第3話 ありがとう
一学期も終わりに近付いてきた。相変わらず三方原くんに話しかけられず目で追うだけの毎日。
期末テストが終わり、もうすぐ夏休みになるというのに、私はまた左腕に怪我をした。
怪我してもいい事なんて何もない。そう思っていたけど、ひとつだけ嬉しいことがあった。
放課後、いつも通り私は図書室で本を読んでいると、三方原くんが「怪我、大丈夫?」と心配そうに声をかけてきてくれた。
教室を出る時、三方原くんは色んな人に声をかけられていたし、部活の助っ人を頼まれてもいた。だから話しかけてきてくれるなんて思ってなかった。
私はただ頷くしかできなかった。
「この前も怪我してたから声掛ける機会があったら渡そうと思って持ってきたんだけど、よかったら使って」
「……ありがとう」
手渡されたものはそれなりに値段のする絆創膏。傷の治りが早くなるとか、傷痕が残りにくくなるとか、そういったことが書かれている。
値段なんて関係なく、その気遣いが嬉しかった。
それから他愛のない話をしていたらあっという間に時間が過ぎた。
「三方原くん……なんで今日、私なんかに……声掛けてくれたの……? ほ、他の人に、何か……誘われてたんじゃないの……?」
今更聞くのはどうか、と思いながらもそう聞いてみる。
「ん? ああ、あれは全部断った。桜庭さんの怪我の方が心配だし。朝のうちに声掛けれればよかったんだけど、色々あって放課後になっちゃった」
別に朝でも放課後でもどっちでもいい。話しかけてきてくれただけで幸せな気持ちになるから。
「……ありがとう……また、三方原くんと話したい……」
勇気を出してそう言うと、三方原くんは「そうだね、またこうやって落ち着いて話せたらいいね」と返し図書室を出ていった。
私も持っていた本を元の場所に戻してから図書室を出た。それから三方原くんの背中を追いかける。
「ま、待って……」
昇降口でようやく追いついた私は息を切らしながら声を振り絞った。
「そんなに慌ててどうかしたの?」
不思議そうにじっと見てくる。私は少し恥ずかしくて俯き視線を逸らしたまま震える唇を噛む。しばらくして震えが収まると私は口を開いた。
「あの……辛い時とか困った時……頼ってほしい……」
「あ、うん、ありがとう。でもどうして急に?」
「今日と、この前のお礼……少しでも、三方原くんの力になりたいから……」
「そっか。じゃあ怪我とかした時は頼らせてもらうよ。また明日」
三方原くんは笑いながらそう言って軽く手を振った。私は少し恥ずかしがりながらも小さく手を振り、それから靴を履き替え家路についた。
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