第7話 家族
母さんと一緒に部屋を掃除した後、俺は自室に籠もっていた。ちなみに自室は二階の一番広い部屋だった。
なぜ自室にいるのかというと、色々と調べ物をするためだ。男女比が違うこの世界では歴史は一体どうなっているのか、前の世界の法律との違いはどれほどあるのか、またテンプレである男性専用車両などの有無などとにかく色々調べた。
予想通り歴史上の人物は性別が皆変わっていた。 しかし、成し遂げた偉業などはそう大差ないようだ。法律にもそれほど違いはないが、(俺の中では)男女関係の代表的であろう法の男女共同参画社会基本法などがなくなっていた。男性専用車両はもちろんありました。
前世の世界との差異に胸を踊らせながら新たな世界の情報を仕入れるべくパソコンを弄っていると、
「「ただいま〜」」
可愛らしい女の人の声が二つ、玄関の方から聞こえてきた。壁に掛けられた時計をふと見ると時刻は午後7時だった。
……姉の
確か姉は俺より三つ年上の大学生1年生、妹は2つ年下の中学二年生だったはず。
よ、よし。少し緊張するが、家族と初対面だ。何だかすごく不思議な気持ちだが落ち着いて行こう。
深呼吸を繰り返しながら、ノートパソコンの電源を落とす。いざ、参る。
とりあえず物音を極力立てないように静かに扉を開け、抜き足差し足の要領で一階のリビングまで行く。何故こそこそとこんな真似をしているのかは自分でもよく分からない。
リビングの扉の前まで来た時話し声が聞こえてきた。……ちょ、ちょっと聞き耳をたててみようかなあ。ほ、ほら、前情報は大事じゃん?
「母さん、仁は?今日退院だったはずでしょ?」
これは、姉か妹どっちだろう。声色や喋り方的に姉の茄林かな?
「ジンちゃんは今自分の部屋にいるよ。昨日話した通り今記憶喪失になっているの。デリケートな問題だから、慎重に接してあげてね。……あとジンちゃんは今すごく優しくなってるから、茄林もすごく驚くと思う!」
これは聞き覚えがある声、母さんだな。
「え、えぇ?嘘でしょ?お兄ちゃんが優しく?ありえないよ!」
お、まだ幼さが残る可愛らしい声。これは妹の心愛に違いない。
「信じれない気持ちも分かるけど、本当なの!さっきなんか、お母さんと一緒にこの部屋を掃除してくれたんだよ!えへへ」
「「はっ?」」
おお……見事なハモり。そんなに変なことしたかな……?いや、そんな事でも驚いてしまうほど、以前の前原仁くんの行動とはギャップがあるということか。
「もぉ〜!そこまで信じられないなら、直接会わせてあげる!ちょっと待ってて!」
母さんの一際大きな声が聞こえた瞬間、俺がいる扉の方に足音が近づいて来た。
えっ?あ、やば!こっち来る!
俺はすぐその場を退避しようとするが、もはや間に合わない。やはり聞き耳なんてたてるものじゃないな。
『ガチャッ』
「「あっ」」
今度は母さんと俺の声がハモった。 俺の家族ハモりすぎでしょ。ってそんな事を考えている場合じゃない。
「えっとぉ、あ、あはは。会話が気になっちゃって……」
別に悪いこととかではないと思うのだが、何か気まずかったので少しバツが悪く、しどろもどろになってしまった。
「全然大丈夫だよ!あ、ジンちゃんに紹介するね、姉の茄林と妹の心愛だよ!」
俺の盗み聞きはさして気にしていないのか、母さんがそのまま姉と妹の紹介をしてくれた。よし、ビシッと自己紹介を決めようか。
「初めまして、前原仁と申します。茄林さんにとっては弟、心愛ちゃんにとっては兄にあたります。どうやら僕は記憶喪失とやらになってしまったそうで、お二方との思い出は残念ながら覚えてはいないのですが、その分これから仲良くしてたくさん思い出を作っていきましょう!これからよろしくお願いします」
よし、噛まずに事前に考えておいたセリフを言い切ることができた。これは及第点ではないだろうか?
チラリと茄林さんと心愛ちゃんの反応を確認してみる。
……2人とも見事にポカンと口を開けてアホ面をさらしていた。しかし、茄林さんは黒髪のミディアムショートヘア、心愛ちゃんは黒髪ショートヘアでどちらもかなりの美少女だ。そんな呆然とした顔も何故か絵になっており、思わずクスッと笑みが漏れてしまう。
すると、俺の笑みが合図になったかのように2人が動きを再開させる。
「あ、えっ!?は、初めまして。姉の茄林です……よ、よろしく?」
「よ、よよろしくお願いしまちゅ!心愛です!」
2人ともかなり混乱しているようだ。まあ、前原仁くんの家族なので、彼を1番長く見続けてきたのだろう。それが、ある日性格がまるっきり正反対に早変わりすれば戸惑いもするか。
母さんは何故か俺の隣でドヤ顔している。
「ふふん、どう?うちのジンちゃんは礼儀正しいでしょう!?」
母さんは、豊満な胸を張ってそんなことを言う。
家族に向かって言う事じゃないけども。あと何で母さんが得意気なのか。
「う、うん。びっくりした……ほ、本当に仁よね?」
「はい、仁です。これからお世話になりますね、姉さんっ」
茄林さんのことはこれから姉さんと呼ぶことにしよう。そう方針の決定を下しつつ、笑顔で改めて自己紹介をした。
「はうっ!!……ね、姉さん!?ちょ、ちょっと、仁?もう一回『姉さん』と呼んでくれない?」
両手で胸を押さえて一瞬仰け反った姉さんは、顔を赤くしながらもう一度お願いしてきた。
おぉ……こんな美人さんを虜にしてしまうとは。罪深いな我が顔面よ。末恐ろしい。それにしても少し面白いな、少しからかってみようか。
「……改めてお願いされると恥ずかしいよ……姉さん」
モジモジと恥ずかしそうに体を動かしながら言ってみる。上目遣いのおまけ付きだ。
「「「がはぁっ!!」」」
母さん、姉さん、心愛ちゃんが幻影の血を吐きながら同時に倒れた。
ふふ。ふはははは!むなしい勝利だぜ!
その後、心愛ちゃんには心愛と呼び捨てにするよう頼まれたので、またサービス精神旺盛な感じで呼んであげると、全員デジャビュのように倒れ伏した。 なんとも賑やかな家族だ。
まあとにかく、みんなが良い人そうで本当に良かった。
これからの生活がより楽しみになった、そんな一幕であった。
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