第三十四話 魔素循環法
異界人はこの世界にとっては異物ではあるが、同時に特殊な存在として扱われる。世界という壁を越えた結果、得られるのは強大なスキルだ。それ故、善にも悪にもなる。強い力を持った異界人が良い方向に進めば重宝され、悪い方向に進めば、世界中が敵となって殺しにやってくるだろう。
勿論、僕は悪い異界人ではないので重宝されまくりである。勿論、嘘である。
僕が得たスキルは神眼”鑑定(リアリゼーション)”だけだ。……と、思っていたのだが、最近魔法を習い始めて知ったことだが、僕は不得意属性が無い
らしい、と言い切れないのは現在、火、雷、氷の属性を取り扱えているのでその可能性があるようだという話だからだ。普通は火属性と氷属性は反発しあうので使えないのだとか。それも修練次第で変わってくるが、僕みたいなド素人が修練無しにそれを使えてしまうのであれば、全属性使用者の可能性が出てくる。しかし属性から推察するに、滅杖・天堕としを無理矢理使用した結果、とも言える。と、シエルがいつものように人差し指を立てて講義してくれた。
僕が使える魔法は速度上昇の火属性バフ魔法イグニッション・アクセルと精度上昇の雷属性、ブリッツ・エイム。そして攻撃上昇の火属性ブレイズ・ブレイブ。防御力上昇の氷属性フロスト・ガードナー。この4種類だ。
そして勉強中の体力上昇と感覚鋭敏、魔法防御力上昇、それ以外にもまだ教わってないものも含めて全部で12種類もあるらしい。中にはバフ魔法専門の人間でも中々習得出来ないような難しいものもあるのだとか。全盛期のシエルは使えたらしいので、この先教わることもあるだろう。本当に何でもありだなぁ、大魔導士。
さて、僕達は現在根のフロアから更に3階層下へと下りてきた。今まで淡く緑色に光っていた壁は途中から色を変え、黄色く光っている。これは深層の証であるとエレーナが教えてくれた。
「同時に中級ダンジョンである証明にもなるわね。これが更に深層になると赤に変わるわ」
「ふーん……」
信号みたいだなと頭の中で思いながら、自分の職場の下に少なくとも中級ダンジョンが埋まっていることに嘆息した。
この辺りまで来ると出現するモンスターも上位のものが多くなる。アークスケルトンは普通に歩いてるし、アークレイスは壁を抜けてくる。さっき戦ったリビングデッド・アーマー・フレアなんかも向こうから走ってくる。フレア以外にもスノーだったりボルトだったりと属性が違ってきて、危険ではあるのだが種類が多彩で面白い。
それ等相手にも有利な方向に戦闘を運べるようになってきているので、成長を実感出来る。墓守なんだけどね……いや墓守は戦闘職だった。
こうして僕達は戦闘と成長を楽しみながら、道中は魔法を教わりながらダンジョンを進んだ。
□ □ □ □
「ねぇ、本当に攻撃魔法は使えないの?」
「うーん……駄目っぽい」
トコトコと早足で僕の隣に並んだエレーナが口先をとんがらせながら尋ねてきた。どうやら僕が攻撃魔法を使えないのが不服らしい。確かに、僕はエレーナからは魔法について教わっていなかった。それが不満なのだろう。
「どう言えば伝わるかな……エレーナは魔法ってどうやって発動させてる?」
「んー……確かに言葉にしようとすると難しいわね。順序立てて話すと、体内魔力を切り分けて、属性を付与して、魔法にして、放つ……かしら」
「そんな感じか」
体内魔力が存在するのはこの世界の人だけだ。
「僕の場合は体内魔力が無いに等しいから、其処からなんだよ。こう、流れる川の水をちょっとずつ掬って自身に取り込みながら少しずつ魔法にしていくんだよ。勿論、流れが途切れたら魔法も途切れる。仮に攻撃魔法を、エレーナくらいの威力を出すなら……それをじっくりじっくり20回くらい繰り返さなきゃ駄目かな」
「あー……」
中空を眺めながら想像してくれたらしい。そして理解してくれたようで、物凄く嫌そうな顔をしてくれた。
「無から生み出す事の困難さを知ったわ」
「生み出せるだけまだ良い方だと思うけどね……」
魔法系のスキルを獲得した異界人ならともかく、僕のようなイレギュラーが魔法という力を得られたのは奇跡と偶然が噛み合った結果だ。これ以上、何かを望むのは罰当たりとしか言いようがない。
言いようがないのだが、欲が出てくるのも人間な訳で。
「エレーナ、魔力の循環って出来ないかな」
「循環?」
「うん。血は心臓を中心に体中を巡ってるでしょ? それと同じように、僕を中心にして内と外で魔力を循環させて、僕の体内に魔力が在る状態を作りたいんだ」
「なるほど……それが出来れば魔法の常時発動も可能かもしれないわね。ただし攻撃魔法として放てば残存魔力が減って流れが乱れてしまうかもだけど」
流石は魔導士。僕が考えた魔力循環法の欠点をすぐに気付いた。そうなのだ。僕が考えたこの手法だと体内に魔力を溜め続けないといけない。その状態で放出する行動を取ると流れが乱れて循環の輪が崩れてしまう。
流れを作り、魔法を発動し続けることで永遠に取り込み続ける。可能であれば、それで複数の魔法を……バフ魔法を自身に掛け続ける。
これが僕にしか出来ない魔法の極致だと思っている。
「エレーナにはその手ほどきをしてもらいたいなって。時間のある時だけでいいんだけど」
「時間ならたっぷりあるわよ。今はザルクヘイムに潜る指示も受けてないし」
「あぁ、やっぱりあれって誰かの指示で探索してたんだ?」
「そうね。国からの依頼よ」
国、とはまたでかい組織が絡んでいたな。
「勇者って、国が選定するからね……」
「あっ」
「各地のダンジョンを攻略する為の力在る者。それを選定する勇者試験に合格したたった一人の人間だけが当代の勇者になるのよ。それがフィンギーだったってわけ」
「そうだったんだ。それで今は……勇者が居ないから、探索指示も取り消されたと」
「えぇ。可能であれば探索せよ、って感じだけど、可能でも今はちょっとね」
寂しそうに顔を伏せるエレーナ。そうだよな……国からの指示だったとはいえ、組んだ相手が亡くなったのだから。
初めてグラスタに来た時に出会ったアスラとインテグラの2人を思い出す。あの時の2人も、仲間を失ったばかりだった。それでもダンジョン探索を続けようとしていたのは、探索者として生きる人間だったからだろう。魔法の道を歩くエレーナとの違いは其処だった。
「そんな時に墓守協会の支部長に声を掛けられて、気が乗らなかったんだけど、一緒に潜るのがアンタだって知って、どうにも放っておけなくてね。気付いたら来ちゃってたわよ」
「あはは、ありがとう。エレーナにもそんな優しい所があるんだね」
「何? 喧嘩売ってる??」
「売ってない売ってない。褒めてるんだよ」
「それはそれで喧嘩なんだけど……?」
おかしいな。褒めてるはずなのに。
「……まぁいいわ。話逸れちゃったけど、循環法については歩きながら練習しましょうか」
「歩きながらは難しくない?」
「はぁ? 戦闘しながらやる事を歩きながら出来なきゃ何の意味もないでしょうが!」
「ひぇっ」
とってもスパルタだった。でも言ってる事は正しいから無茶だ横暴だと抵抗出来ない。結局僕はアークスケルトン達が襲ってくるまでの間、歩きながら魔素を取り込み、教わってる途中のバフ魔法を訓練しながら歩いた。お陰様で多少は出来るようにはなったが、非常に厳しい訓練だった。
まぁでも、隣で教えるエレーナが楽しそうだったので、良しとしておこう。
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