青空の下で

彩鳥るか

第1話

夏休み。まさに炎天下と言えるような蒸し暑い気温の中で、追い討ちをかけるように蝉の声が止まない。


そんな、キンキンに冷えた部屋でゆっくりダラダラしたいような日でも、休みなどないのが吹奏楽部だ。


教室の中は熱気が立ち込め、クーラーの存在意義は失われていた。


基礎練に飽きて廊下でぼうっと空を眺めてみた。真っ青に澄んだ空に白い雲が点々と浮かんでいて、私の鬱々とした心中など知るもんかと太陽が明るく照りつけている。



すると階段から足音が聞こえて、慌てて教室に入り譜読みをしているように見せかける。


「よう」と失礼な掛け声とともに、トランペット片手に入ってきたのは部長だった。


といっても尊敬できることなど欠片もなく、何故こいつが部長なのかはいまだに疑問である。


「なんか用?」


私が尋ねると、

「モチーフしようぜ。あと俺のソロも聞いて欲しい」

と、そいつは答えを聞く前に自分の席を用意する。


「りょうかーい」


気だるく返事をして、フルートを構える。

二人ともメロディの多いパートだから、合わせるのはいつものことで。

でも他のメンバー抜きで、二人だけで合わせるのはちょっと嬉しいと思った。そんなこと本人の前では絶対に言わないけど。


「やっぱソロんとこだけ聞いて。モチーフは時間ないわー」 

時計を見て、突然思い出したかのように言う。



「なんなんだよ」


フルートを机に置いて、膝を抱えて椅子の上に丸まって座る。

私が聴く体制に入るのを見て、そいつは何故か笑った。


そいつがトランペットを体の前に構えて、姿勢を正して音を出すその瞬間。

空気が変わって、チャラチャラしたいつものあいつはそこに居なかった。



ベルから華やかな金管らしい音が校舎全体に響いていく。

蝉の声も、他の楽器の音も全部聞こえなくなった。

ただその旋律が耳に、そして心に響いた。


ソロパートが終わって楽器を下ろすと、そいつはこちらを見やって

「どうだった?」と感想を強請る。

その表情は自信に満ちていて、私の言葉聞くまでも無いと胸を張っているようだった。


「いいんじゃないの?」


そうとしか言えなくて、でも気に食わなかったからやっぱり素っ気なく答えてしまう。


それでも「そっか」とにこやかに笑ったそいつは、こっちの気持ちなんかお見通しなのだろう。


「あともう一つ。言いたいことがあったんだけど」


「何?」

ちょっと気まずくて、顔を膝にうずめたまま横目でちらっとそっちを見る。







「好きだ」







大して大きくもない声だったのに、やけに響いて聞こえた。

顔にどんどん熱が集まっていくのを感じる。


そして、その言葉を発したこの世で一番ムカつくやつは、私の赤くなった顔を見て笑みを深くした。


そしてそいつの思惑通りにしか進められないことにムカつきながら、吐き捨てるように言った。





「私もだよ。バカ野郎」





窓の外には、私の心の中に反して穏やかに澄み渡った綺麗な青空が広がっている。


だから、そいつが嫌味なほどかっこ良く見えるのは、この空のせいだと思うことにした。

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青空の下で 彩鳥るか @hibiscus1128

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