第7話 美丈夫と猫

 ジェイド様に仲間を集めて領地を作っちゃおう作戦を伝え、旅に出た。本当は遊びたい盛りのジェイド様は震えながら私を抱き締め、「ちゃんと帰ってきてね」ソプラノの声で目に涙を一杯ためていた。いじらしい姿にもらい泣きしそうになった。碧眼が潤んでずっと見ていたいわって思ったのは内緒。ジェイド様には常に笑っていて欲しい。


 勿論イヴリース様はジェイド様とオニキスさんに紹介した。

 「呪いの森で呪いをかけられて理性なき竜に変えられていたイケメンです」と。

 すぐに「なに、しがない魔族ですよ」と訂正されたが、イヴリース様、あなたはイケメンであってしがないと付ける必要などない生きる宝なんですよ!!!思ったが黙った。

 屋敷を案内して欲しいとオニキスさんに頼んだイヴリース様は、一通り見た後、私が話してしまったジェイド様の子細が本当かとオニキスさんに問い、是と聞くと

 「こんないたいけな少年をないがしろにするとは・・・!」

 全身から怒りの気配を滲ませたイヴリース様は

 「私がジンジャー君とここを王子が王に献上する領地にし、誰の目にも疑いようがないほどの才覚があると見せつけましょう!」

 胸をドンと叩いて見せた。

 「多少蓄えがあるので、道々稼いでいけばただただ貯まっていくでしょう。」

 では、行ってきます。

 

 ジェイド様の屋敷を後にし、イヴリース様の隣を歩く。とことこ歩くが、私に合わせて歩いてくれるイヴリース様の脚はモデルばりに長いから、自然と私の歩みは早くなる。というか、猫の歩幅と違いすぎるのだ。ちょっと疲れてきた。

 「歩きながら話そうか。ジンジャー君はケット・シーかい?」

 歩いたまんま首だけ右を向き、私を見下ろした。

 「えぇ、神がそうだと。ところで何故私が転生者と分かっていたのでしょうか?」

 「魔族だからね」

 「さいですか」

 「うん」

 転生者を見抜く慧眼があるならば、魔法についても造詣が深いのだろうか。聞くは一時の恥だね、聞いてみよ

 「あの、イヴリース様は魔法を使えますか?」

 「うん、使えるよ」

 「私を弟子にしてください!魔法を使えるようになりたいんです」

 拝むように両手を打ち合わせると、ぽむんとかわいい音がした。それを見てイヴリース様はにっこりというよりにへらって感じの緩んだ微笑みを浮かべていたことは私は知らない。

 「そうだね、君は魔法を使えるけど、使い方を知らないようだ。呪いを解いてくれたお礼に、ある程度使えるようにしてあげるよ」

 よし、言質はとったぞ。

 歩きながら、魔法を扱うための考え方や魔力の流れの操作方法を教わった。イヴリース様は口調こそ砕けた軽そうな人(魔族も人でくくっていいのかな?)だが、魔法の師匠としては厳格であった。スパルタと表現しても差し支えはない。

 呪いの森に囲まれたジェイド様の屋敷から歩いて数日、山間の小さい村、キティにやって来た。ここは盆地を生かした農畜産で栄え、小さい村とはいっても人数が少ないだけで、土地は広大な冬は雪に閉ざされるが、それゆえに肥沃な大地に恵まれた場所だ。人数が少ないということは、赤銅色の髪を持つ6尺を超す上背がある美丈夫と、その隣に二足歩行の猫がいたらあっという間に村を噂が駆け巡った。

 大道芸人にしては人数が少ないし、猫は護衛にしては頼りない。遠巻きに一人と一匹を眺めていた村人の内、好奇心に勝てなかった少年が近寄って誰何した。

 人を集めていることを伝えるも、キティの村人たちは老いも若きも農作業に従事していて手が空いていないこと、この先の町なら人口も多いし、

 「それに、あそこはあまりいい噂を聞かないんだ。路地裏に仕事にあぶれた人や、弱い立場の人が追いやられているとか・・・俺が言ったって言わないでくれよ?頼むよ」

 キティは通過するだけで、次の町・クレイを目指すことになった。

 クレイに行く前に、キティで情報をくれた男性に保存食と水を売ってもらった。勿論支払いはイヴリース様だけど。イヴリース様に村のご婦人がたが食べ物をたくさんくれたけど、お金を払おうとして「受け取って、いやお金はいらないから、ダメだから」しばらくやり取りをして、その半分を買い取って、残りは村に返すことで落ち着いた。 

 イケメンだけがちやほやされて、かわいい猫が目の前にいても放置されるのはちょっぴりムカッ。まぁ私は子供たちにもみくちゃにされたけどね。おもちゃとモテるのではちがうんじゃー!!深呼吸をして切り替え。

 次のクレイは何が待つのやら。

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