第9話 痴姦


『ビビビ!!』


「むぅ……」


 目覚ましの音で今日も俺は目を覚ます。

 しかし、今使ってる目覚ましは俺が今まで使っていたものとは違う。こっちの世界に来てから買ったものだ。日曜日に家族みんなで買い物に行ったのだ。見事に歩行者や買い物客、店員さんは女性ばかりだった。しかも美人。まったく、この世界は最高だぜ!!そんな美人さんたちから俺たちは、というか俺はかなり注目された。すごく良い気分だったなあ。


 そうそう、買い物の時にこの世界に来てから初めて男性を何人か見かけたのだが、なんというか、うん、そんなにかっこよくなかった。前の世界でいう下の上くらいではなかろうか?しかもその中には、美人を何人も侍らせて歩いているやつもいるもんだから、唖然としてしまったよ。まあ、侍らされている女性たちは例外なく俺に見惚れていたみたいなんだけど。


 どうやら俺の顔面はこの世界においてもかなり整っている方らしい。喜びたいのだが、この体は俺の体ではなくこの世界の前原仁くんのものなので、複雑な気持ちだ。


 そして俺は当然の如く『女性は遺伝子淘汰で美人な人ばかりしかいないのに、何故男性だけこんなにレベルが低いのか?』という疑問を持ってしまった。


 考えても答えは出なかったので、昨日の夜ネットで少し調べてみたのだが、文系の俺にはよくわからなかった。

 男女間では遺伝子発現量の性差があるとか、染色体の形がどうのこうのとか。あとは、その差異の帰結として、現在の男女比の圧倒的偏りがあるとか。


 何言ってんだこいつ。


 まあ『この世界は、前の世界とは違う』という事だけ覚えておけばいいだろう。正直理解しようとしても全くわからん。


 話が逸れてしまったが、今日は月曜日。記念すべき初登校の日だ。昨日の夜、明日学校に登校することを告げると、家族のみんなからはもう少し療養しなくても大丈夫かと聞かれたのだが、俺は早くこの世界を見て回りたいのだ。自宅に引きこもっている時間などない。脱オタク!


 眠たい目を擦りながら階段を降り、リビングに向かう。母さんが朝ご飯の準備をしてくれているようだ。


「母さん、おはよう。朝ご飯いつもありがと」


 朝の挨拶と共に朝ご飯のお礼も言っておく。こういう細かい気配りが大事なのだと思う。


「あっ、ジンちゃんおはようっ!朝ご飯できてるから一緒に食べようね、えへへ」


 母さんは俺を見た瞬間、顔を瞬時に明るくさせ、はにかみながらそう言う。

 ……相変わらず可愛いな母さんは。まだこの美人さんが母さんだという意識が低いせいか余計に可愛く見えてしまう。


 母さんを微笑ましく感じながら席に着くと、ちょうど姉さんと心愛も起きてきたようだ。


「姉さん、心愛おはよう」


「おはよう、仁」


「お兄ちゃん、おはよっ!」


 俺が朝の挨拶をすると、2人は嬉しそうに返してくれた。うむ、家族間の関係は良好、と。このまま良い関係を築けたらいいんだけど。



「ごちそうさまでした」


 俺は朝ごはんを食べ終え、自室に行き、制服に着替える。……制服を着るのも久しぶりだな。

 今の季節は春だ。そのため、制服は濃い紺色のズボン、カッターシャツにブレザーといったものになる。この世界の男性は、服の下に下着を何枚も着るらしい。男用ブラジャーを使ってる人もいるとか。だが、生憎俺はそんなに着るつもりはない。もうなんというか男がブラジャーとか忌避感が凄い。そもそもブラで支えるおっぱいもないくせに何を調子に乗っているのかと、声を大にして言いたい。野郎は、乳首が透けるのが嫌ならニップルシールでも貼っとけ!俺は薄い白色のアンダーシャツ1枚で十分だ。



 うちの家族は全員出かける時間がばらばらだ。俺は電車通学なので一番早く家を出る。


「いってきます」


「き、気をつけてね!痴姦とか!」


 母さんは心配性だなぁ。ちなみに痴姦というのは前の世界でいう、女性が男性にする逆痴漢といったものだ。俺の感覚から言うともはやご褒美だな。この世界は美人さんばかりだし。


「うん、みんなも事故に気をつけて。いってきます!」


 今度こそ、心配そうな3人に苦笑しつつ家を出る。


「うーん、いい朝!」


 心地よい朝日に全身を照らされ、大きく伸びをする。制服で出かけるというのは何処か気が引き締まる思いだな。


 10分ほど歩いて駅に着いたのだが、それまで通行人の視線がヤバかった。全員もれなく二度見するのだ。一瞬チラッと俺を見て、視線を外したかと思えば、グリンッ!と音がするほどの勢いで首を動かし、また俺の顔を凝視するのだ。正直むちゃくちゃ怖かったとだけ言っておこう。


 そして今現在、駅のホームに立って電車を待っているのだが、人が俺の周りに密集している。皆んな俺のそばに来たがるのだ。気持ちは嬉しいのだけど、向こうとかガラガラなのに……。



そうして電車を待っていると、アナウンスが鳴り到着を知らせてくれる。何だか凄く時間がたったような気がする。男性専用車両ももちろんあるようだ。そして俺は、当然男性専用車両に……




 乗るわけないでしょ!!



 

 むさ苦しい。男ばかりの汗臭い空間になぜ自ら進んで行かなかればいけないのか。美人さんばかりの車両と男臭い車両。どちらに乗るかなんて、一目瞭然ですよね?異論は認めない。


 俺は颯爽と一般車両に乗り込む。俺の周りで電車を待っていた人がギョッとしたのがわかる。それに、電車に乗っていた人も男性が乗ってきてかなり驚いているようだ。まあ、自分でいうのもあれだが、俺美少年だしな。


 何食わぬ顔をして吊革につかまる。俺が一般車両に乗って固まっていた乗客たちだが、やっと再起動し始めたようだ。ゾロゾロと乗ってきて、ほとんど満員になってしまった。隣の車両人少ないのに。


 程なくして電車が出発したわけだが、コソコソと乗客たちが俺の話をしているのが耳に入ってくる。


「なんで男が」「しかもむちゃくちゃ美形」「いい匂いしそう」「はぁはあ、興奮する!」「ふっ、人はなぜ争うのだろうか。むなしい生き物だ」


 そんな感じの声だ……っておい!最後のやつ賢者タイムじゃないか?ねえ?

 うそでしょ?まさか今の一瞬で……?


 戦々恐々としていると俺のお尻に何かが一瞬当たった。


 ん?なんだ?ち、痴姦かな?


 一瞬ドキッとして、期待しながら続きを待っていたのだが、それからしばらく経っても動きはない。おそらくただの偶然だったのだろう。安堵したような残念なような、複雑な気持ちだ。


 そうして気を抜いた時、


 ススッ


ひっ!?


何かが俺のお尻の中心をそっと撫でた。これは手だろうか。やめて!2つに割れちゃう!……じゃなくて。


 ほ、本当にきた!痴姦!


これにはクールに定評がある俺でもテンションが上がってしまう。痴姦は俺が何も抵抗しないのに気を良くしたのかどんどんエスカレートしていった。数分されるがままになっていると、尻をいきなりガシッと鷲掴み。


「ん……!」


 思わずそんな声が出てしまった。おっさんがうんこ我慢しているみたいな声。痴姦はおそらく興奮しているのだろう、鼻息がすごく荒い。


 というか、この人分かっているのか?

 男が一般車両に乗ったことによって、俺はかなり注目されているんだぞ。そんな状態で痴姦なんてしたら、『私は痴姦をしています』と公言しているようなものだ。


 と、俺は痴姦相手に何故か心配をしてしまったのだが、今この車両は殆ど満員であるということでそれが杞憂であると悟った。


 満員であるということは、人々が凝縮されているという事だ。そんな中では、俺の顔は見る事ができるかもしれないが、首から下を目で確認する事はできないだろう。

 そしてその例外としては、俺に密着している人が挙げられる。俺との距離がほぼゼロならば、少し目線を下げれば俺の体を視界に入れる事は可能だからな。しかし、幸か不幸か、俺と肌を触れ合わせている周りの女性たちは漏れなく惚け切った顔で『ぼぅ……』と宙に視線を彷徨わせている。


 その結果、この蛮勇とも言える痴姦行為が成立しているわけだ。


 ……痴姦中にも関わらず妙に冷静になってしまった。


 その後五分ほど痴姦は尻をいじくっていたのだが、我慢できなくなったのか、今度は俺の息子に手を伸ばし始めた。


 ちょっと?そこはダメ!反応しちゃう!デリケートゾーンだけど!?


『ギュムっ』


「わひっ……!」


 ついに我が息子が鷲掴みにされてしまった。なんか変な声も出てしまった。これ以上はいけない、そんな気持ちを込めて振り向き、後ろにいるであろう痴姦を涙目で見つめてみる。

 そこにいたのは、


 女子高校生だった。しかも俺と同じ春蘭高校の制服だ。

 女子高校生が痴姦する世界とは……なんて……なんて素晴らしいんだ。


 そう感動しながら女子高校生を見てみると、その子は情欲にかられた獣のような目で顔を真っ赤にしていた。どうやら涙目で抗議をしようとしたのは失敗だったようだ。余計に火をつけてしまったらしい。女子高校生の我が息子を握る力が増す。これ以上は本当にまずい。どうしようかと思っていたその時、


『春蘭高校前、春蘭高校前です』


 どうやら俺が降りる駅に着いたらしい。『プシュー』とドアが開き、転がるように飛び出る。振り向いてみるが先ほどの女子高校生はもういなかった。  春蘭高校の生徒たちが俺をチラチラ見ながら目の前を歩いていく中、俺は呆然と立ち尽くしていた。




 JKから痴姦か……うん、悪くない。

 朝から幸先がいい。うん。

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