ずっず奜きだった圌女に近づきたくお、文化祭の実行委員に立候補した僕が、「猫の手も借りたい」ず幌銎染を連れおきた結果が、青春恋愛NTRなはずはない。

成井露䞞

😘

『クラス展瀺実行委員 䜐野瑞垌』


 倏䌑み明けの教宀。ホヌムルヌムで黒板に曞かれた文字。

 斜め埌ろを振り向くず、挙げた手を䞋ろしたばかりの圌女が、呚囲の女子たちに突かれながら笑っおいた。

 優等生で明るくお、枅朔感のある圌女。


 䞭孊の時に郚掻の詊合で蚪れた孊校で、偶然、圌女を芋かけた。

 進孊しお同じ高校だず知ったずきには運呜だず思った。

 でも螏み出せないたた気が぀けば高校二幎生の秋。

 文化祭が終われば受隓シヌズンだ。

 だからきっずこれは圌女ずの青春ラストチャンス。


 男子たちはみな自分の名前が呌ばれないように、教卓のクラス委員から芖線を逞らしおいる。


 僕は匷く目を瞑っお、そしお開くず、ゆっくり右手を持ち䞊げた。

 クラス委員が䞀瞬驚いたように目を開いた埌、安堵の溜め息を吐いた。


 硬質な音を立おおチョヌクが黒板の䞊に癜い軌跡を刻む。


『沢本新䞀』


「――それでは今幎の文化祭のクラス展瀺実行委員は䜐野瑞垌さんず、沢本新䞀くんに決めたいず思いたす。賛成の人は拍手をお願いしたす」


 たばらな拍手が教宀にさざ波みたいに広がった。

 クラス委員が目配せするず、担任が教卓たで来お、䞀぀咳払いをした。


「いいか、お前ら。クラス展瀺は毎幎、実行委員に負担が集䞭しがちだ。絶察そうならないように党員ちゃんず協力するんだぞ」


 担任がそう念を抌すず、教宀には癜けたような「は〜い」が響いた。


 


 かくしお担任の心配は預蚀の劂くに珟実ずなった。


「――ほんず誰も来ないよね」

「仕方ないよ。郚掻の䌁画ずか諞々で忙しいや぀が倚いから」


 攟課埌の教宀。

 机に頰杖を突く君のポニヌテヌルは背䞭に流れおいる。

 少し汗ばんだうなじが綺麗だ。


「なんで私、立候補しちゃったんだろ おいうか沢本くんも、なんで立候補したの 謎」

「うヌん、なんでだろね」


 そう蚀っお誀魔化した。ここで「君がいたからだよ」だなんお気障に蚀えるくらいなら、二幎も片想いを拗らせおいない。


 クラス展瀺は「実行委員ぞの仕事の抌し付け」になりがちずいうのは、もはや本校の䌝統芞胜だ。


「ほんず、誰も来ないよね」

「きれいさっぱりね」

 

 攟課埌の準備時間。クラスメむトの協力者は誰もこない。

 だから䜐野瑞垌ず合法的に二人っきり。

 それは僕に静かな心臓の高鳎りず倚幞感をくれた。


「いいんだけど、このたたじゃ完成しないよね ちょっずダバい」

「ほんず、実際、猫の手も借りたい状況だよね」

 

 委員ずしおなんだかんだで完成しないのは困る。だから僕は特に考えもなく、そんな慣甚句を口にした。猫の手。

 

「――借りちゃう」

「え 猫の手 だれかに頌むっおこず」

「郚掻が無い子――䌊織ずか、手䌝っおくれないかな」


 䜐野瑞垌は僕の幌銎染の名前を口にした。

 高校生になっおから距離感が埮劙になった小孊生の頃からの女友達。森䌊織。


 


 䌊織がチャラい男たちず぀るむようになった原因は僕にあるのかもしれない。


 䞭孊䞉幎生の頃、圌女に告癜された時、ずは蚀えなかったのだ。

 小孊校からずっず䞀緒だった圌女は、僕にずっお異性ずしお芋るこずのできる存圚ではなかったから。


 高校に入っおから䌊織の亀友関係は少し倉わったし、制服を着厩しお、髪の毛も少し染めお、化粧もするようになった。


 䌊織は高校では郚掻にも委員䌚にも入らず、攟課埌には男友達ずどこかぞ消えお行くようになった。


 


 䜐野さんに「猫」ずしお遞出されたのは䌊織だった。


 LINEでメッセヌゞを送った埌、䜐野さんが音声通話で盞談した結果、䌊織はOKしたみたいだ。


「あい぀、来るっお」

「うん、OKだっお」


 珍しいものもあるもんだな、ず思う。

 あい぀は孊校行事ぞの協力ずかは避けたがる方だったから。

 こんな埗にもならないクラス展瀺を手䌝うだなんお、䜕か裏がある気がしなくもない。


「でも条件があっお」

「条件」

「うん。もう䞀人連れおきおいいなら、だっお。いいよね」


 䜐野さんはそう蚀っお無邪気に笑った。

 人数が倚い方が捗るのは確かだ。

 二人の時間が枛るのは残念だけど。


「――誰を連れおくるっお」


 䌊織の女友達の顔を䜕人か思い浮かべる。


「うん。錊野くんだっお」


 思わず眉を顰めた。

 雌猫が連れおくるのは、僕が信甚できない雄猫だった。


 


「瑞垌ちゃん〜。ここのスペヌス䜕を曞けば良いんだっけ〜」


 少し茶色い髪を耳が隠れるくらいたで䌞ばした男が、甘えたような声を出す。


 錊野恒之。䌊織ず䞀緒で郚掻にも入らずに、街をブラブラしおいる男たちの䞀人だ。

 なんだかチャラチャラしおいお、僕は苊手だった。

 孊校の倖に付き合っおいる圌女が耇数いるずかいう噂もある。

 そんな䞍誠実そうな圌に、僕は生理的に苊手意識を持っおいた。


「そこはね、この郚分を曞き写しお欲しいの」

「おヌ、これかヌ。オッケヌ。それにしおも瑞垌ちゃん、頭いいよね。よくこんなのわかるね」

「――そう そんなこずないわよ」


 䜐野さんは満曎でもなさそうに笑った。

 䜕だか苛立ちを芚えた。

 せっかく圌女ず䞀緒にいたくお、思い切っお立候補しお委員になったのに、圌女の笑顔が僕以倖の男に向けられおいるのが悔しかった。


「で、新䞀は、瑞垌ず進展あったの」


 隣で囁かれおビクッずした。


「な  、お前」

「なにキョドっおんの わかるよ、そんなの。必死に立候補しおさ。分かりやすすぎ」


 䌊織が至近距離から芗き蟌んできた。

 ショヌトボブの髪を揺らす幌銎染。

 雰囲気は随分ず倧人っぜくなった。

 それでも黒くお倧きな瞳は、䞭孊時代から倉わらない様子で、僕を真っ盎ぐに芋䞊げる。


「――䜕もないよ  」

「そっか。だよね」


 䌊織は頷いお、口角を䞊げた。

 悪巧みでもしおいるみたいに。


 


 それから毎日、攟課埌、二人はクラス展瀺の準備を手䌝いにやっおきた。

 党然、そういう真面目な雰囲気のないチャラそうな二人なのに。

 おかげでクラス展瀺の準備は順調に進んだ。


 本圓は䜐野さんず二人っきりが良かったけれど、背に腹は代えられないのかな っお思った。


 


「ねえ、新䞀、ここはどうするの」

「お前なぁ、それくらいわかるだろ」


 呆れながら教える僕に䌊織は「いいじゃん、ケチ〜」ず肩をぶ぀けおきた。

 その感觊が柔らかくお、䞍意に幌銎染に異性を芚えおドキリずする。


「ぞヌ、そうなんだ。瑞垌ちゃんっお、お嬢さんなんだね」

「そんなこずないわよ。党然」

「じゃあ、今床、俺が連れおいっおあげるよ」

「え、ほんず」


 振り返るず、錊野が軜薄そうな笑いを浮かべお、䜐野さんの顔を芗き蟌んでいた。

 䜕の話題か分からないけれど、二人が芪しそうに話しおいる。

 圌女は少し恥ずかしそうにポニヌテヌルの髪をさすっおいた。


 


「ちょっず生埒䌚宀に曞類出しおくるね」


 思い出したように䜐野さんが蚀った。

 僕は顔をあげお、「あ、うん」ず頷く。


「じゃあ、俺も行くよ 瑞垌ちゃん䞀人じゃ危険だからさ」


 錊野がそう蚀っお立ち䞊がった。


「え 危険っお䜕よそれ」

「矎人の瑞垌ちゃんが、生埒䌚長に襲われちゃうかも」

「もう、䜕よそれ。――別に来おもいいけど」


 そう蚀っお、二人が教宀を出おいった。

 思わず僕が腰をあげるず、腕を掎たれた。


「ねぇ、新䞀、ここ分からないんだけど 教えお」


 幌銎染が黒目を䞞くしお、僕を芋䞊げる。


 二人が倕焌けの廊䞋ぞず消えおいく。

 突然、胞が軋んだ。䞍安を芚えた。


 


 朝、登校途䞭、䜐野さんを芋かけた。

 その隣を錊野が䞊んで歩いおいた。

 ヘラヘラずした笑顔を浮かべながら。

 

 錊野が䜕かの冗談を蚀っお、䜐野さんが突っ蟌むようにその肩を抌す。

 あい぀はオヌバヌリアクションを取った埌に、䜐野さんに觊れた。

 玺のブレザヌの䞊から、圌女の背䞭に。


 


「最近、錊野ず仲良いよね 䜐野さん」

「え そんなこず無いよ 圌がちょっかいかけおくるだけだよ。ほんず、恒之くん、真面目にやっおほしいよね〜」


 䜐野さんは手の甲を唇に圓おお、笑った。

 あい぀のこずを䞋の名前で呌びながら。


 


「なんだよ話っお」


 文化祭を次の日に控えた倕方の校舎。

 屋䞊ぞ繋がる階段䞋たで、䌊織が僕を呌び出した。


「うん、ちょっずね。明日ず明埌日で、文化祭も終わりだなヌっお」

「だな。たぁ、なんずか間に合いそうだし、助かったよ」

「私も『猫の手』くらいにはなれたかな」


 そう蚀っお䌊織はどこか自虐的に笑った。


「ねぇ、新䞀。䞭孊の時、私の告癜を断ったのっお、  もうあの時から、瑞垌のこず奜きだったからだよね」

「おたえ――䜕蚀っお  」

「わかるよ。新䞀のこずなら、䜕でも」


 図星だった。

 䞭孊の時、僕はもう恋に萜ちおいた。


「だからね。聞きたいんだけど。もし瑞垌が別の男子のモノになっお、新䞀のモノにはならないっお分かったら、――新䞀は、私のこずを芋おくれるのかな」

「そんなこず  わかんないよ」


 䜐野瑞暹。圌女の笑顔を思う。

 颚に揺れるポニヌテヌルを思う。

 圌女はスマホをポケットから取り出すず、䜕かを確認した。

 䌊織が、クククず笑う。

 そしお、僕の手を取った。


「それじゃあ。――来およ」


 


 䌊織に手を匕かれるたた来た道を戻る。

 僕らが掻動しおいた倕焌けの教宀ぞ。


 その前で圌女は止たるず、摺りガラスの窓に手を掛けた。

 そしおそっず少しだけ開く。


「じゃあ、新䞀。――䞭を芋おみおよ」


 なんだろう 䜕があるずいうのだろう

 僕は幌銎染が開いた隙間から、郚屋の䞭を芗く。


 教宀の䞭。開いた窓から吹き蟌む颚に揺れるカヌテン。

 その前で、ポニヌテヌルの䜐野瑞垌が、茶髪の男に抱きしめられおいた。

 

 僕のずっず奜きだった圌女の唇が、軜薄そうな男に啄たれおいる。

 錊野に。泥棒猫に。


 唇を離し、俯く䜐野瑞垌。

 やがお錊野は、そんな圌女を机の䞊ぞず抌し倒した。

 背䞭を机に預けた圌女のスカヌトの䞭ぞず、その右手を忍ばせる。


 圌女はそっず、芖線を暪に逞した。

 机からポニヌテヌルが零れ萜ちた。


「ねぇ、新䞀。だから、私じゃ、駄目かな」


 背䞭に胞の膚らみが抌し付けられる。

 い぀の間にか女性になっおいた幌銎染のそれ。


 玅く染たる廊䞋の䞭で、僕の䞋腹郚は熱を垯び始めた。

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ずっず奜きだった圌女に近づきたくお、文化祭の実行委員に立候補した僕が、「猫の手も借りたい」ず幌銎染を連れおきた結果が、青春恋愛NTRなはずはない。 成井露䞞 @tsuyumaru_n

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