新説巌流島~宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか~

デバスズメ

~宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか~

宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか。その答えは、誰もが知っている巌流島の決闘に隠された歴史だけが知っている。


「遅いぞ武蔵!」

「待たせたな小次郎!」


佐々木の待つ砂浜に宮本の小舟が到着する。あえての遅刻という作戦が功を奏したのか、すでに佐々木の心は落ち着きがない。


……いや、佐々木の心は別の意味で落ち着いていなかった。

「遅すぎて猫がどっか行ってしまうところであったぞ!」

「……猫?」


「おうよ。巌流島に住むこの猫よ。さきほど見つけて干魚をやったら懐かれたのだ」

「ブニャー」

「なんとも図太い鳴き声の猫じゃな」


「くくく……、この猫、図太いのは声だけにあらず。見よ、この堂々とした佇まいと凛々しい目を。もはやコヤツは一匹の武士よ」

「ブニャン」

「言われてみればそうとも見えなくもないが……」


「そうだろう。ここで合ったのも何かの縁。武蔵、今日の決闘、俺はこの猫とともに戦うぞ」

「なんだと!?」


「そう驚くことはないだろう。聞くところによれば宮本武蔵の真骨頂は二刀流ではなく、戦場において使えるものは貪欲に全てを使う勝利への執念だという。大方、今日もわざわざ遅れてきて俺の動揺を誘うつもりだったのだろう」

「ぐっ……」


「ならば俺も遠慮はせぬ。お前が遅れてくると言うなら武蔵、俺はお前が来るまでに己の武器をしかと磨いていただけのこと!」

「お主の武器は猫じゃなかろうが!」


「ほう?」

「儂の耳に届いておった佐々木小次郎は、物干し竿と呼ばれるくらい異様に長い刀を使うと聞く。正々堂々、刀で勝負をせぬか!」


「ほう……。そこまで言うなら武蔵、お前の武器だって、あの船に積んだやたら長い木刀ではないのだろうなぁ?」

「ぐっ!」


「お前のことだ武蔵、俺の燕返しの事を聞き、より長い獲物ならば破れると気がついたのだろう。しかし驕ったな、いや、さすがは武蔵といったところか。勝てる勝負の勝ちを確実にするためにあえて遅れてくる作戦は見事なり。だが、今回はそれが仇となったわけだ。この俺が、猫の手を借りた結果なぁ!」

「……なるほどのう。相わかった」


「む?」

「その猫がお主の武器と言うならば使うがいい。儂も遠慮なく燕返し破りの木刀を使わせてもらおう」


「いいだろう、行くぞ、猫!」

「ブニャア」

「ずるいぞ小次郎!猫を頭に乗せるなど!」


「知らんなあ、猫は気まぐれでな。さあ、どうする武蔵?猫ごと俺の頭をかち割るか?喰らえ武蔵!秘剣!燕返し!」

「小次郎、破れたり!」


「なに!?猫ごとぶっ叩くというのか!?だが、あ!こら!猫が!」

「ブニャン!」

「逃げるに決まっておろうが!頭がガラ空きよ!」


「ぐはあ!」

「……ふん。猫の手など借りるから負けるのだ。お前の完敗よ」


「ふふ……はっはっは!確かに折れの負けだ!だが……」

「だが?」


「俺はこうして生きている」

「……!!ふふ、なるほどなぁ。確かにお前は生きている。儂が木刀を使うことを分かっていても、それを確実にするために猫まで使って演技するとは、なかなかのものよ」


「いや、猫は演技ではない」

「なんだって?」


「猫を嫌いな者はそうそういないであろう」


……その後、小次郎は巌流島の猫を連れ帰って生涯可愛がったというが、その物語は隠された歴史だけが知っている。



宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか。その答えは、猫の手を借りたからである。


おわり


(諸説あります)

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