彼氏作るために、パーティに来ました!


 今日は、待ちに待ったパーティだ!

 ここはアメリカの首都、ワシントンDC。春の夜は肌寒いけど、今日は比較的過ごしやすい気温で、絶好のパーティ日和だった。


 今日のパーティ開催にあたって、軍人の父や、大人たちはさまざまな意図を持って、ワシントンDCのジョージタウン大学に集まっていたが、ただ今14歳、もうすぐ15歳になるアニー・ウェブスターの意図するところは、たった一つだ。


 かっこいい男の人に会いたい!

 女子校だから、彼氏作ろうと思っても作れないし。


 ジョージタウン大学の食堂は、このパーティのためにテーブルと椅子が片付けられて、花々や銀やガラスの燭台がキラキラと輝き、会場はまるで昼間のように輝いてる。

 外はドレス姿ではちょっと厳しいくらいの寒さだが、中はたくさんのろうそくのおかげで、温かくて過ごしやすい。


 アニーの赤髪によく似合う、一目惚れしたコバルトブルーのドレスを身にまとい、テンションは爆上げだった。

 まるでその気分に合わせたように、オーケストラがスティーブン・フォスター※の「おお、スザンナ」を演奏している。


※19世紀アメリカを代表する作曲家の一人。当時としては珍しく、黒人奴隷の苦しみに共感した歌詞も多く、「アメリカ音楽の父」とも呼ばれる


 音楽に合わせて、アニーも胸の内で小さく歌いながら会場を眺め回した。



  アラバマから ルイジアナへ

  バンジョーを持って 出掛けたところです

  降るかと思えば 日照(ひで)り続き

  旅はつらいけど 泣くんじゃない


  おおスザンナ 泣くんじゃないよ

  バンジョーを持って 出掛けたところ!



 飾り付けやキレイな格好をしたお姉さま方をきょろきょろと眺めながら、同じように色とりどりの男性たちを見つめた。


 中には、アニーを見つめてニコッと微笑む男性も何人かいる。

 そんな風に、大人の女性として見つめられることを、アニーはとてもうれしく感じた。


 ついこの間まで、子ども扱いだったもんね!

 私も最近、かわいくなってきたってことかなー。


 自惚れはさておき、顔つき、雰囲気が急に大人びてきたことをアニーは自分でも感じる。

 自慢の姉カミラの美しさやしとやかさをずっとうらやましく思っていたのだが、カミラとは違った感じの女性になりつつある。


 そうは言っても、パパが今度最高司令官になるから、それで私に近づこうとする人もたくさん増えるからって。

 一応は注意するようにってカミラに言われたんだよね。


「アニー、そんなぼうっとしないで」

 カミラが、そう小声でアニーをたしなめた。

「わかったわかった」

「全く……あら」

 カミラの緩やかなウェーブのかかった、星々の輝く闇夜のような黒髪と、対照的な真白のドレスが、ふわりと揺れた。


 カミラ、ほんとにきれい!

 18歳になったばっかだけど、カミラってちょっと儚げで、なんていうか、色っぽい。

 カミラのいろいろもの考えちゃう性格のせいかな。


「チャールストン少佐」


 その時、アニーの視界に現れたのは、なんかすごいオーラの男の人だった。


「カミラ嬢、お久しぶりです。そちらはアニー嬢でしょうか。お噂はかねがね」


 金髪に青みがかったグレーの瞳、澄んだマリンブルーの軍服がめちゃくちゃ似合ってて、背も高い!


 その堂々とした姿は、会場の空気を一変させた。歩みは力強く、そして優雅で、まるで場にふさわしい王者のような存在感を放っている。微笑みを浮かべながらアニーとカミラに向かって一礼し、その温かい眼差しが二人を包み込んだ。


 アニーは思わず息を呑み、すっと膝を折って深々とお辞儀をする。


「アニー・ウェブスターと申します。ケイド・チャールストン少佐、父ウェブスター将軍の腹心の方でいらっしゃいますわね」


 ちゃんと挨拶できた、とアニーは内心で安堵したが、同時に彼の一際輝きを放つオーラに圧倒されていた。


 心の中で、

「かっこよすぎるんだけど……!」

 と悶えながらも、表には出さずに済んだ自分を少し誇らしく感じる。


 この人だ、と思った。必ず手に入れる!


 チャールストン少佐は一瞬、目を見開いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて、優しく瞳を細めた。


「肖像画で拝見したよりも、ずっと大人のレディですね。ウェブスター将軍のお嬢様方にお会いできて、光栄です」

 その言葉には、驚きと感謝の気持ちが込められている。まるで、彼が感じ取ったアニーの成長に対して、真摯な敬意を表しているかのようだ。


 こうして少佐に言われると、幼さが少し恥ずかしく思える。


 でも、でも。


 少佐はアニーを気に入ったような気がした。

 根拠はなく、ただの直感だが、アニーは自分の感情や他人の気持ちを読む力に自信を持っていた。

 少佐の優しい瞳の奥に、確かに何かを感じ取ることができたのだ。


「アニー、カミラ!」


 そこに、明るい女性の声がした。


 振り返ると、

「マーガレット」


 カミラの親友の、マーガレット。


 この子は性格悪くないから、好きなんだよね。

 きれいだし。


 チャールストン少佐よりは明るめのブロンドに、瞳の色によく似たアップルグリーンのドレスを身にまとっている。


「カミラ、アニーも、なんて綺麗なの。アニーはすっかり大人の女性になったわね」

 そう微笑みかけてから、マーガレットはチャールストン少佐に瞳を向けた。

「そちらの男性はどなた?」

「初めまして、ケイド・チャールストンと申します。ただいま少佐の地位にあり、ウェブスター将軍配下におります」

「マーガレット・カスティスです。今はきっとお忙しくていらっしゃるんでしょうね。南部との戦争は始まってしまうのかしら」

「それは神のみぞ知る、ですね。できるだけ避けたいと思っておりますよ」

「カミラ、あなたはどう思っていて?」


 マーガレットがカミラに問いかけた。


「どうかしらね。本で読む、内戦が起こる前の雰囲気に当てはまっているように思えるわ」

「こわいわね。でも、戦争はそりゃ避けたいけどメリーランド州やバージニア州が、まだ北部に残っているのは正直に言って不思議だわ。リンカーン大統領の言うような、奴隷解放に必ずしも賛成できないし。うちの奴隷たちの扱いを『アンクル・トムの小屋※』のようなものだと思われては困るわ。たぶん、どこのおうちもそうだと思うし『アンクル・トム』はあまりに悪意があると思うの」

※「アンクル・トムの小屋」: 1852年、ハリエット・ストゥが発表した小説。黒人奴隷のおかれた状況を、善良なアンクル・トムや周囲の人々を通じて描き、奴隷解放運動の高揚をもたらした


 北部と南部か。

 私たちやマーガレットが住んでるメリーランド州も、バージニア州も、南部って言ってもいいよね。

 だから、南部か北部かって、すごい微妙かも。


 てか、なんか、難しすぎてわかんないけど。

 マーガレットは好きだけど、その言い分はちょっとやばい気がする。


 うまく言えないが、フェアじゃない気がするのだ。

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