第二十四話 エルダーリッチー討伐戦 前編

 入口の壁は恐ろしく眩しかったが、中に入ればいつも通りのぼんやりと光る壁だ。モンスターも何も居ない、ただの通路を駆け抜けた先に広がっていたのはアンデッドの群れだった。


「う、わ……」


 思わず漏れてしまう声。うようよと居るのはアーク級のアンデッド達だ。スケルトンだけでも弓を持ったアーチャーや剣を手にしたソードマンといった上級のスケルトンが普通にうろついている。

 宙を漂うレイスも普段の白っぽい半透明なレイスではなく、赤っぽい見た目をしていて初見でやばさが伝わってきた。

 その群れの一番奥に、其奴は鎮座していた。禍々しい杖を手にし、装飾の施されたローブを身に付けた赤い瞳の黒い骸骨。


「あれです……!」


 十字架型の杖を手にしたミルルさんが教えてくれる。あれがエルダーリッチー……。


 舞うレイスを無視してエルダーリッチーにピントを合わせると《神眼”鑑定(リアリゼーション)”》が情報を教えてくれる。


 『エルダーリッチー 個体名ルグラ=ケルン 固有武器滅杖 天堕としを装備中』


「個体、名?」

「ネームド!?」


 エレーナさんがしかめっ面で叫ぶ。


「ネームドって何ですか?」

「時々居るのよ、そういうのが」

「一説によれば、前世の名を一部継承した者と言われています」


 こうして話してる間も向かってくるアンデッドを切り伏せている。アーク級ということで緊張していたが、シエルの動きを見ていたからか、それとも戦い慣れてきたからか、それなりに戦えている。動きもよく見える。というかこれ、少し先が見えてる……?


「テイムのこともあって、一部では『前世持ち』って呼ばれたりするわね」

「なるほど。あ、リッチーから火魔法ブレイズエッジ来ます!」

「はいよ!」


 エルダーリッチーが構えた杖の先端に浮かんだ魔法陣を《神眼》で読み取ると火系上位魔法ブレイズエッジが発動されると表示される。それに対するはエレーナが発動させる氷系上位魔法フロストエッジ。お互いの杖の先端から伸びた紅蓮の刃と蒼白の刃がアンデッド軍団の上で交差し、弾き合い、爆散する。その余波は真下に居たモンスターを巻き込み、消し飛ばしていく。


「やっぱり便利ね、その眼!」

「読み取りは任せてください!」


 事前に話していた作戦は僕の神眼でエルダーリッチーの放つ魔法を先読みし、エレーナさんがそれを相殺する。あくまで相殺がメインで、攻撃はしない。出来る限り最小の消費で魔力を温存してもらい、僕とシエルがアンデッド軍団を倒して進む。二人掛かりでどうにかシエルの杖を取り戻し、ミルルさんの最上位聖魔法でエルダーリッチーを昇天させてやるのだ。


「あんた何で敬語なのよ」

「戦闘中だからですかね……ッ!」


 《墓守戦術》でアークレイスの胴を千切る。何だかんだ言ってもエレーナは戦闘に関しては先輩なので無意識後輩ムーブが出るらしい。というかこの場に居る全員が先輩だった。


「呼び捨ても直しなさいよ!」

「それは無理! 雷魔法ソニックボルト来ます!」

「チィッ……!」


 どっちに対しての舌打ちなのか。エレーナが放った水魔法ダイダルウォールが雷の散弾を防ぐ。器用にも僕達が進む場所だけ穴を空け、其処から広がるように霧散していく水を背に駆け抜ける。

 眼前に躍り出たアークスケルトンナイトの一撃を転がるように避け、膝関節を切断し、動けなくなったところで後頭部を柄で叩き割った。


「キリがない……!」

「奴を殺さない限り終わらないわよ!」


 無限のような死霊の群れ。だが確実に近付いている。エルダーリッチの姿がはっきりと見えた。


「シエル!」

『うん!』


 元大魔導士は武闘派メイジとして拳を振るう。手に集中させた魔力は刃の形を成し、いとも容易く同族のアークスケルトンメイジを斬り捨てた。足は止まらない。腕を振るう度にスケルトンが散り、レイスが音もなく掻き消えた。まったく頼もしい限りだ。


 僕だってただ剣を振り回しているだけじゃない。さっき感じた違和感は薄れ、自然なものとして感じ始めていた。スケルトンが剣を振り上げた時、僕の眼は既に振り下ろす光景を二重に視ていた。


 そして同時に、エルダーリッチーの動向も逃さず視界に入れていた。


「氷魔法エヴァ―フロスト来ます!」

「ばかすか放ってんじゃ、ないわよ……!!」


 氷の風が吹き荒ぶ。吹いた風は動く者全てを凍てつかせた。だがそれをエレーナの放つ火炎の風エアロクリムゾンが氷の風を飲み込み、凍結したアンデッドを燃やし尽くした。


「今よ!!」

「はい!」


 アンデッドの群れは今一瞬だけ全てが塵と化した。このタイミングを逃せばチャンスはもう来ないかもしれない。そんな焦燥感が僕の足を突き動かした。走り出した僕の後ろにシエルがぴったりとついて来る。それが何よりも頼もしい。

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