第8話 前原家出血事件
その日の夜は家族4人で和気藹々と過ごした。最初のイメージ通り、姉さんは勝ち気な、けれども優しさもきちんと持っているような美女、心愛は元気いっぱい明るい美少女といったような感じだった。
夕ご飯のとき誰が俺の隣に座るかどうかでかなり揉めていたが、それ以外は仲が良くとても居心地の良い家庭のようだ。ちなみに俺の隣にはジャンケンの勝者である心愛が座った。チラチラこっちを見てくる小動物的な可愛さに負けて、ついつい頭を撫でていると、前に座っている母さんと姉さんからは尋常でない歯ぎしりの音が聞こえてきて、ついビクッとなってしまった。……心愛はそんなこと気にせず、口をだらしなく開けて幸せそうな惚けた顔をしていたが。今度、母さんと姉さんにもしてあげよう。
さて、お腹も膨れた事だしお風呂に入りたいな。
「母さん、お風呂に入りたいんだけど、場所教えてもらっていい?」
「あ、そっかジンちゃん忘れちゃってるもんね。そこ真っ直ぐ行って右に曲がったところにあるよ」
「ありがとう」
母さんに言われた通りに進み風呂場に着いた俺は脱衣所で全裸になる。と、そこで着替えがどこにあるのか聞くのを忘れていたことに気づいた。もう一度服を着るのもめんどくさいので、近くに積んであったバスタオルの1枚をとり腰に巻きつける。
そのままリビングに戻り、台所で皿洗いをしている母さんに訪ねてみた。
「母さーん、着替えどこ?」
「あ、着替えはね……えっ?」
すると、こちらに振り向いた瞬間母さんが固まってしまった。
どうしたんだろうか?
「ジ、ジジジジンちゃん!?なななんて格好してるの!服!服着てぇえ!!」
母さんがまだ少し食器洗い用洗剤がついている手で両目を塞ぎながら顔を赤くし叫び出した。
……指の隙間からこっちガン見してるし、目に洗剤が入ったら危ないよ?
服?タオル巻いてるから大丈夫でしょ?
そう言おうと思った時、リビングのソファで寛いでいた姉さんと心愛と目が合った。
その瞬間、
「「ぶぼっ」」
2人は鼻血を吹き出しながら崩れ落ちた。
空中に放物線を描きながら舞い散る血は正に芸術のようだ。そこら辺の美術館の絵画にありそうな構図だが……
ってはい!?鼻血!?
呑気に解説してる場合じゃなかった!
「姉さん!!心愛!!なんで!か、母さん救急車を!」
俺は倒れている2人に駆け寄り抱き起こしながら、母さんに叫ぶ。くそ!なんてことだ。この出血量は不味いぞ。命に関わるかもしれない。
「ち、ちが……お兄ちゃ、ふ、服を……」
俺が近づくことにより心なしか鼻血の出血量が増えたような気がする心愛からそんなことを言われる。
さっきから母さんも心愛もどうしたんだ。服がどうとか。男の俺が裸でうろういてもそれほど問題があるわけが……
って違う!ここは男女比が極端に違う世界だ!となれば、貞操観念が逆転していてもおかしくはない。前の世界で考えると、超美少女JKがお父さんや兄や弟に裸を見せてるということか……って痴女じゃねえか。
「ごご、ごめん!すぐ服着るから!」
俺はそれだけ言い残し急いで脱衣所に戻り、服を着て事故現場に再度向かう。
そこには、鼻血を垂れ流しながら幸せそうな顔で気を失う姉さんと心愛、赤い顔で呆然とよだれを垂らしている母さんがいた。
……なんてひどい絵面だ。
結局、姉さんと心愛は無事だった。あの後すぐに2人とも目を覚まし、母さんも正気に返った。
皆には、年頃の男の子なんだからもっと上品になりなさいとか、無防備すぎるとか長々とお説教をされたが、全員顔をニマニマさせながらそんなことを言うので説得力がなかった。
まあ俺としても今回のことは少し反省した。
つい前世の世界のように行動してしまうが、ここは別の世界だったな。
今度からはできるだけ気をつけるとしよう。
うっかりすることはあるかもしれないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます