tomorrow

 数日間かけて追っていた監視の仕事が終わって、疲れた目で暗くなった道を歩く。

 今夜はさっさと寝てしまおう。弟妹はもう寝ただろうな。

 そんなことを思いながら両腕を星空へ向けて伸ばした。昔はこの町も、星なんて見えないくらい輝いていたらしいけど、今は街灯が申し訳程度に点いているだけだ。

 不意に携帯が鳴った。着信音からして相手は護り屋の菅井さん。疲れているのか、機械越しに聞く声に元気がない。

『なにも言わず、来てくれませんか。今は……湊さんに、会いたいんです』

「……分かった。行くから、待ってて」


 待ち合わせの公園、光のあたるベンチに座り俯く菅井さんを見付けて駆け寄った。

「おまたせ」

「……湊、さん」 

 仕事帰りだろうか。髪は乱れ、服には汚れ。顔にまで小さな傷をこさえた菅井さんは俺の顔を見て笑顔を見せた。

「えっと……心配させるつもりはなくって、ちょっと……会いたくなって、呼んでみただけです」

 笑っているのに、泣きそうな表情で、だけど原因を言わないのはきっと事情があるからで――だから無理には聞き出さず、隣に並んでぽつりぽつりと何でもない会話をした。兄弟の話とか、近所で見た野良猫の親子の話とか。 

 ずっと固いベンチに座っているのもなんだからと歩き出したのはいいけれど、会話はいつの間にか消えていた。言葉はなく、手も繋がずにただ並んで黙々と歩いていた。

 まだ虫も鳴かない季節。しんとした空気に二人分の足音。

 星空を見上げつつ、菅井さんを盗み見る。本人は隠しているつもりでも、辛そうな表情は隠しきれていない。

「菅井さん」

「はい?」

「聞かれたくないなら何があったのかまでは聞かないから、せめて、辛い時は素直に辛いって言ってよ」

「別に辛くなんて――」

「ほら、またそうやって無理に笑う。暗い場所でも監視屋の目はごまかせないんだから」

 菅井さんを強く抱き寄せて、囁く。

「泣いてもいいよ」

 お互いまだまだ上手く気持ちを伝えられないけれど、全部一人で抱え込もうとするのは黙って見ていられないから。

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