ねこのやま

夢裏徨

ねこのやま

「…………」


 もこもこが山になった床を見て、クルトはどうしたものかと頭を掻いた。

 久しぶりに訪れた家には、知り合いがいるはずだった。家の床にころんと転がっているか、家の外で日向ぼっこしているか、そんな辺りだろうと思っていた。こちらに向かう道中で何気なくカミ*に彼女の居所を聞いてみれば、「いるよ」との返答と共に意味深な笑みが返された。

 あの含んだ笑いは、これのことだろう。


「どうしたものかな……」


 誰に聞かせるわけでもない小さな呟きが思わず零れた。それを聞いたカミが、ころころと楽しげに笑う。彼らの笑い声を聞いている内に、まぁいいかという気になった。

 さて。埋もれているであろう本人を掘り出さなければならない。


「アルル、アルルってば。そこにいるんだろう?」


 一番上に乗っている灰色の毛玉を持ち上げれば、それがうにゃあと鳴く。大方、心地よい睡眠を邪魔された抗議だろう。だが、クルトは容赦せず、その毛玉を脇に置く。

 黒に三毛に茶トラにと次々にどかせば、次々に抗議と非難の鳴き声が上がる。爪まで出された日には、微笑ましいと思っていた表情に罅が入る。

 ぎろりと睨みつけ、最後に残った黒い布を床から引き剥がす。銀色の髪がさらりと流れた。


「そろそろお昼寝は終わりだよ」

「……ん」


 あれこれ剥ぎ取られて冷えたのか、もこもこ山の中心で丸くなっていたその人物はぷるりと身体を震わせる。そして目を擦りながら身を起こした。

 まだ寝ぼけている彼女の膝に、どかしたもふもふがすかさず陣取る。彼女が再び埋もれるのは、時間の問題のようだ。


「アルルに多頭飼いは無理だと思うよ」

「ち、違うもん」

「じゃあなんでこんなに猫がいるの。怒らないから言ってみなさい」


 むぅ、とアルルが不服そうな顔をする。背中で揺れる彼女の髪に、キジトラ猫が手を伸ばす。


「ねずみがね、食べちゃうの」

「アルルの貴重な書籍を」

「そう」


 思い出したら腹が立ってきたのか、いつものほほんとしているアルルの顔が膨れっ面になる。


「それで猫を」

「そう」

「こんなにいっぱい」

「そう……?」


 書籍を守るために連れてきた猫が、いつの間にか増殖したとい辺りか。頷きながらも首を傾げるあたり、匹数はおかしいと思っているのだろう。気付かない内に猫が増えるのはアルルだからないとも言いきれず、むしろ大いにありえるとクルトは納得した。


「猫の手を借りるのも、ほどほどにしようね」

「うん……」


 解せない、とアルルは膝上の白猫を持ち上げた。




——————————

*この世界での精霊のような存在のこと。

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