ラーメン屋をやっていますが、忙し過ぎるので猫の手も借りたい ~よかろう~
スラ星
第1話
「「ありがとうございました~」」
最後のお客さんが退店していくのと同時に俺と妻の
「今日も疲れたな」
「そうね。暇過ぎるのもどうかと思うけど、忙し過ぎるのも嫌ね」
最近は世界中で感染症が蔓延しており、外出するのもやっとの状況だ。周辺にあるチェーン店も臨時休業してしまい、常連のお客さんに加えて初めて訪れるお客さんも加わって、営業日の昼時は凄く忙しくなってしまっている。
バイトを雇おうにも今の状況では安定して雇うことも難しいので、二人で切り盛りしていくしかない。
「さて、店仕舞いしてお昼食べましょ」
「そうだな」
忙しいことは変わらないが、営業しているのはお昼時のみなのでやってはいける。
梨沙は椅子から立ち上がり、出入り口の引き戸を開けて、閉店の立て札に変えようとするが、思わぬ珍客が引き戸の側にいた。
「あら、かわいいお客さん」
「な~」
梨沙が開けた引き戸から一匹の茶トラが入って来てしまった。
「もう閉店だぞ。お客さんじゃないならバイト志願者か?」
「にゃ〜」
「そんなわけないでしょ」
茶トラを外に追い出そうと持ち上げようとするが、逃げるように梨沙の手から逃れて、俺の足元にやって来た。
「梨沙の手から逃れるとは大したものだ」
昼は食べ終わったテーブルの後片付け、料理を運んだりしている梨沙の手だが、夜になると俺を搾り取る魔の手に変貌するからな。
「どういう意味?」
「いや、大した意味はないよ。それより茶トラよ、猫の手も借りたい状況だがバイト一号になる気はないか?」
「応えるわけないでしょ……」
『よかろう』
「嘘でしょ……」
**** ****
翌日、早速ではあるがバイト一号の茶トラに働いてもらうことにした。何せ、一人で調理場を担当している訳だから、新しく来店してくるお客さんには結構長めの待ち時間が発生してしまう。
そこを茶トラに任せようと思うのだ。
「新しい従業員かな。可愛い」
テーブル席に座っていたOLさんたちの元に茶トラが出向いた時の感想だ。尻尾をフリフリと愛想良く接客している茶トラ。
茶トラに夢中になっている時間で何とか注文されたラーメンを作って、梨沙がそれを運ぶ。
完璧だ。俺への負担は変わらないが完璧だ。
『湯切りならできるであろう』
その言葉通り、茹で上がった麺が空中で振られて、どんぶりに入った。何の技術かは知らんが何という茶トラだ。
「えっと、次は餃子か」
『単純作業なら任せよ』
「な……」
流石に俺も驚いた。勝手に開かれた業務用の冷蔵庫から餃子が飛んできて、熱く熱された鉄板の上で焼かれ始めたのだから。
接客、調理に一名ずつバイトが入ったみたいだ。
最終的に俺がやっていた作業の半分ほどは茶トラが受け持つことになった。接客で半人前、調理で半人前でもう立派な一人前の茶トラだ。
バイト一日目だが、免許皆伝も近いだろう。
**** ****
「「ありがとうございました〜」」
本日最後のお客さんが退店していくが、俺と梨沙はまだまだ体力が残っていた。いつもは椅子に座り込んでいたのに。
「バイト一号、君のおかげで大分、楽をすることができた。日給としてこのカニカマを進呈しよう」
『うむ、好みの味だ』
「そこでだ。本日の成果を見て、バイト一号から正社員一号にしたいと思うのだが、どうだろうか」
「正社員は流石に……」
『よかろう。但し住処がない故、提供してくれると有難い』
「……嘘でしょ」
こうして夫婦で営むラーメン屋に一匹の茶トラが加わることになった。しかし、茶トラがいるラーメン屋として人気店になってしまい、忙しさが戻ってきてしまうことになるのだが、それはまた別のお話である。
ラーメン屋をやっていますが、忙し過ぎるので猫の手も借りたい ~よかろう~ スラ星 @kakusura
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