モモ子とヶ島のオッニ

ひなみ

本文

 某日吉日ぼうじつきちじつ、この小さな村でジッジとバッバに大事に育てられたモモ子は、ある決意をしたそうなの。人里を狙い金品を根こそぎ奪っていく、あの憎むべき悪を絶対に倒さなければならないってね。


 両親のようにしたっている二人に見送られて、モモ子は単身北を目指したの。そこは悪の化身オッニの住む島。通称『ヶ島がしま』と呼ばれる修羅の地。

 だけど、そうは言ってもモモ子は年端もいかない、かよわい細腕の女子なわけだから、そこである考えにたどりついたわけ。ひとまずもので釣れば、家来なんていくらでもついてくるんじゃないかなって。

 正直それはどうかと思うんだけど、それ以外にやりようがなかったみたいなんだよね。


 そういえば、バッバから渡されていたきびだんごはとっくに腐ってた。守ろう賞味期限。それを素知そしらぬ顔で地中に埋めるとモモ子は、近くにあった万屋よろずや七の刻、十一の刻せぶいんいれぶん』で代わりになるようなものを買って、ふところに忍ばせたんだって。

 渡りに船とはこの事だなぁって、モモ子はそれはそれはいい笑顔を浮かべていたんだけど、すれ違う人たちからは不審者だと思われていたらしいよ。


 そのあとイッヌ、サッル、キッジを大間のマグロのように一本釣りして、いよいよ小船で出発しようとしてたその時にね。そこに何者かが飛び込んで来ちゃった。


「あなたは……う~~~~わ! かーわいい!」

「飛び入りにて御免。やつがれの名はネッコ。どうか連れて行っては頂けませんか」

「連れてく連れてく! はいこれどうぞ!」

「おやこれは。かたじけない」


 こうしてモモ子たちは荒波もなんのその、ヶ島がしまへと上陸するんだよね。

 そして決戦を控えたその夜。すでに皆は先に眠っていて、一人になったモモ子はちょっとだけホームシックになってたみたい。

 そんな気持ちのまま、目がさえて海岸沿いを歩いていたモモ子は、たそがれるようなある姿を見つけたの。


「あなたも眠れないの?」

「いいえ。一つよろしいですかモモ殿。……この中に裏切り者がいます」

「うそ。そんなわけないでしょ! 皆に平等にきびチロルを分け与えてるのに!」

「それでも、やつがれにはわかります。不満を持つもののよどんだ気配を感じ取れてしまうのですよ。ですからそれを……いや。これ以上は語りますまい」


 言い終えるとネッコは、他のメンバーが雑魚寝をしている焚き火へと戻っていくの。


「それはどういうこと? ねえ、待ってよ!」

 モモ子のその声に振り向きもせずにね。



 決戦当日。

 そこそこの激しい戦いをしてオッニの眷属けんぞくたちを黙らせた直後、サッルとキッジがあっと言う間にやられてしまったの。

 その二人のもとへと駆け寄ったモモ子は、涙を浮かべながら手を下した者の方をにらみつけて言うの。


「ひどい、なんてことを……あなた裏切ったの、イッヌ!?」

「モモ子よぉ……きびチロル、ネッコにだけ一個多くやっただろ。元はと言えば先に裏切ったのはお前だろうがよ!」

「な、なにいってるのかなぁ~? わたし知らない。知らなーい!」

 ぷすーぷすーと、明らかにスカスカの口笛がモモ子から鳴る。あ、これやってんな?


「フン、まあここまで来たらどうだっていい。オッニさんこちらです」


 それを合図にオッニが岩陰から姿を現してしまったわけ。


「ご苦労だったなイッヌ。さあて、モモ子よ、ここがお前の墓場と知れぇい!」

 大地が大きく震えたよ。

 その者は、明らかに殺傷能力の高そうな棍棒をドシンと叩きつけたからね。


「オッニ、あんただけは……許さないんだから!」

「だったらどうなるって言うんだ、己の手を汚さぬ卑怯者がっ! ちなみに俺を倒すと、もれなくこの島の全員がぶっ倒れるぜぇ!」

「やっちゃえ、ネッコ!」


「うおおおおおおおお、またたび神拳!!!!!」

 もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃあ。


「あっそれやめて。痛くはないけど何かつらい! あれ……ちょっと聞いてる? その葉の部分でもしゃってするやつ往復しないで! いやマジで聞けよネッコ貴様あああああ!」


 何かよくわからないんだけどね、圧倒的な力で心に潜む悪をめっ☆したみたい。

 それからモモ子は、改心したイッヌとオッニを含む全員を自宅に招いて、仲直りと称してどんちゃんのパーリーをストゼロでオールナイトロングしたみたい。あらあら、ゆうべはお楽しみでしたね。


「「「「「飲み明けのラーメン最高~! おかわり!!」」」」」

「いや、そろそろ帰って?」


 その数年後、成人したモモ子は独立して飲み屋をオープンしたとかなんとか。

 めでたしめでたし。

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モモ子とヶ島のオッニ ひなみ @hinami_yut

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