監視屋と囚人
冷たい壁に囲まれて、冷たい鉄格子を挟んで、二人は居た。
目を合わせる事もなく、ただ居るだけの存在同士。
たまに零れた言葉を広って返すだけの関係。
「監視屋なんて……嫌い」
「そう」
「こんな閉じ込められてる子供見て、何が楽しいわけ?」
「仕事だからね。楽しくなくても見てなきゃいけないんだ」
「……あんたは特に訳分からない」
「そう?」
「仕事だからってこんな……」
深く俯き膝に埋められる表情は暗い。
「……出してよ」
「……」
「ここから出して」
「今俺に命令出来るのは、お金出してくれてる依頼主だけだよ」
「ふざけてる」
低く、短く、しかし断続的に呟かれるのは呪詛の言葉。それは監視屋と彼の雇い主に対する言葉。
呟きが途切れ、しばしの沈黙。
「……ねえ」
「うん?」
「殺して」
「しないよ」
「じゃあ……」
「しないし、させない」
監視屋は右手を握り、強く引いた。同時に鉄格子の内側で悲鳴が上がり、金属が落ちる音がした。
「――っ何で! 何で邪魔する! 見てるだけのくせに!!」
そう。見ているだけ。
対象に手を出す事も、対象が自らを傷付ける事も禁じられている今回の仕事。本当に、何の為にいるのだろうと自分でも思っていた。
黙っている間にも投げ付けられる言葉。
「何とか言えよ!」
「何を?」
「あんた自分のことぼろくそに言われて何とも思わないのか!」
「もう、慣れちゃったから」
悲しいことを言う。
もう、悲しいとも思わなくなっていた。
仕事だと割り切って、世界の動きを見続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます