第78話 オープンキャンパス1
「あっっつぅ〜!」
いや、あっつ!!
何度?これ気温何度?40度くらいいっちゃってるでしょ?溶ける〜!!スライムは可愛くて好きだけどスライムにはなりたくない〜!
こんにちは前原仁です。
暑いのが大の苦手な俺は今日も愚痴を振りまきながら熱気を突き上げる道路を突き進む。蜃気楼とか見えそうなくらい暑い。
『ミーンミーン』と耳障りな夏の風物詩とも言えるセミの鳴き声に嫌気がさす。1歩足を踏み出すごとに吹き出る汗。肌に張り付くシャツ。どれもこれもが俺が夏が苦手な理由だ。
こんな地獄の猛暑の中何故外出せねばならん。こういった日は冷房をガンガンにつけてベッドに包まりながら動画投稿サイトで様々な動画を観賞するに限るというのに。
そう、俺だって家の外に出たくはない。
よりによって、
「今日がオープンキャンパスじゃなければなぁ」
と、いうわけである。
* * *
『オープンキャンパス』
それは学校施設や授業等を一般に公開し、その学校への進学を考えている生徒や、その保護者の方々により細やかな情報を提供するイベントである。その内容は学校によって様々ではあるが、公演や、施設見学、授業体験や見学、部活紹介など多岐にわたる。
これは前世の学校も行っていたイベントだが、やはり今世の学校もこれを行うらしい。我が春蘭高等学校も同様である。
そして本日がオープンキャンパス当日。そうして土曜日だと言うのにこうして学校に駆り出されているというわけだ。そもそもこういった催しは先輩方が精力的に行うべきではないだろうか?何故1年生の新米の俺が態々出向かなければならないんだ。
『……?前原くんは勿論参加だぞ?』
とは、かの有名な桐生隼人会長の言葉である。おかしいでしょう。
あの人は俺を餌として扱うのが余っ程気に入ったらしい。確かに集客力はえげつないだろうし、話題性もある。とんだ腹黒イケメンだあの人は。
うちの高校はオープンキャンパスで何をやるんだったかな。
確かスケジュール表のようなものを渡されていた。えっと、あったあったこれだ。
手汗で引っ付く紙をうっとおしく思いながらも開けて、内容を確認する。
『春蘭高等学校 オープンキャンパスのお知らせ。下記の日程でオープンキャンパスを行います。我が校に興味がある学生並びにご家族の皆様、奮ってご参加下さい』
書き出しはどうでもいい、日程も会場も別に見なくていいから、えーとスケジュールは、と。
『(1)学校説明会
1.学校長挨拶
2.入試制度について
3.高校生活や卒業後の進路について
(2)活動体験、見学
模擬授業体験、部活動見学
(3)自由行動時間
各々気になる施設を見学』
簡単にまとめるとこんな感じか。意外と真面目じゃないか。てっきりあの高校のことだから目玉イベント!とか称して俺の握手会とか開くのかと思ったぞ。ちなみに俺の出番は模擬授業体験と施設見学の時の案内係だ。部活動見学については、弓道部を開放してしまうと俺の影響で人が殺到しすぎて練習にならない可能性があるので、弓道部は今日はお休みだ。
そんなこんなでスケジュールを改めて確認していると、気付けば春蘭高等学校に到着していた。オープンキャンパスの準備を手伝うためにかなり早めに家を出たので、通学路で参加者達に捕まりもみくちゃにされる等の心配は無用だ。
「おはよう、前原くん」
校門をくぐると出迎えてくれたのは、真っ白な歯をキラリと輝かせるイケメン、桐生会長だ。相変わらず腹の黒さとは裏腹に外見は爽やかな人だ。
「おはようございます、桐生先輩」
「待ってたよ。体調はどう?」
「すこぶる悪いです。帰らせて頂いても宜しいですか?」
「はっはっは。じゃあ会場まで一緒に行こうか」
「……」
いや笑い飛ばすなよ。
冗談だと分かってても一応は心配しなさいよ。この人俺の体調が本当に悪くても今と全く同じ反応しそうで怖い。ナチュラルサイコパスだ。
暑い……。
早く終わらせて家でアイスクリーム食べたい。
* * *
「前原くん本当にカッコイイなぁ。肌の手入れとかしてるの?」
「ありがとうございます。いえ、特にこれといったものは」
「え〜じゃあじゃあ、ヘアスタイルは?」
「母親にオススメされた美容院に通っていますね」
「じゃあじゃあじゃあ、食生活で気をつけていることは?」
「ん〜……、腹八分目で抑えるとか?」
「それだけ?他には?」
「他にですか?そうですね〜……」
ここは体育館舞台裏の控え室。まだ出番が来ない俺は、生徒会の先輩から何故か質問攻めにあっていた。何でも生徒会に所属しているからには常に身嗜みをきちんとしなければならず、超絶イケメンである俺のアドバイスを頂戴したいとのことだ。照れる。
あ、生徒会の先輩は男だ。春蘭高等学校の生徒会は男性生徒のみで構成されるからな。
『次に我が校の卒業生の進路について。我が校は……〜』
俺や莉央ちゃん、美沙、聖也が所属する1年1組の担任、福岡先生の声が聞こえる。今は卒業後の進路について、学生とその家族に対して説明しているようだ。ということはそろそろ俺の出番ということか。
あ〜長かった。いつまで質問攻めに合えばいいのか冷や冷やした。
「じゃあじゃあじゃあじゃあ、寝る時間と起きる時間は?」
……福岡先生、早く説明会を終わらせてくれ。このまま個人情報を抜き取る程質問されそうでとても怖いです。
* * *
『以上で、学校についての説明を終わりにしたいと思います』
き、来たぁ〜!
ようやく俺の出番だ!
「で、では僕は失礼しますね」
「あ、そっか前原くんの出番か。頑張ってね〜」
……ふぅ。こいつ俺の事大好きすぎるだろ。1日の排泄回数を聞いてきた時はセクハラで訴えてやろうかと思った。もしかして、ホの字の人種ではあるまいな?そういう目的ならば全力で御遠慮願いたいところだ。
「前原くん、こっちこっち」
体育館の舞台のすぐ横の垂れ幕まで来ると、桐生先輩が小声で手招きしてくれる。
「福岡先生が説明会の終わりを告げたら、前原くんの番だ。先生にマイクを受け取って、これからの予定の説明を頼むよ」
「分かりました」
こくりと小さく頷く。
……なんだか少し前の学校説明会を思い出す。あんな大人数の前でマイクを握るのは緊張したなぁ。手汗とかやばかったからな。うん。
……うん?そういえば。
「そう言えば桐生先輩、オープンキャンパスの参加人数はどれくらいなんでしょう?この前の学校説明会くらいですか?」
「まさか。あの説明会の倍はいるよ」
「……」
……バカな。
倍だと?そんな人数が体育館に入り切るのか?
「まぁ体育館のキャパが限界……いや、ギリギリオーバーしてるのは否めないけどね。満員電車状態だよ」
「……そうですか」
おい、なんの為の事前申し込みだ。そういう事態を避けるためのものだろうに。
「それでも総申し込み数の4分の1なんだ。申し込み書類の先着順に決めさせてもらってね。残りの4分の3の方々には申し訳ないが……この体育館の状態を見ればきっと納得してくれるだろう」
マジかよ。
生意気な事考えてすみませんでした。本当にオープンキャンパスっていうより、ライブのチケット争奪だな。この高校に入学しようと思って真面目に来ている学生は何割くらいいるのだろう。殆ど桐生先輩や、ちょっと恥ずかしいけど、俺目当てなんだと思う。
『それでは、模擬授業体験、部活見学、自由行動時間についての説明に移ります』
お、来た。
それじゃあ行きますか。
俺は垂れ幕から大勢の学生、家族の前、舞台へと姿を現した。
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