FFは14へ行かない
横山記央(きおう)
FFは14へ行かない
***
さあページをめくりたまえ。
>一
君はボッタクル商店の店員だ。
ボッタクル商店は、店主のハンガーク・ボッタクルが経営する雑貨店だ。『どんな物でも現金買い取り』の看板を掲げ、冒険者相手に商売をしている。
基本は売値の半額で買い取るため、暴利だとの陰口をたたかれることもある。しかし、手形や小切手ではなく現金であることを考えると、利益を出すには妥当な金額だろう。
「商売をする一番の顧客サービスは、続けることだからだ。利益を出さなければ、続けることはできない」
ボッタクルが毎朝言っていることだが、君もその通りだと思っていた。
三月になり、年度末を迎えていた。お店の決算のため、商品棚卸しをしなければならなかった。君はボッタクルから棚卸しを命じられた。
「リストと照合するだけの、簡単なお仕事です」
とのことだが、棚卸し業務は初めてだ。何か質問するにしても、実際に倉庫に行って、商品を確認してからの方が良いだろう。
君は、倉庫に行き、扉を開けた。倉庫はとてつもなく大きかった。
倉庫の手前の方は、買い取ったばかりの品が収められている。奥へ行くほど、古い商品になる。扉から差し込んだ光で、倉庫の奥の床には、はっきりと分かる程の埃が積もっているのが分かった。
君は、扉横のスイッチに触れてもいいし、そのまま奥へ進んでも良い。
スイッチに触れるなら 二へ
そのまま奥へ進むなら 三へ
>二
扉横のスイッチに触れると、君の体から魔力が吸い出された。その魔力で、倉庫の証明が灯る。倉庫の隅々まで照明が照らし出している。これなら在庫確認も問題なくできるだろう。
君はリストを手に、在庫確認をはじめた。
ところが、リストにある商品がなかなかみつからない。どうやら、商品の並びと、リストの並びが一致してないようだ。
リストの不備をボッタクルに報告するなら 四へ
そのまま棚卸しを続けるなら 一四へ行け
>三
薄暗い倉庫の奥に進むと、だんだんと視界が悪くなり、ついに何が置いてあるのか判別できなくなった。これでは棚卸しができない。
倉庫の入り口に戻って、照明のスイッチを入れた方がよさそうだ。
倉庫の入り口に戻る 二へ
>四
リストの不備を報告したら、ボッタクルにこっぴどく叱られた。
後で先輩店員から、今年の棚卸しリストは、店主のボッタクル自らが作成したものだと聞かされた。もっと早く教えてもらっていれば、ボッタクルの機嫌を損ねることはなかったのに。
君は、日頃から先輩とのコミュニケーションをとっておくべきだったと後悔した。
先輩から、去年の棚卸しで使ったリストを入手し、君は倉庫へ戻った。
去年のリストは商品の順番と一致していたが、とにかく在庫品の量が膨大だ。何でも買い取るため、売れ残ったり、売り物にならない物もあるからだろう。その中には、呪いの品まで置いてあった。
倉庫の奥で埃をかぶっている物は、君には、商品としての価値があるとは思えないものばかりだ。
それでも店の在庫には違いない。在庫をごまかしたら、税務調査のときに指摘されてしまう。君の今後を考えると、それは悪手だ。だが、このままでは、指定された期限までに棚卸しが終わりそうにない。
誰かに助けを求めるなら 五へ
一人で棚卸しを続けるなら 一四へ行け
>五
とてもじゃないが、一人で棚卸しをやるのは無理だ。そう判断した君は、助けを求めることにした。しかし、他の店員に頼みたくても、それぞれ仕事を抱えている。君の手伝いをしてくれそうな余裕はない。
そこで、外部の者に頼ることにした。ちょうど先日売り込みに来た、人材派遣会社があった。その名も『猫の手サービス』だ。
・突然人手が欲しくなった。
・短期間だけど、専門知識を持つ人材が必要だ。
・臨時だけど、きちんと秘密を守れる人を雇いたい。
そんなあなたのためのサービス、それが猫の手サービスです。猫の手も借りたい、そんなときは、ぜひ当社にご連絡を。
置いていったパンフレットを改めて見直した。初めて利用する業者だが、飛び込みの営業マンの態度は、信頼に値するものだった。ここなら、安心して依頼できるかもしれない。
猫の手サービスに依頼するなら 六へ
やっぱり一人でやりきるなら 一四へ行け
>六
猫の手サービスに連絡をすると、すぐに棚卸し要員が派遣されてきた。リストを手分けし、無事期限内に棚卸しが完了した。初回サービス割引が適用された請求金額は、格安だった。
君は、次もまた猫の手サービスに依頼しようと思った。
>一四
君は力尽きてしまった。
一人でできる仕事には限界がある。時には誰かを頼ることも必要だ。
仕事を頑張るあまり、死んでしまっては本末転倒だ。もう一度自分の行動を振り返り、最適な選択をするべきだろう。
再チャレンジする 一へ
***
「いかがでしょうか。このように、我が『猫の手サービス』は、迅速丁寧に、また守秘義務厳守で、お客様からのご依頼を完遂いたします」
「御社のPR冊子だけど、変わってるね」
「私のご主人様が前の世界で好きだったという、ゲームブックというものをヒントにいたしました。ゲームブックというのは、その世界では『遊び本』という意味らしいです」
「君のご主人って、召喚者だったよね。なるほど、異世界の文化を取り入れたのか。それは面白い試みだね。ところで、七から一三までがないのは、どうしてなのかな」
「ゲームブックでは『一四へ行け』が、死を意味する言葉らしいのです」
FFは14へ行かない 横山記央(きおう) @noneji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます