ゴブリンとの戦闘中に「猫の手も借りてえ!!」と叫んだら、黒猫が助けに来てくれた件

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

「ああ~! 猫の手も借りてえ!!」


 俺は森の中でそう叫ぶ。

 俺の目の前には大量のゴブリンが群がっていた。

 一匹や二匹じゃない。

 ざっと数えただけで二十はいるだろう。


「こんなに群れてるなんて聞いてないぞ!」


 叫びながら剣を振るう。

 しかし、ゴブリン達は俊敏な動きで俺の攻撃をかわしてしまう。

 深追いすれば当てられるだろうが……。

 そうすると、こちらのスキを突いた反撃を受けるだろう。


「くそっ! これじゃどうしようもない……」


 俺は一旦後退し、深呼吸をする。

 そしてもう一度ゴブリン達を睨みつける。

 ゴブリンはザコなのだが、数が多く厄介だ。

 なんとか、奴らの気を逸らせないものか。

 少しでも逸らすことができれば、その一角から崩すことも可能なのだが……。

 俺がそんなことを考えていたときだった。


「……ん? なんだ?」


 何か声が聞こえる。

 ゴブリンの鳴き声ではない。

 これは……。


『にゃおん。お困りのようですかにゃ?』


 ……この声は……あの時の黒猫の声!?

 数日前に路地裏で助けた、人語を話す不思議な猫の声だ。

 どこからだ?

 周りを見渡すと、木の上に黒猫の姿があった。


『お困りなら助けますにゃ。猫の手にゃ』


 そう言って、黒猫は前足を振り上げる。

 すると、その手が巨大化した。

 そしてそのままゴブリン達に振り下ろす。

 次の瞬間、辺り一面に血飛沫が上がった。

 ……ということはなかった。


「「ぎいぃっ?」」


 ゴブリン達が不思議そうにしている。

 黒猫の方を見てみると、猫パンチをしたような格好のまま固まっていた。


『ふむ、失敗ですかにゃ。いけると思ったんですけどにゃあ』


 猫はそう言いながら、元の大きさに戻った手をぶんぶん振っている。

 見掛け倒しかい。

 だが、これはチャンスだ。


「スキありだぜっ! おらぁっ!!」


 俺は剣を思い切り振るう。

 狙い通り、ゴブリンの首が飛ぶ。

 立て続けに、さらに数匹の首を切り落とした。

 これで残りは十五体か。


「……よし、このまま一気に片付けるぞ!」


 先ほどまでの時点で、膠着状態だったのだ。

 一角が崩れた今、戦局は俺に傾いている。

 ゴブリン達は慌てて逃げようとするが……。


『逃がさないですにゃ!』


 今度は黒猫の手から炎が吹き出す。

 それは瞬く間に広がっていき、逃げるゴブリン達を飲み込んだ。

 そして、あっという間に奴らは燃え尽きた。

 ……ということはなかった。


「「ぎいっ?」」


 ゴブリン達が首を傾げている。

 よく見ると、奴らの服が少し焦げた程度だ。

 炎をまともに受けた割には大したことないな。


「また見掛け倒しかよ……。だが、チャンスだっ!!」


 俺はすかさず駆け出し、ゴブリン達を切り捨てていく。

 そして、あっという間に全てを討伐した。


『ふぅー、疲れましたにゃ。もう動けんのですにゃ』


 黒猫はそう言うと、木から降りて寝転んでしまった。


「おいおい……。大したことはしてないだろ」


 俺は呆れつつ、黒猫を抱きかかえる。


『ふわぁ~、あったかくて気持ちいいにゃあ。もっと抱っこしてほしいですにゃ』


 黒猫はそう言って、俺の顔に頬ずりしてくる。

 ……まあいいか。

 俺は、とりあえずこの黒猫と共に街に戻ることにしたのだった。

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ゴブリンとの戦闘中に「猫の手も借りてえ!!」と叫んだら、黒猫が助けに来てくれた件 猪木洋平@【コミカライズ連載中】 @inoki-yohei

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