第23話 心愛の友達
ある日の部活帰り。
俺は超絶美少女キューティー莉央ちゃんと共に居た。
「じゃあまた明日ね莉央ちゃん」
「はい、仁くん。気を付けて帰って下さい」
「僕は男の子だから大丈夫だよ。それより莉央ちゃんは女の子なんだから気をつけてね」
「え……?えっと、は、はい……?」
前世と今世の価値観の差異から微妙に噛み合わない会話を交わす。前世の価値観を持つ俺からすれば、身の回りを用心すべきなのは男性が女性かで言えば間違いなく女性だ。
しかし今世の価値観を持つ莉央ちゃんからすれば、男女は逆であり、夜道に気を払うべきは男である俺なのだ。
そんなこんなで莉央ちゃんと別れた俺は、日が沈みかけた帰り道を突き進む。
最近莉央ちゃんは文芸部に入部したらしい。お互いの部活が終わった後一緒に帰っているのだ。時にはイチャイチャし、時には愛を囁きあう、甘美な時間を過ごしている。
「ただい....…ん?」
何事も無く家に到着したのだが、ふと玄関にいつもより靴が二足ほど多いことに気付いた。お客さんかな?
「ジンちゃんおかえり〜」
「ただいま母さん。今人が来てるの?」
「そうだよ〜、心愛のお友達が2人来てるみたい。ジンちゃんに会ってほしいって言ってたよ?」
「僕?」
心愛の友達に俺が?うーん、俺の話でもしたんだろうか?ま、まあ?俺は数少ない男だし?それに、イ、イケメンだからな。改めて言うと恥ずかしい。
「うん。だから、ちょうど飲み物とお菓子を心愛の部屋に持ってくとこだったから、代わりにジンちゃんが持って行ってもらっていい?」
「いいよ」
俺は母さんから、飲み物とお菓子がのったお盆を受け取り心愛の部屋へと向かう。飲み物は見たところコーラ。お菓子はポテトチップス。今世で見たのは初めてだけど、やはり男女比以外は前世と何も変わらないようだ。男女比が変わればそれに伴って世界の在り方は根本から変わりそうなものなんだけど。不思議な世界だな。
「ジ、ジンちゃん!」
「どうしたの?」
思考を一旦捨て置き、心愛の部屋に向かおうとする。その時母さんに呼ばれたので、そちらに向き直る。
「女はケダモノだから!心愛のお友達でも油断しないでね!」
「わかってるよ」
思わず苦笑しながら返す。
流石に心配性だと言わざるを得ない。俺が中学生にどうこうされるなど有り得ないのだ。ただ母さんは可愛いので素直に聞いておく。
「そ、それと!あの、この間約束したデートのこと……ちゃんと覚えてる?」
母さんは不安そうに瞳を揺らしながら、体の前で両手をキュッと強く握りしめ言った。
俺ではない前の前原仁君は、話に聞く限り母さんとデートなど天地が引っ繰り返っても約束しないだろうからな。約束を反故にされるのではないか、また何か裏があるのではないか。そう母さんは邪推してしまっているのかもしれない。
そんな母さんにはハッキリと笑顔で伝えるのが1番効果的だろう。
「大丈夫だよ、僕が忘れるわけないじゃん。母さんとのデート楽しみにしてるからね?」
「う、うん!」
花が咲いたような可憐な笑顔の母さんに満足した俺は改めて心愛の部屋へ向かった。後ろから「む、むふふ。ジンちゃんとデート……これはあんなことやこんなことも……」などといった怪しげな独り言が聞こえてきた。
っておい、俺たち親子だから。
いやこの世界なら問題ないのか?
……だとしても俺の前世からの倫理観がどうしてもそれを忌避するのだ。しかしつい先日転生してきた俺にとって母さんは母さんであっても母さんではないのだ(?)。血縁上母さんと呼んではいるが、実感としては同じ家に住む超綺麗なお姉さんといったところか。でも母さんは俺の母さんなわけで。
頭がゴチャゴチャするな。
この問いはまた今度じっくり考えるとしよう。
母さんの呟きに葛藤しながら階段を登り、心愛の部屋の前まで来た。扉には『ゆあの部屋』と書かれたピンク色のネームプレートが掛けられている。中からは、わいわいがやがやと一体なんの話で盛り上がっているのか、騒がしい女の子たちの声が聞こえる。
一つ深呼吸。
心愛の兄として恥ずかしくない立ち居振る舞いをしなければいけまい。陰キャオタクには厳しいミッションだ。
盆を片手で持ち直し、もう片方の手をフリーにする。
俺は気合を入れ直し、意を決してノックをした。
『コンコンコン』
「は〜い」
中から心愛の声が聞こえ、控えめにドアが開いた。
「お母さんありがとう〜、もう喋り過ぎて喉がカラカラで……」
彼女は笑顔で出てきたが、俺を見た瞬間石像のように固まった。時までついでに止まってしまったのではないかと一瞬疑ってしまうほどの見事な静止だ。
「ってお兄ちゃん!?帰ってきてたの!」
その時、奥で談笑していた2人の女の子がピタッと会話を止め、勢い良く首ごとこちらに視線を向けた。怖いほどの眼力を押し付けてくる。かなり注目されているみたいだ。
よし、心愛の兄としてかっこよくいこうじゃないか。俺はイケメン俺はイケメン。暗示をかけていけ。
「うん、ただいま心愛。そして、いらっしゃい2人とも。初めまして、心愛の兄の仁です。いつも妹がお世話になっています。良ければこれからも仲良くしてあげてね」
とりあえず心愛に遅ればせながらのただいまを告げ、近くの丸テーブルにお盆を置いてから一礼しながら自己紹介をする。仁の気まぐれスマイルを添えて。
こういう事態に対処できるように、最近爽やか笑顔の練習してるんだよね。
口を半開きにして放心した顔をしていた2人だったが、心愛に脇を小突かれて我を取り戻したようだ。正気に立ち返った2人は、各々自己紹介をしてくれた。
「は、初めましてっす!心愛ちゃんの友達の、
「こ、こんにちは!お邪魔してます、ボクの名前は
「……!?」
な、なんだと!?
『〜っす娘』に、『ボクっ娘』だと!?
なんということだ……現実でお目にかかれるとは。俺はてっきり2次元にしか生息しないものとばかり……。今日という素敵な日に感謝します神様。アーメン。
「うん、よろしくね愛菜ちゃん、ののちゃん」
胸中で気持ち悪い思考を繰り広げていたとしても、表面では常に笑顔を振る舞う姿勢を心がけて会話する。人の第一印象の重要度はかなり高いと聞く。今この瞬間がとても大切なのだ。
例えば今この瞬間に『おちんちんびろーん!』と変顔で叫びながらブリッジをした場合、俺はこの先何年何十年とカッコつけ続けたとしても、初対面で奇行を見せ付けたという印象を拭う事はできないのだ。
それくらい初対面は大切だ。
愛菜ちゃんは少し茶色がかった長い黒髪を後ろで纏めている。ウェーブも少しかかってるみたいだ。少し覗いている八重歯がチャーミングである。
ののちゃんは……ボブカットで、うん、アホ毛がある。頭の頂点とおでこの間くらいから、ピョコッと可愛らしく。なんだこれ、どういう原理だ?なぜ重力に逆らってピョコピョコ跳ねてる?2次元ではよく見たが現実で見ると不思議なものだ。もしかしたらこの世界は前の世界とは少し物理法則が違うのか?
まあ、兎に角この2人はどちらも小柄だな。心愛も小柄な方なので小さい3人が集まってチョコチョコしてるのを想像すると、うん、かなり愛らしいな。
笑顔は絶やさずに2人を観察していると、心愛がこれからの成長に期待したい薄い胸を限界まで逸らしながら『ふふん』とドヤ顔を披露していた。なんだ?
あ、ちなみに姉さんと母さんの胸の大きさは人並みくらいだ。
「どう?やっと信じてくれた?」
「は、はいっす。まさか本当に存在してるとは……私の負けっす」
「ボ、ボクも驚いたよ〜。心愛ちゃんは嘘つかない子って知ってるけど、どうしても信じられなかったから……」
んん?
なんだ?
敗北感に打ちひしがれている愛菜ちゃんやののちゃんに対して誇らしげに胸を張る妹。
俺は首を傾げながら現状の理解に務めるしかできなかった。
お兄ちゃん説明が欲しいです。
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