告白

「退屈だなー」

 うららかな昼下がり、湊はとある小さなビルの屋上にいた。いつもは猫釣りでもして退屈な時間を潰しているが、今日は猫すらいない。代わりに、無線付きヘッドホンのスピーカーから聞こえる少女の声。

『何言ってるんですか。しっかり見張ってて下さいよ』

「分かってる分かってる」


 今回はある人物の護衛を依頼された護り屋の補助だ。ちなみに護るべき人物と護り屋は屋内に居るため、湊は一人、周囲を監視していることになる。呟きに反応してくれるという事は、向こうも今は一人の様子。

 くるぐるみを持って来れば良かったなとか、シーファちゃんも呼べば良かったかなとか考えながら、また呟く。

「……バケツパフェ食べたい」

『……は?』

 何を突然と、理解出来ないといった表情が簡単に想像出来る声だ。

「たまに食べたくならない?」

『注意力散漫ですね。監視そっちのけでどこかの甘味屋でも覗いてるんですか?』

「仕事はちゃんとやってるよ! ……平和だからさー、うん。ようするに単なる暇つぶしだよ」

 双眼鏡から覗く街は、いつも通りの平和な姿。表面上は。しかし今日もどこかで《仕事屋》はそれぞれの仕事をこなしているのだろう。

 双眼鏡を目にあてたまま、湊は呼びかける。

「ねえ、菅さん……」

『はい?』

「例えば君が死ぬとして」

『……勝手に殺さないで下さい』

「君を思って泣く人はたくさんいると思うんだ」

『ちょっ人の話――』

「聞いてる。だけど聴いて。

 たくさんの人が泣く中で、俺は誰より菅さんの事を想って泣ける自信があるよ」

 しばしの沈黙の後、呆れたように溜め息が聞こえた。

『……何の告白ですか』

「えー……」

『つまんない事言ってないで仕事して下さい。外の状況報告!』

「異常なーし」


 顔が見えなくて良かったと思ったのは、お互い様かもしれない。

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