イヌ猿キジが手を貸してくれないので猫の手を借りた結果

波土よるり

イヌ猿キジが手を貸してくれない……


 イヌと猿とキジを家来にするのは諦めた。


 うん、そもそも前提が間違っていた気がする。

 お婆さんにもらったキビ団子を交渉材料に、家来になって命がけの鬼討伐に来てくださいと交渉できると思ったのが間違いなんだ、きっと。


 というかそもそも野生動物に言葉通じないし……

 


 ことの発端は昨日。

 最近、鬼が悪さをしているということで、育ててもらったお爺さんとお婆さんから鬼の討伐を依頼されたのが始まりだ。


 鬼という生き物は本当に怖い。

 鬼といえば、パンツ一丁で暑い日も寒い日も大丈夫という耐暑性・耐寒性に優れている生物、という点でも有名だが、トゲトゲの棍棒を振り回して襲ってくる凶暴性がなによりもよく知られている。


 不定期で人間の村を襲っては金銀財宝を奪って鬼ヶ島という自分たちの暮らす島に持って帰るのだ。


 そんな恐ろしい生き物の討伐、当然私一人では荷が重い。


 私の任務を手伝ってくれる存在を探そう――。


 すぐに頭に浮かんだのはイヌと猿とキジ。


 イヌが仲間になれば、その凶悪な牙と顎で鬼のお尻に噛み付けば大ダメージだろう――。

 猿が仲間になれば、俊敏な動きと頭の良さで鬼を撹乱し、爪による攻撃でダメージを稼ぐだろう――。

 キジが仲間になれば、空中を自在に飛び回り鬼を翻弄し、くちばしで鬼の目を狙って攻撃しクリティカルダメージだろう――。



 完璧な人選、いや動物選だ。



 そう思っていたのに――、


 野良イヌに近づこうとすれば、その凶悪な牙と顎で私を攻撃しようと追いかけ回してくる。野犬怖い。

 猿に近づけば、俊敏な動きと頭の良さで私を撹乱し、あたふたするこちらを嘲笑してくる。ウザい。

 キジに近づけば、空中を自在に飛び回り私を翻弄し、腰につけたキビ団子をスリの常習犯のような鮮やかさで奪い去っていく。悲しい。


「はぁ~……」


 ため息しか出ない。

 どうしようか。


 出鼻を挫かれた私はとりあえず、一旦村に戻って態勢を整えようと来た道を引き返している。


「にゃ~ん」


 顎に手を当てて考えながら歩いていると、ふいに可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。


 鳴き声のする方を見れば、木陰に一匹の子猫が居た。

 短足でちっちゃな白色の毛の子。



 そう言えば隣りの家の猫好きの加奈子ちゃんが嬉しそうに教えてくれた種類の猫の特徴に似ている気がする。加奈子ちゃんが『短足な猫は珍しいの!』って力説してたから覚えてる。

 なんていう種類の猫だったかな…… 万華鏡?だったか、何とか木管だったか、たしかそんな名前の種類だった気がする。


 ふと頭をよぎる。


 この子を家来にするのはどうだ――?


 追い回して襲ってきた野犬や、こちらをバカにしてきた猿、お婆さんにもらったキビ団子を半分くらい盗んでいったキジとは違い、とても人懐こそうだ。

 少なくとも、むやみにこちらを攻撃してくることは無いだろう。


 いやでも……


 普通にこの子猫が鬼に勝つ姿が想像できない。無理くない?



「にゃ~ん……」


 なんだか今度は少し悲しそうな声を出す。

 どうしたのだろうと思ってよくよく猫を観察してみると、私が腰につけているキビ団子の袋を気にしているらしい。

 お腹でも減っているのかな?


「食べる?」


 袋からキビ団子を一つ取り出して手のひらに乗せて近づけてみる。


「ニャ」


 今度はとても嬉しそうに鳴いた。


 手のひらに乗せたキビ団子をちびちびと美味しそうに食べている。

 やっぱりお腹が空いていたらしい。


 おぉ、おぉ。

 美味そうに食ってまぁ~……

 イヌ猿キジに対して全然効果のなかったお婆さんのキビ団子だが、ここに来てようやく報われた。


 食べてる姿、とっても可愛いね。

 可愛いは正義。古事記にも載っている古くからのことわざ通りだ。


「にゃ~ん」


 子猫はキビ団子を食べて少し毛づくろいした後、私に寄って顔を擦り付けてきた。


 え、やだなにこの可愛い生き物は……


 可愛い……

 いや、尊いという気持ちもある…… あぁ、世知辛い世の中だと思っていたけれど、こんなにも満たされることもあるんだ……

 幸福。

 今、私はすごく幸福。


「ね、あなたウチの子にならない?」


「にゃ?」


「私のお爺さんとお婆さん、最近ペット飼いたいって言ってたし、私が鬼の討伐で家に居ない間、あなたがいれば寂しがることも無いと思うんだ。

 ね? お願い。私に力を貸すと思って」


「にゃ~ん…?」


 ああもう、首かしげてる姿もキュートすぎるんだが。


「野良で生活するよりもたぶん安全だし、ね? どうかな?

 嫌じゃないなら私の胸に飛び込んできてくれると嬉しいな~、なんて」


 そういうと、子猫は勢いよく飛び込んできて、私の腕の中に収まった。


 いいってこと……でいいのかな?


「にゃ~」


 子猫はそのまま私の腕の中ですやすやと眠り始めた。


 ……よし、連れて帰ろう。

 そしてこの子が安心して村で暮らしていけるよう、鬼どもをボコボコにしよう。


「あ、ていうか村の屈強な人を何人か誘って鬼討伐いけばいいじゃん。

 なんでイヌ猿キジとかいう畜生ちくしょうを真っ先に連れて行こうとしたんだろう私……」




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イヌ猿キジが手を貸してくれないので猫の手を借りた結果 波土よるり @339

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ