第2話 もっと知りたい

 次の日。

 休み時間、ずっと三方原くんのことを目で追っていた。

 ずっと見ていて分かったことが三つある。三方原くんは友達が多く、誰にでも優しく、よく頼られている。

 昨日の私への優しさは私だけのものだけど、三方原くんはその優しさを分け隔てなくみんなに使っている。

 話しかけてもらえたからって少し勘違いしていた。私が特別ってわけじゃない。三方原くんにとってはみんな同じなんだ。

 昨日言っていた言葉を思い出す。クラスの仲間が怪我してたら心配するのは普通、困ってる仲間は助けるのが当然、と。

 三方原くんにとって本当にそれが当たり前のことなんだ、と休み時間の姿を見ていて思う。

 放課後は部活の助っ人だったり片付けの手伝いであったりと、頼られっぱなしだった。

 昨日三方原くんが話しかけてきてくれたのは、きっと偶然誰からも何も頼まれなかったからなのだろう。

 この日、私は一人図書室で本を読み、誰と話すでもなく一日を終えた。

 誰とも会話しない、いつもと変わらない日々。でも三方原くんの姿を目で追ってしまう今までとは違った毎日が続いた。

 二週間ほど過ぎて傷が治ると、私は包帯を外した。

 傷痕が目立つけど私のことを気にする人なんていないから別にいいや。そう思っていたら、その日の昼休み、三方原くんに声をかけられた。


「桜庭さん、怪我治ったみたいだね。よかった」


 お昼を食べようとお弁当を広げていたところで突然声をかけられた。少し驚いたけど声をかけてくれたのがすごく嬉しくて頬が緩みそうになる。喜んでいると気付かれるのが恥ずかしくて、私は俯いたまま「うん……ありがとう」と返した。


「今日僕もお弁当なんだけどよかったら――」


「三方原くーん、お昼食べよー!」


 三方原くんの言葉を遮るような形で雪野さんが割り込んできた。


「雪野、それなら桜庭さんも誘って――」


「えー、今日は私たちと一緒に食べてくれる約束だったじゃん。みんな待ってるよ?」


「え、そんな約束した覚えが――」


「いいから早く早く!」


 雪野さんはそう言うと三方原くんの腕を掴んで強引に連れ去ってしまった。

 連れ去られながら三方原くんが「桜庭さんごめん、お昼はまた今度の機会に」と謝っていたけど、別に約束してたわけじゃないから謝られることなんて何もない。

 でも少しだけ寂しい。せっかく話しかけてくれたのにあまり会話できなかった。

 三方原くんと話したい。でも声をかける勇気がない。だから話しかけてきてほしい。もっともっと、三方原くんのことが知りたい。

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