ずっと応援してるよ

はちみつとまと

偶然か必然か

 俺たちが初めて会ったのは記憶上は17歳の時。でも本当は産まれて30分ほど経った時が初めて会った時だったらしい。愛佳は俺の隣の病室で産まれた。そのあとお互いNICUに入ったんだ。そこでは産まれたばかりの子供たちが何人もいた。愛佳も俺も、命の危険があるとされてそこに入ったんだ。俺は産まれてから泣くことがなくNICUに預けられた。愛佳は体が小さく体重も軽かった。経過観察が必要とされて預けられていた。これは後から聞いたんだが、俺と愛佳は隣同士いつも向かい合って寝ていたらしい。それから俺は3日で退院、愛佳は2週間で退院。決して顔見知りでもなんでもない俺たちがこんなことになるとは思っていなかった。


 俺が17歳の時、原因不明の感染症が流行った。ケロカという名のウイルス性の感染症だ。

当然日本中がこのウイルスに怯え、町の商店街も学校も、どこに行ってもシャッターばかり。空いているところはどこにない。日用品も食品もネットで買えるこの時代、シャッターばかりでも生活に困ることはあまりなかった。だか、俺のとーちゃんとかーちゃんは毎日大忙し。なぜなら俺のとーちゃんとかーちゃんは共働き。それも家で猿渡医院という街のちっさな病院をやっている。家の一階と二階は感染者で埋め尽くされ、俺と弟は3階に閉じ込められていた。

「絶対に出てくるな。出てきたら死ぬぞ。」

「大樹、友樹をお願いね。ご飯は冷蔵庫にあるから」

とーちゃんとかーちゃんに毎日言われ続け、俺は友樹と一緒にずっと3階にいた。


 毎日友樹とゲームをしてご飯食べてまたゲームをする。え?授業に参加しないなかって?オンライン授業なんて、画面をオフにしてマイクもオフにしとけば何やってもバレないもんだよ。洗い物だって洗濯だって掃除だってほっとけば、休みの日にかーちゃんがやってくれる。どーせ2週間くらいでまたいつもの生活に元通りなんだから、やりたいことやらせてくれよ。ずっとそう思ってた。


 ある日の帰りのホームルームで、担任の源太から

「明日の朝、転校生を紹介する。みんな画面とマイクをオンにする準備をしておくこと。1時間目は自己紹介してもらうからな。」

と、言われた。や、やばい。どうしよう。2週間も家に閉じこもってたから、髭も剃ってないし髪もボサボサ、部屋は散らかりまくってるし、明日までに準備できるはずがない。俺は内心焦りまくっていた。とりあえずとーちゃんの髭剃りを勝手に使い髭を剃る。美容室に行けずに伸び切った髪の毛はフードで隠せばいい。俺からしたら名案すぎて、自分が神の様に見えてきた。そして今から部屋の大掃除に取り掛かる。と、言いたいところだがなんといってもこの部屋を片付けるのには1日じゃ足りない。でも、俺はなんとなく女の子の転校生がくる気がするんだよな。だから絶対に片付けなければ。ほんと普段ゲームばっかりしてないでやっておけばよかった。あーもうなんでやってないんだよ俺、と後悔してばかり。

「別に画面に映るとこにある荷物をどかせばいいだけじゃん」

次は友樹が、神に見えてきた。なんだこの天才は。部屋の隅に行って物を隣の部屋に投げ込んだ。これで準備は完成。


 次の日の朝、ホームルームが始まった。

「昨日言ってた通り転校生を紹介する。みんな驚くなよ。彼女は…」

え、今彼女って言ったよね。やっぱり女じゃん!ほーら俺の思った通り!そう思ってたら源太の話を聞きそびれた。彼女がなに?驚くってなに?ちょっと混乱しているところに『新しい人がルームに参加しました。』と通知が来た。ドキドキしながら見ていると画面はオフのまま、声だけが聞こえた。


「はじめまして、佐山愛佳です。私はケロカに感染しました。今入院中です。薬の副作用で髪が抜け落ちて一本も残っていません。ですが、驚かないでください。これが今の私です。」

そういい、画面をオンにした。画面に愛佳が映し出された。白い病院服を着て酸素マスクをつけている。髪の毛は言っていた通り一本もなかった。しかし、目がくりくりしてて鼻がシュッとしている。なによりも堂々としている愛佳の姿に俺は一目惚れしてしまった。


 1時間目が始まった。みんなが自己紹介をしていく。俺の番がやってきた。本当は少しだけ話して終わろうとしていたが、一目惚れした勢いで頭が真っ白になってしまった。何を言えばいいんだ。とりあえず…

「あ、えっと、猿渡大樹です。あ、えっとー友樹って言う弟がいて、んーととーちゃんとかーちゃんは」

「いつもお世話になってます。」

「ん??????」

「私、入院してるって言ったでしょ?猿渡医院の2階。つまり君が今いる部屋の真下に入院してるの。」

え、どういうこと?俺の真下にこの子がいるの?何がどうなってるの?わからない。おれのこのちっせぇ脳じゃ理解できねぇよ。


 授業が全部終わり夜が来た。夜になっても俺は、理解できない。俺が初めて一目惚れした相手は、ケロカに感染していて髪の毛がない。そんでもって今真下で生活している?どうなっているんだ…。

「なぁ、とーちゃん。佐山愛佳って患者いる?」

「あー、いるよ。同じクラスなんだってな!よろしくね。」

「あら!同じクラスなの!もう幼なじみじゃない!こんな偶然あるのね。」

とーちゃんと言葉は、理解出来た。かーちゃんは何を言っているんだ?たった1日で、しかも画面上で顔を見ただけで幼なじみ?訳が分からん。

「ホラーあれ見て懐かしいじゃん。あの時はお互い可愛かったなー」

かーちゃんが指さしている先には俺が投げ飛ばしたアルバムがあった。そこに映っているのは俺がNICUにいた時に撮った写真。隣にいた子とのツーショットだ。2人が向き合って同じ体制で寝てるの。我ながら可愛いんだよなー。あ?ん?えぇぇぇぇぇ。隣の子の腕に佐山愛佳ちゃんって書いてある?えっと、2003年6月29日。ん?これ俺の…誕生日まで一緒なの!?しかも明日!!!


俺が一目惚れした相手は、NICUで一緒だった写真に写っている子で、誕生日が一緒で、俺の真下で生活している。


これは偶然なの!?必然なの!?

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