんな暗かった。
それから一限、二限と過ぎて、みんな少しだけ落ち着きを取り戻していた。だからだろう。みんな犯人探しでもするかのように「○○って雪野のこと嫌ってたよね?」とか「○○ちゃん、雪野に虐められてたよね?」とか「そういえば○○くんって雪野にフラれてたよね? それも不快とか言われてたし」とか「そういえば雪野って十日くらい前から無断欠席してたよね……」と口にした。
まるでクラス内に犯人でもいるかのような口振り。でも、朝のホームルームで先生は、雪野さんが亡くなった原因について一切話さなかった。病気なのか、事故なのか、誰かに殺されたのか、自殺なのか。何一つ分かっていない。
だからこんな話をしても辛いだけだ。もし、仮にクラス内に犯人がいるとして、その犯人を見つけてどうするんだろう。
復讐するつもりなのだろうか。それとも殺した犯人の背景に同情でもしてあげるのか。どうであれ、クラス内に犯人がいて良い事なんてひとつもない。クラス内に犯人なんていない。病気や事故で亡くなってしまったのだと思っていた方が幾分も気持ちが楽だ。
私はそっと三方原くんに視線を向ける。雪野さんが亡くなったという話を聞いてからずっと顔色が悪い。平気そうに振舞ってるけど全くそう見えない。
聞いた話だと三方原くんと雪野さんは幼馴染だったらしい。仲も良かったみたいだからきっとショックが大きいのだろう。
三方原くんの支えになりたい。それなのに声をかける勇気がない。
何の行動も起こせないまま、授業は終わり夏休みになった。
今日はそのまま帰ろうかとも思ったが、もしかしたら三方原くんが心の傷を癒すために私を頼ってくるかもしれない。そんな期待を抱きながら図書室へ向かった。
私はいつも通りの席で本を読む。
三方原くんはいつ来るんだろう。そればかり考えていて本の内容が全然頭の中に入らない。
何十分、何時間と時間が過ぎていき、ついには図書室が閉まる時間になっても三方原くんが現れることはなかった。
頼ってくれるって言ってたのに。
もしかしたら、大切な幼馴染を失って、誰かに慰めてもらおうなんて考えられないくらい辛い思いをしてるのかもしれない。
力になりたいけど今はもう夏休み。二学期が始まるまでは学校で会えない。だからといって家まで押しかけるのはきっと迷惑になる。
……寂しいな。頼ってほしかったのに。
私はため息をついたあと、本を戻して図書室を出た。
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